通常国会が召集された。安倍晋三首相は施政方針演説で毎月勤労統計の不正を陳謝したが、背景には行政を監視すべき国会の機能不全がある。国会は自らの役割を再確認し、その力を見せるべきだ。
国政全般にわたって今後一年間の基本方針を示す施政方針演説。安倍首相にとっては二〇一二年の第二次内閣発足後七回目である。
首相は演説の約三分の二を社会保障や成長戦略、地方創生など内政、経済に充てた。
四月の統一地方選や夏の参院選に向けて引き続き経済重視の政権運営に努める姿勢を示したのだろう。五月の新天皇即位も控え、政治的混乱を極力避けるため、政府提出法案も五十八本に絞り込んだ。
その中で新たな論点に浮上したのが、厚生労働省の「毎月勤労統計」の不正調査問題である。首相は「セーフティーネットへの信頼を損なうもので、国民の皆さまにおわび申し上げる」と陳謝した。
行政府の長として不適切な行政を謝罪し、原因究明と再発防止、雇用保険などの過少給付分の支払いに努めるのは当然だ。
全数調査すべき対象事業所の一部を調べない不正調査は〇四年から行われていたが、国会は十年以上その隠蔽(いんぺい)に気付けなかった。その間、政治刷新の機会でもある政権交代が二回あったが、不正発覚には至らなかった。
政府の五十六基幹統計のうち二十三で不適切な処理が発覚したのも、勤労統計不正を機に調べ直したからだ。国政の調査や行政監視の機能を託された国会の機能不全を指摘せざるを得ない。
当面の問題処理に当たる責任は現政権にあるとしても、国の政策立案の基本となる統計を巡る不正は国会全体の問題である。与野党を超え、国政の調査や行政監視の機能をどうしたら強めることができるのか、真剣に論議すべきだ。
第二次安倍内閣以降、行政文書やデータの不祥事が相次ぐ。森友問題を巡る決裁文書改ざんや裁量労働制に関する不適切データの提示、自衛隊海外派遣部隊の日報に関するずさんな文書管理、障害者雇用の水増し、そして今回の統計不正だ。こうした不祥事の連続も国会が軽視され、政府提出法案を成立させる「下請け機関」と化したからではないのか。
国民代表として国政を調査し、行政を監視する。その意味を胸に深くとどめて、役割を果たすべきだ。民主主義を生かすも殺すも、議員一人一人の意識次第である。
この記事を印刷する