|    120828加筆訂正  1.私はこの問題に特に詳しいわけでもないし、TVもほとんど見ていない。  この問題についての情報源はほとんど朝日新聞と、インターネット記事だけだ。  しかもインターネット記事と言っても読んだ記事はただ「ゲンダイネット」の  「シリア政府が声明 山本美香さんの銃撃死に謀略説」  http://gendai.net/articles/view/syakai/138369  だけである。  にもかかわらず今回記事を書く気になったのは、常識的に考えてあまりにも偏った報道がばっこしているのに対し頭を冷やせと言いたいためである。    1.もちろん当HPは山本美香さんの死が反政府側による謀略だと決め付けるものでもないし、彼女を銃殺した人間がシリア政府側の人間だと決め付けるものでもない。  また彼女の死はシリア政府によって狙い撃ちされた可能性もあり、そうでない可能性もあると考える。  ただしどちらの可能性のほうが大きいかはこれからご紹介するとおりである。    1.非常に報道が偏っていると思われるのである。  たとえば、ビデオに次のようなことが写っていたという。  2人の男が歩いてくるのである。  そして彼女のほうを指差して「あそこに日本人!」と叫ぶ。  そのあと政府側の民兵による銃撃が始まるという。    ここからメディアは次のような結論を導く。  この二人は一般の住民のような服装をしていたが、実は政府側の回し者で、反政府軍の築いた陣地内にもぐりこんでいたスパイだったのではないかと。    つまり服装から判断する限りでは「反政府側の人間」のように見えるが実はそうではなかったと。    次に山本さんの事実上のパートナーであった同行した戦場ジャーナリストによると、「向こうから何人かの部隊が近づいてきた。はじめは自由シリア軍と思っていたが、先頭の人間がヘルメットをかぶっているのに気づき政府軍と分かったとき銃撃が始まった」と。  これも服装では政府側か反政府側か分からない。  反政府軍は政府軍から戦車やヘリコプターも奪ったという。ヘルメットを奪うこともできるだろう。    1.二人の「スパイ」は服装は反政府側だったが実は政府側だったと。  銃撃をやった部隊は服装は政府側だったがやはり政府側だったと。  何がなんでもすべて政府側のせいにされているのである。    1.しかし常識的に考えてみよう。メディアで流されている説によると、政府側は山本さんのシリアへの潜入をつかんだ。そこで何が何でも山本さんを殺そうと最低でも二人のスパイを敵陣地に送り込んだ。  そして山本さんを発見すると「あそこに日本人が!」と叫ぶ。  それらはことごとくビデオで撮影されている。  そしてついに山本さんを銃殺したあと、ビデオだけを残して山本さんのすべての所持品を奪った!  果たしてこういう狙い撃ちと言うものがありうるものだろうか?    1.そもそもシリア政府側は山本さんだけを狙い撃ちにする必要性がない。なんらメリットがないだけでなくデメリットしかない。  また日本人ジャーナリストだけを狙い撃ちにする動機も存在しない。  シリア政府に動機があるとすれば反政府側に同行しているジャーナリストをすべて狙い打ちにすればいいだけで、特に山本さんや日本人を狙う動機がないのである。    つまり「あそこに日本人が!」と叫んだあと部隊の銃撃が始まるという必然性がどうも私には理解できにくいのである。  本物のスパイであれば大声で叫ぶと言うこともしないであろう。  この二人は本当に政府側の人間だったのだろうか?    1.この事件には確かに謎が多すぎる。  第1の謎:朝日新聞120822によると、同行した佐藤和孝氏は言う。  「現場のすぐ近くは反体制派が封鎖線を引いていた。そんな場所で政府軍が撃ってくるとは想像できなかった」と。    ではなぜ「想像できなかった」のだろうか?  それは、「封鎖線」すなわち一定の陣地を構築しており、そこへ政府軍が近づけば政府軍側の被害が甚大であるため相当の大きな部隊でなければ近づけないと言うことである。    つまりアレッポでは政府側が封鎖線を築いている地区と反政府側が封鎖線を築いている地区とどちらでもない部分があり、山本さんと佐藤さんは反政府側兵士に同行して反政府側の封鎖線外側のごくごく封鎖線に近い部分で市民から取材を行っていた。    封鎖線の内部にはほとんど市民はいないと思われるから山本さんたちの判断はごくごく常識的であった。こういうやり方が極めて危険とは考えられない。    では何故こういう事件が起きたのだろうか?  政府側民兵が勇敢すぎたのだろうか?  それとも封鎖線を守る反政府側に重大な手落ちか油断があったのだろうか?    だがアラウイ派はスンニ派に比べ人口が少ないはずだ。だから勇敢さよりもはじめに空爆や爆撃などの物量作戦で徹底してつぶしてから突撃をかけるはずである。  つまり一番考えられる結論は、そもそもこの「封鎖線」なるものは、はじめから簡単に落とされるはずの場所に「仮に」こさえられた物だったのではないかということだ。  つまり政府軍陣地に非常に近いところで常識的に考えればそういうところに反政府側が封鎖線など設けるはずがないであろうところに何らかの目的に一時的に設定されたものだったのではないかと言うことだ。  あるいは封鎖線は本物であり、だから政府軍側はそこに現れるはずがなく、やはりあれは反政府派の偽装した部隊だったのだろうか?    1.第2の謎:つぎに朝日120822夕刊によると、「現場で見つかった小型ビデオカメラには、山本さんが撮影していた映像が残されていた」。  つまりビデオカメラは政府側兵士によって盗まれなかった。  しかし「山本さんの所持品の大半は行方不明になっている」。