思考録

個人の感想であり、効果・効能を示すものではございません。

かけ算の順序問題

はじめに断っておくと、私は 「順序」否定派です。

 

togetter.com

 上の togetter から、順序肯定派の方のこんなツイートを見かけました。

 

 

 

 とおっしゃっておりますが、児童生徒に国語を教える前にご自分が国語を勉強し直してはいかがでしょうかと言いたい気分になりました。

 

 

画像は教科書の指導書でしょう。

 

その文章を読むと、たしかに

「(1つ分の数)×(いくつ分)=(全部の数)」

「「○×□」のような計算をかけ算という(中略)「○の□つ分」ととらえさせることが大切である」

という記述はあります。

 

しかし、これをもって「かけ算の式には好ましい順序があり、その通り指導しなければならない。逸脱する生徒は矯正しなければならない。」とするのは明らかに行き過ぎですし、国語的に言うならば「自分勝手な読解」と言えるのではないでしょうか。

 

なぜか。

 

まず「実数のかけ算においては交換法則が成り立つ」というのはかなり常識的な数学の公理であり、指導書がその対象とする人間(教員)ならば100%知っていなければならないことです。それどころか交換法則は九九を初めて教える小学校2年生の算数の中の同じかけ算の単元の内に指導すべき事柄でもあります(学習指導要領確認済み)。

 

上に抜粋したかけ算の式についても交換法則が成り立つことは自明(実数を対象とし、行列などを対象としていないことは明らか)です。そういった前提のある乗法の式について、特に「順序を固定して指導しなければならない」とか、あるいは「そう指導したほうが効果的である」ということを伝えるにはその順序について明確に断りを入れていなければおかしいのです。

しかしそのような記述は画像中にも、また学習指導要領等や教科書指導書の自分が調べた範囲にも一切見当たりません。

 

「1つ分の数」と「いくつ分」という2項の順序(ないし左右の関係)は便宜上のものであることを前提に読み取るべきでしょう。

国語で扱うような文章でも、常識的に考えればその順序に意味がない単なる列挙に対して、もし児童生徒が勝手に意味をこじつけて解釈し出したら……先生方はなんと指導するのでしょうか。

 

 

www.asahi.com

こちらの記事の先生も、本来は意味をもたないかけ算の順序にわざわざ意味を持たせ、無駄にややこしくしています。

「タコが足2本じゃ変だね」というのがわかる児童なら、2x8で出てきた16でも8x2で出てきた16でも必ず「足が16本」(タコが16匹ではない)と正しく解釈できるでしょう。

 

指導書などから読み取れる乗法の初期指導上の注意点は単位を明確にすることです。

繰り返しになりますが、学習指導要領にも、その解説にも、式の構成についての注意は見当たりません。

 

「無い」ことの証明は悪魔の証明ともいい非常に難しいので、反証を示します。

 

 

小学校学習指導要領解説:文部科学省

上のリンクから「算数(2)」のPDFをチェックしてみましょう。

 

PDF上のページ21(通しページは81)は小学校第2学年について記述されたところですが、そこには「おはじき」を現したと思しき黒丸●が並んでおり、その下に「2×6 または 6×2」「3×4 または 4×3」と書いてあります。

 

左側の「2×6 または 6×2」に絞って述べるならば、明らかに「横に並んだ6つの黒丸」が「2列」あるように見えます。順序派の主張に従えばこれを表す式は「6×2」しか許容されないはずですが、図の下には「2×6 または 6×2」と記されております。

 

「AまたはB」において通常はAとBの順序に大きな意味はありません。ときに前者が優先、後者は許容ということも考えられないことはないですが……6×2は後者です。

 

さらにページ27(通し87)を見ると、交換法則について以下のような記述があります。

イ 乗法に関して成り立つ性質
「内容の取扱い」の(4)で「イについては,乗数が1ずつ増えるときの積の増え方や交換法則を取り扱うものとする」と示されているように,ここでは,乗法に関して乗数が1増えれば積は被乗数分だけ増えるという性質や,乗法についての交換法則について児童が自ら調べるように指導する
乗法九九を構成するときに乗数が1増えれば積は被乗数分だけ増えること,乗法についての交換法則などを活用し,効率よく乗法九九などを構成したり,計算の確かめをしたりすることも大切である

(※アンダーライン強調は本ブログ主による)

このページはまだ小学校第2学年の範囲内ですから、先に述べた通り乗法交換法則については小2の学習範囲であること、文章題への活用以前の「九九」を教える段階での指導項目であることは明確で、児童に九九の表を構成させる際にその活用も求められています。

しかしいざ乗法を文章題に活用する段になって「交換法則の活用は認められない」というような指導を行うのは、児童の混乱を招くばかりで指導上有用であるどころか有害であるとさえ考えられます。

 

 

「乗数と被乗数とがあって、計算結果の単位は被乗数のもの」と注意して教えることは絶対必要でしょう。先生が教える際に左右に気を使うのは構いません。しかし児童にまでその独自のこだわりを押し付けることは絶対に避けるべきです。

 

以上、こんなところにこんなことを書いて改心してくれる順序派の先生が居るとは全く思いませんが、私自信も一応は職業上小学校算数に関わりがありますので、指導の際は気をつけることに致します。