ネイア・バラハの冒険~正義とは~ 作:kirishima13
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ネイアたちが聖王国西部で私闘を繰り広げている頃、北部城壁へ向けて多数の亜人が集まっていた。その軍勢は1万を超えている。亜人の種族は
その持ち前の脚力を活かし、進軍の速度が速く、聖王国が防御態勢を整える前に城壁へとたどり着き鋭い爪を使って登り始めたのだ。聖騎士たちが到着したころには内部に入り込まれ敵味方入り乱れての乱戦となっていた。
そんな中、颯爽と現れたのが聖騎士団団長レメディオス・カストディオだ。整った顔立ちをした茶髪の女性だが、眼光は鋭く冷たい雰囲気を醸し出している。そして彼女の代名詞ともいえるのはその手に持つ聖剣だ。四大聖剣の一つ聖剣サファルリシアは敵の属性が悪に傾いているほどその効果を現すといわれている、
レメディオスは瞬く間に内部の獣身四足獣を駆逐すると、指示を出す。
「正門を開けろ!敵を一極に集中させるんだ!正門から入ってこられる数には限りがある。順に倒していくぞ!」
しかし、それは自分より強い個がいない場合にのみ使える作戦だということをこの後レメディオスは思い知らされることとなる。
♦
北の城壁へとたどり着いたネイアは弓で獣身四足獣を倒しつつ門を目指した。聖騎士はそこに陣取り入り口を死守しろとの命令だったからだ。そして城壁の上から門を見下ろしたネイアの目がレメディオスをとらえる。
レメディオスが相手をしているのはひと際体つきが立派な亜人であった。双方とも傷だらけであり、壮絶な死闘が繰り広げられていたと思われた。周囲の亜人も聖騎士も手を出すことなく二人の戦いを見守っている。
「これで終わりだ!《聖撃》!」
レメディオスが吠えると聖剣を亜人に向かって振り下ろす。周りの聖騎士たちが勝利を確信し歓声を上げた。
しかし……その一撃を食らった亜人はさして負傷を負うことはなかった。
「《聖撃》が効かないだと!?そんな馬鹿な!」
《聖撃》は相手の属性が悪に傾いているほど威力を発揮する。だとするとこの亜人は悪ではないのだろうか。茫然としているレメディオスの胸に、逆に獣身四足獣が爪を突き立てた。バッと血が舞いレメディオスは倒れ伏す。
「聖王国最強の騎士、レメディオス・カストディオはこの魔爪、ヴィジャー・ラージャンダラーが討ち取った!」
倒れたまま起き上がらないレメディオスを見て、歓声を上げていた聖騎士たちが黙り込み、逆に獣身四足獣たちから歓声が上がる。
「魔爪!」「魔爪!」「魔爪!」
勢いづいた獣身四足獣たちに入口の陣が破られる、そう皆が確信したとき、そこに漆黒の全身鎧を纏った戦士が現れる。
「漆黒だ、漆黒のモモン殿だ」
「漆黒が来てくれたぞ!」
途端に聖騎士たちから漆黒コールが巻き起こる。
「おまえは……その漆黒の鎧!知っている!知っているぞ!漆黒のモモンだな!ははははっ!こいつはいい。最強の聖騎士に続き、最高の冒険者まで俺の引き立て役になってくれるとはな」
「なんだ?そんなに手柄が欲しいのか?」
「それもあるがやはり強い奴に挑むこと、これより勝る楽しみはないだろう。お前たち!手を出すなよ。さあ、来い!」
周りの
「そんな体で俺に勝てるとでも?」
「目の前に強敵とわかる相手がいるんだ。そんなこと関係あるものか」
モモンガはあごに手を当て、考え込むとどこからかともなく瓶を取り出しヴィジャーに向かって中をぶちまける。
「なっ!毒か!?卑怯な!」
「違う。よく見ろ」
「傷が……ポーションか?な、なぜそんな真似をする。お前馬鹿なのか?」
「強いやつと戦うことに勝る楽しみはないんだろう?だったら全力のお前を相手にしてやる。さあ、かかってこい」
背中から2本のグレートソードを抜き、モモンも構えをとる。
「ふっ、ふははははは!モモン!貴様と戦えたことを亜人の神に感謝するぞ!」
そこからは剣と爪がぶつかり合い、入り乱れる英雄同士の戦いであった。人間も亜人も手を止めその戦いに見入り誰一人言葉を発しない。金属同士がぶつかるような音が鳴り響き、大地がめくれ大気が揺れる。延々とその状態が続くかと思われたがヴィジャーが出した切り札が均衡を崩す。
「武技《剛爪》」
ヴィジャーの爪が目に見えて鋭さを増し、モモンガへと襲い掛かる。鉄の鎧を着た戦士だろうと鎧ごと切り裂き、何者も防いだものはない必殺技だ。
だが、モモンはさらにその上を行く。グレートソードでその爪を切り飛ばしヴィジャーの体が袈裟斬りに切り裂かれる。
「ぐぅ……」
ヴィジャーは膝をつくとグレートソードを突き付けるモモンを睨み上げた。
「俺の……魔爪が……」
「終わりだ」
「そうか……そうだな……確かに終わりだ。ウオオオオオオオオオオオオオオンッ!」
突然ヴィジャーが耳をつんざくようなうなり声をあげた。するとどうだだろう。獣身四足獣たちが一斉に引き揚げ始めたのである。そしてヴィジャーは傷ついた体を引きずるように立ち上がると門を塞ぐように構えをとる。
「そうか、仲間を逃がすためにお前が盾になる……か。ヴィジャーよ、お前死ぬ気か?」
「そんなんじゃねえ。俺は負けねえ!ここで・・・・・・お前を倒すのにあいつらが邪魔だっただけだ!」
そんなわけはない。必死に門を通すまいとするヴィジャーの行動は撤退していく仲間に被害を出さないように壁となり、盾となり自分が犠牲になろうと助けようとするそれであった。
(亜人が……仲間を助けようと?たった一人で?そんな英雄的な行動を?)
