第824号 December.11,1997


「スクルージ」

もうすぐクリスマス。パーティ、スキーなど、クリスマスにはいろいろな予定を立てている方も多いだろう。でも、そんなクリスマスだからこそ観ていただきたい芝居がこの「スクルージ」だ。

イギリスの作家、チャールズ・ディケンズの名作「クリスマス・キャロル」はつとに有名だが、それを2幕のミュージカルにアレンジした作品。

クリスマス・イブでも借金の取り立てをしている冷徹な金貸しのスクルージ。彼にとってはこの世の中でお金だけが唯一信用のおけるものであり、そのためには人のことなど考えない。そんなスクルージが、精霊によって自分の未来の姿を見せられ、本当の自分を取り戻し、「愛」と「生きる喜び」に目覚めるというストーリーだ。

94年に初演されているが、今回で2回目のスクルージを演じる市村正親が、感動的にこの芝居を唄い上げる。劇団四季を退団以来、ミュージカル、ストレート・プレイ、時代劇と幅広い活躍でいつも高い成果を残している市村だが、今回の舞台も再演でよく練り上げられている。老け役なのでファンには気の毒だが、前半の冷徹な人間性と、生きる喜び、人を愛する喜びを知ってからの人間性の演じ分けが丁寧で、この俳優自身の持つ優しさが良く現れている。

まわりを囲むアンサンブルも、スクルージの使用人・クラチットの岸田智史をはじめ、特に子役たちが素晴らしい。数々のミュージカル・ナンバーも耳に心地好く、劇場の帰りに口ずさみたくなる。恋人同士でも家族でも楽しめる作品だ。

「愛」とは何か、人間とはどう生きるべきかをさりげなく教えてくれる、心暖まるミュージカル、クリスマスに自分の心へのプレゼントには最高の作品である。

(よ)


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