私のもう一人のお兄様がなんか変人 作:杉山杉崎杉田
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変なお兄様
私は司波深雪。今日から達也お兄様と一緒に魔法大学附属第一高校に入学します。そのために、今は制服に着替えて準備中です。
なのですが、入学するにあたって不安が二つあります。一つは、達也お兄様が二科生であること。そしてもう一つは、
着替え中の私の真後ろで腕を組んで仁王立ちしている、もう一人のお兄様の事です。
……この人は何をしているんだろう。一応、私と達也お兄様の一つ上の年齢で、国防陸軍第101旅団独立魔装大隊所属の軍人さん。
私はこの人のことは嫌いではないし、むしろ魔法師としては尊敬もしている。けれど、何を考えているか、何をしているのか、何がしたいのか、これらがさっぱり読めない人だ。
今私の後ろで突っ立って何を考えているか何をしているのか何がしたいのかさっぱり分からない。鏡越しに見えている表情を読もうとしても、まったくの真顔。というか、実兄でも堂々と着替えを見られるのは少し恥ずかしいのだけど……。少し文句を言ってやろうかしら……。
「あの、冬也お兄様?」
声を掛けると、小首を傾げるお兄様。
「何をしてらっしゃるのですか?そんな所で……」
「…………」
聞くと、お兄様は携帯を弄り始めた。ツイツイと弄ると、すぐにしまった。直後、私の携帯が震える。メールが来た。言うまでもなく冬也お兄様だ。
『気にするな、着替えを続けろ』
いやなんでメール?発声すればよろしいのでは?が、まぁそんな所を指摘してもこの人の奇人っぷりは治らない。
「あの、とにかく出て行ってもらえませんか?」
また携帯が震えた。
『やーーーだよーー∩(・ω・)∩ーーん』
やだちょっとイラッとした。でもダメよ。こんな事でいらっとしちゃ。どうせ兄妹なのだから、見られて恥ずかしいことなんてないの。ほとんど。
「はぁ……もういいです」
無視すればいいのよ私。そう心に決めて、制服を羽織ろうとした時、カシャッというシャッター音が聞こえた。
「っ!? と、撮りましたね今!?」
「ッ!? ………!」
急に焦ったような顔をして首を横に振る冬也兄様。無駄に演技が上手いのが腹立つ。額に汗まで浮かばせている。
「嘘です!その手の携帯は何ですか!?」
『これは会話用だ!』
知るか!ていうかなんで喋らないのよこの人!腹立つ!
「知りません!撮ってないというのなら携帯を見せてください!」
『プライバシーの侵害だ!』
「知りません!てかメールやめて下さい!」
『とにかく携帯は渡さねぇ!』
今度はどこから持ってきたのか、ホワイトボードで書いてきた。
「いや発声して下さいよ!どうして寡黙に徹するんですか!」
「…………」
注意すると、一度黙った後冬也お兄様は口を開いた。
『なーんちゃってー(・Д・)ノ喋るとでも思った?www』
今のはダメだ。ハイパーイラっとした。私はCADを取り出して魔法を使おうとした。が、いきなり土下座し始めたので止めた。この兄、達也お兄様と違ってほんとヘタレね。
『すいませんでした。調子に乗ってました』
「そう思うならメールでもホワイトボードでも、ついでに手話でも身振り手振りでもジェスチャーでもなく口でお話しして下さい」
「だって俺が話すとお前固まるだろ?」
「…………」
卑怯だ。こんなよく分からない人でも、声とついでに顔だけは俳優並みにカッコいい。これだけはお兄様に勝るのかもしれない。まぁ性格とかその他諸々は劣るのだけれど。
「ほら、固まってる」
「うっ……!か、固まってないですよ!」
『だから俺はこうして会話をするのだ』
「そのホワイトボードはしまって下さい不快です」
まったく、本当にこの人の考えてることや行動が理解できない。……って、しまった!
「そんな事より写真消してください!」
「おっと」
私は冬也お兄様の携帯に飛び付いた。しかし、ひょいっと自分の頭上に携帯を逃すお兄様。
「やだよ。これは達也に売るんだから」
「消ーしーてー!」
「はーっはっはっはっ!届かないだろう!」
お兄様にだけは見せられないわ!背中だけとはいえ下着姿なんて……!
「あ、ちなみに鏡のお陰で、こう……いい、いい具合にお前の正面の裸も映ってっから」
「尚更返して下さい〜!」
ピョンピョンと冬也お兄様の頭上に手を伸ばしてジャンプするが、届くはずもない。でも、それでもあの携帯だけは奪わないとダメ!
「こんの……いい加減にして下さい!!」
怒鳴りながら、より一層大きく飛んだ。
「ちょっ、あぶねっ……!」
だが、私はバランスを崩し、冬也お兄様を押し倒してしまった。
「うおっ」
よし、これで後は携帯を奪えば……!そう思った直後だ。ガチャッと扉が開く音がした。
慌てて振り返ると、達也お兄様がいた。
「深雪、もうすぐ入学し……」
「」
「いやん!深雪ったら大胆♡」
余計なことをほざく冬也兄様にツッコミを入れることもできずに私は固まった。一番見られてはならないところを、一番見られたくない人に見られた。心の中で滝のように汗を掻いていると、達也お兄様がドアを閉めながら言った。
「………邪魔したな」
閉じられたドアが立てたパタンという音は、私とお兄様の仲を割くように聞こえた。
ほとんど放心状態でそのドアを眺めていると、私の下にいる冬也お兄様が呟いた。
「………腹減ったな」
とりあえず、この人を兄と呼ぶのは今日までにしよう。