ネイアはヴィジャーがとったその行動が聖騎士として教えられた亜人像とかけ離れていることに驚きを感じる。
「その友のために自分の命を捨てること、これよりも大きな愛はない。ヨハネの福音書だったか?ふふっ、ヴィジャー、次やったら俺に勝てるか?」
「勝てる!俺は負けない!」
「そうか、では強くなってまた来るのだな」
モモンガはそう言って剣を鞘に戻した。
「なっ、貴様!この俺に情けをかけようというのか!」
「そうだ。弱いお前に情けをかけてやろうというのだ。悔しかったら強くなって俺を倒すのだな。いつでも相手になってやろう。だが……そうだな。お前も仲間が犠牲になるのは本意ではあるまい。この国を攻めるのは俺に勝ってからにするのだな」
「お前に勝てるまで戦争をやめろと?」
「どちらにしても俺に勝てない限り戦争にも勝てはしないぞ?どうだ?」
「くっ・・・・・・くはははは!」
ヴィジャーは傷に響くにも関わらず笑い続ける。笑いすぎて息も絶え絶えになりそうなほど笑ったあと、両手を挙げた。
「参った。俺の負けだ負け。モモン、お前人間にしておくには惜しいな。どうだ?俺たちの国で俺の代わりに王にならないか?」
「それも悪くはないが……やめておこう」
「そうか。いいだろう、お前に勝てない限りこの国は……もう襲わん。だが、お前には挑み続けてやるからな」
「ああ、約束は守ろう」
漆黒の戦士と獣はお互いに笑いあい、ヴィジャーはモモンに背を向けた。
―――その瞬間
白銀の刃が走りヴィジャーの首が地面に落ちる。崩れるように倒れるヴィジャーの体の背後には聖剣を血に濡らしたレメディオスの姿があった。レメディオスがヴィジャーの首を背後から切り飛ばしたのだ。
「レメディオス団長!何を!」
思わずネイアは叫ぶ。亜人の一種族との戦争が終ろうとしたのに何をするのかと。
「はぁー……!はぁー……!モモン!貴様なぜ亜人を見逃そうとする!貴様には正義の心はないのか!」
「正義?正義って何ですか!せっかく戦争が終わると思ったのに!」
「黙れネイア!正義とは聖王女カルカ様の目指す誰も泣かない世界を目指すこと!聖王女様こそが正義!すなわちカルカ様が敵と定めた亜人を駆逐することだ!」
「でも!」
「もういい、やめろネイア」
モモンガがネイアの肩をつかむ。
「モモン、貴様を聖騎士にしたいと上は思っているようだが、とんだ見当違いだ。貴様のようなやつに聖騎士を名乗る資格はない。うぐぐっ……」
「団長!早く怪我の治療を!」
「おい!ケラルト様を呼んで来い!」
レメディオスはほかの聖騎士たちに連れられて去っていく。
聖王国を襲った敵とはいえ仲間のため、最後の一人になっても壁となり、勝てない相手の前に立ちはだかった亜人の王、そしてそれを背後から斬り捨てた聖騎士、ネイアにはそのどちらに正義があるのか分からなくなった。
♦
そんな中、聖王国大会議の開催が発表されることとなった。聖王国の王族、大貴族の代表らが集まり、国としての方針を議論する会議であり、その会議が開かれることとなったきっかけはスレイン法国からの使者がきたことにある。
使者の名はニグン・グリッド・ルーイン。そして、その場には法国の要望により冒険者組合長や冒険者モモンも意見を聞くために集められている。
聖王女カルカのそばには聖騎士団長のレメディオス、そしてその妹のケラルトが控えている。そしてネイアはレメディオス後ろに聖騎士団長付きの一人として付き従っていた。
そんな中、聖王女カルカの挨拶により聖王国大会議の開催が宣言される。
「皆さん、お集りくださいましてありがとうございます。ここに聖王女カルカ・ベサーレスが聖王国大会議の開催を宣言いたします。では、今回の議題についてですが、ニグン殿、お願いいたします」
ニグンと呼ばれた男は丁寧に一礼をする。黒いローブを纏い、頬に傷があるが、その顔は人ごみに埋もれてしまうような平凡なもので、その黒い瞳は感情を感じさせない。
「はじめまして。聖王国の皆様。私はニグン・グリッド・ルーインと申します。最近の皆様のご活躍には我が法国にも轟いております。このところ亜人からの侵攻に対して負けなしとは、いやはや恐れ入りました」
「ははは、ニグン殿も口がうまい」
諸侯から軽口が飛ぶがニグンは気にした素振りも見せない。
「それも皆様方や聖騎士様方そして冒険者モモン殿のお力でしょう」
諸侯やレメディオスは得意げな顔をするが、話を振られたモモンガは会釈をするだけだ。