その中には「パスポートや携帯電話、財布・・」も含まれる。    更に朝日120825によると、「佐藤さんは、銃撃後、山本さんのビデオカメラを使って、政府軍らしい人物が映像を撮影した可能性があることも明らかにした。そこには「俺たちと同じ服装をしている」(注)「かわいそうに右腕をひどくやられたな」などと話す声が記録されているという」。    これも山本さんが政府側民兵にやられたとしたらおかしな話だ。  しかし山本さんをやったのが反政府側であり、山本さんの財布その他の「所持品の大半」を盗んだのも反政府側であったとしたら完全につじつまの合う話である。  つまり反政府側は山本さんが「狙い撃ちされた」と話を設定する必要があった。  だから大声で「あそこに日本人が!」と叫ぶ人間が必要だった。  だからビデオカメラを盗むわけにいかなかったのである。    1.第3の謎:そもそも山本さんの今回の取材の目的は何だったのだろうか?それはどういう意味を持っていたのか?  反政府軍に同行して住民に取材するのである。  ここで殺されている人は誰に殺されたのですか?  それは反政府側が殺して政府軍が殺したと見せかけたものですと正直に言えるものだろうか?  武器を手にしたテロリストが同行しているのである。    つまり戦場と言う危険な場所で、何らかの軍事集団に同行する形でしか安全な取材は不可能なわけだ。政府軍に同行すれば政府軍側に有利な取材が出てくるだろう。反政府側に同行しても全く同じである。    ただし反政府軍側は「6月にはダマスカス郊外で親政府系のニュース局アフバリーヤの局舎が反体制派の襲撃を受け、職員ら7人が死亡。8月上旬・・同局の取材スタッフ4人が反体制派とみられる勢力に拉致され、うち1人が殺害された」(朝日120821)というように敵側のジャーナリストを殺すのであるが、政府側が同じ政策を行っているかは不明である。    また政府側は「反体制派の支配地域で取材することについて・・「情報省の保護なしに取材する場合、(戦闘に巻き込まれる恐れがあるから)命の安全は保証しない」としていると言う(朝日120822)。    一方反政府側は、「われわれは外国人記者を歓迎するが、アサド政権の残忍な行為には責任を負えない」とする(朝日120821夕刊)。    つまり政府側は戦場は危険だからジャーナリストはあまり動き回るなと言い、反政府側はむしろじゃんじゃん来てくれと言う。  そしてゲンダイネットによると、  「実際、英国の「チャンネル4ニュース」の関係者は、シリアの反政府組織に同行取材した際、「危険地帯に連れて行かれ、(死ぬことで)プロパガンダに利用されそうになった」――と証言している」という  (「シリア政府が声明 山本美香さんの銃撃死に謀略説」  http://gendai.net/articles/view/syakai/138369)。    どちらが人命を尊重しているかは明らかだ。  そしてはじめの問いに戻る。そもそも山本さんの今回の取材の目的は何だったのだろうか?それはどういう意味を持っていたのか?  反政府軍に同行して住民に取材するのである。そこからは反政府側の「宣伝」しか出てこないことは明らかだ。  「それでも、危険を犯して取材をするのはなぜか。虐殺や人道被害では、現場で記者が取材することが真実にたどり着く限られた方法だからだ。それは虐殺を抑止する手立てにもなる。山本さんもそう信じて現場に向かったのだと思う」   と「名文」を書いた記者もいる(朝日120822石合力氏)。  現在多くの西側ジャーナリストが帝国主義・植民地主義の走狗としてシリアに潜入しつつある。その多くは反体制派の謀略にかかって命を落とすと思われる。  山本氏の行為も決して美化することはできないのだ。    (注)この「俺たちと同じ服装をしている」の言葉は何を意味しているのだろうか?1つの考え方として、山本さんがスンニ派のように女性が顔をベールで覆っていなかったとしたらアラウイ派に近いためこう発言したと。そのため佐藤さんがこう発言したのは政府側民兵であろうと考えたのだとも思える。しかしだとしたらますますビデオカメラをそのまま残したのはおかしいことになる。つまり反政府側が(罪を着せるため)こう発言しビデオに残したのだと考えられるのである。それが仮に正しいとしたら山本さんを殺したのも反政府側ということであろう。  もう1つ考えねばならないのは、果たしてビデオを何者かが撮影した目的はそれだけだったかと言うことだ。報道によるとこのような現地レポートと言うものは絶えず予定が狂うことがありビデオのフィルムだったかが不足することがあり山本さんは他社のレポーターにもフィルムを貸していたという。山本さん自身もフィルムが不足したかもしれない。その場合にはより重要な価値あるものを発見したとき、それまでの撮影済みのフィルムに重ね取りしたかもしれない。何者かが山本さんのビデオカメラで撮影した目的は、何らかの都合の悪い情報たとえば山本さんを近くで殺害した映像がフィルムに残ったためかもしれない。その場合政府側民兵ならばカメラを奪えばよいだけで重ね取りする必要はない。この点からも反政府テロリストが疑われるのである。    当HP中東史関係記事目次  http://blogs.yahoo.co.jp/oyosyoka803/41685618.html  民主主義と「失敗国家」シリーズ目次[1]  http://blogs.yahoo.co.jp/oyosyoka803/41172734.html  民主主義と「失敗国家」シリーズ目次[2]  http://blogs.yahoo.co.jp/oyosyoka803/41763636.html   |