「そこで、我々法国は考えたのです。今こそ我々亜人に苦しめられる人々が手を取り立ち上がる時ではないかと。我が法国も腹を決めました。人類の脅威である亜人どもを完全に殲滅するための《聖戦》をともに立ち上げることに!」
おおっ、と言うどよめきが起こる。
「素晴らしい。亜人どもなど我らが手を組めば容易く滅ぼせるでしょうな」
「いかにも。人類最強国家たる法国に我らの力が加われば敵なしでしょう」
「ニグン殿の名は歴史に残ることになるでしょうな。人類の救世主として」
主に南部貴族の諸侯からのそんなおべんちゃらが飛び交う場にて、さらにニグンは続ける。
「我ら法国も精鋭部隊を用意するつもりです。そこでお願いなのですが、この戦いにはぜひカルカ様に先陣をお任せしたい」
「何を言われる、ニグン殿!」
驚いたのは聖王女の側近たちだ。ケラルトが声を上げるが、ニグンに遮られる。
「聖王女カルカ様自らが戦地に赴くのが危険というのは分かります。しかし、今回の戦は《聖戦》です。国のトップが聖戦の旗印となり赴く必要がございます。それに私どもは信用しているのですよ。この国の誇る聖騎士の皆様を。皆様でしたらいついかなる場合でもカルカ様をお守りいただけるのでしょう?」
ニグンの挑発を挑発とも分からずレメディオスが胸を叩く。
「もちろんだ!カルカ様は私が命を懸けてでもお守りする!カルカ様お任せください!このレメディオス・カストディオ、亜人どもの指一本カルカ様には触れさせません!」
「それは素晴らしい!周辺国最強たる聖騎士レメディオス様でしたら間違いありますまい。それに冒険者モモン殿もいらっしゃる。ともに亜人どもを駆逐してやりましょう」
「そうですな。レメディオス殿にモモン殿がいらっしゃれば間違いあるますまい。ですよね?モモン殿?」
そうだそうだと囃し立てる諸侯の声の中、モモンが冷たい声で口を開く。
「私がその戦いに参加することはない」
「なっ、怖気づいたのですか、モモン殿ともあろう者がそのようなことを言おうとは」
「私は冒険者だ。冒険者は人類の守り手。侵略や虐殺に加担することはない。ですよね?組合長」
「それはそうだが……」
モモンガに痛いところを突かれ、冒険者組合長は顔を渋らせる。モモンガの言っていることは正論ではあるが、この場にいる貴族たちの理解を得られるはずがない。
「亜人に対する侵攻が侵略や虐殺だと?」
「違うとでも?私はこの国に攻め込む敵から民を守るためでしたらいくらでも戦おう。だが、こちらから亜人の集落を襲撃し、女子供に至るまで虐殺するつもりはない」
「亜人に女も子供もあるまい」
「皆さん、落ち着いてください。モモン殿、参加したくないというのであれば冒険者のあなたに強制することはできません。しかし、これ以上血を流さないために私でよければ戦場に立ちましょう」
場が騒然とする中、カルカがそれを鎮める。貴族たちは納得はいかずとも不承不承に黙り込む。しかし黙らないものがただ一人。
「愚かな」
モモンガであった。場が静まり返り、そして続いて怒号が飛び交う。最も怒り心頭なのはレメディオスだ、顔を真っ赤にして拳を振り上げる。
「貴様何と言った!カルカ様が愚かと言ったのか!?それともほかのやつのことか!?」
「姉さんちょっと黙って!」
「いくらなんでも無礼であろうが!」
「この国に亜人を殲滅しきるだけの戦力はない。それは法国の戦力を加えてもだ。それにこれ以上亜人を追い詰めてみろ。彼らは死ぬ気で抵抗してくるぞ。追い詰められた鼠を侮ることなど愚かだと言ったのだ」
「ケラルト。どういうことだ?」
「あとで説明するから姉さんは黙っててください」
ネイアにはモモンガの言っていることがよく分かった。終わりなき侵攻に晒され続けたこの国に攻め入るだけの力がないことは明白だ。さらに防衛であれば城壁と言う地の利を活かして有利に戦えたが、今度は逆だ。地の利は亜人にある。
「ニグン殿、この度の提案は本当に亜人の殲滅が目的なのか?」
「モモン殿。何を言われたいのかな?」
「私の調べたところによるとこの国への亜人からの侵攻は止まった。だが、亜人たちの人間への攻撃がやんだわけではない。攻め込んでも返り討ちに合う聖王国から別の国、そう貴国の辺境へと攻撃対象を変えただけだろう。そして貴国はエルフ国との戦争中でありそちらに回す戦力がない。だから亜人の攻撃先を聖王国に向けさせようとしている、というのはどうだ?」
(妖精のあいぼーるこーぷすさんで調べたのかな?)
ネイアはぼんやりとそんなことを考えていたが、周りの怒号は止まらない。しかし、それでも何とかカルカがお互いをとりなす。
「それは言いがかりだろう!」
「いくらなんでも法国に失礼だ。謝りたまえ!」
「皆さん落ち着いてください。モモン殿もこの国を思っての発言でしょうが、証拠もなしにそのようなことを言うものではありません。先ほども言いましたとおり、私でよければいくらでも皆さんのため、誰も泣かない世界を作るためならば戦場に立ちましょう」
「誰も泣かない世界を作る?だが、誰も泣かないと言うことと誰の意見でも聞き入れることは違う。この場にいるものすべてが聖王女のあなたを快く思っているわけではないかもしれない。あわよくば亜人討伐の際打ち取られ、自分がこの国の支配者になろうとしている者もいるかもしれないのだ。軽率に戦場に立つなどと言うべきではない」
「モモン殿!あなたは何様のつもりか!無礼にもほどがあるであろう!」
南部諸侯が顔を真っ赤にして唾を飛ばす。私がその支配者になろうとしているものですと宣言しているようなものなのではとネイアには思えた。
「そしてそうなる可能性は濃厚だ。追い詰められた鼠は猫をもかみ殺す。駆逐されると分かった亜人たちは死に物狂いで抵抗してくるぞ。そして生き残った亜人たちはこの国への恨みを未来永劫忘れまい」
「それこそすべて駆逐してしまえばよいではないか。そうすれば将来の不安などなくなる」
「この国にそこまでの力はない。どれだけの亜人がいると思っているのだ」
「もういい!そこの無礼者を叩き出せ!」
「いや、王族を侮辱したのだ。処刑も検討に入れるべきですな」
貴族たちが不穏な発言をし始める。ネイアにはモモンガの考えがよく理解できたのだが、彼らには分からなかったのだろうか。危険な亜人の地の戦場へ勝算もなく国のトップを立たすなど誰が考えてもおかしい。
それとも分かっているからこそモモンガを罵倒しているのだろうか。この国を、そしてカルカ様を想ってのモモンガの進言に心無い罵倒が浴びせられるのにネイアは我慢できずに口を挟む。
「待ってください!モモンさんはこの国を想って意見を言ってくれただけでしょう!」
「おい!ただのおつきの聖騎士風情が口を出すな!」
「いいえ、いいのです。ネイア。言いたいことがあるのでしたら発言を許可します」
「カルカ様……」
誰にでも優しいカルカ様はネイアにも発言を許してくれるらしい。
「私にはモモンさんの言ったことがよく分かるんです!亜人が攻めてこないのであればこちらから攻めることないじゃないですか」
「その間に奴らは戦力を蓄えているかもしれないのだぞ」
「そうじゃないかもしません。それに……こちらが力をあるのを見せつけたのです。もしかしたらこちらから手を差し伸べれば和平への道も開かれるのではないでしょうか」
「和平だと!亜人と和平だと!」
「ネイア、団長の私に恥をかかせる気か!!」
レメディオスが恐ろしい目で睨みつけるがネイアは止まらない。そもそも団長は話を理解できているのかさえ怪しい。
「いえ、ですがモモンさんはそういったことを言いたいのでは……」
「もういい!貴様もモモンと同罪だ!出ていけ!」
その後、怒り心頭のレメディオスはカルカの手にも負えないらしく、モモンとネイアは議場から退出することとなった。
♦
「ニグン殿お騒がせして申し訳ございません」
「いえいえ、女王陛下が謝罪することなどございませんとも。様々な意見があってよろしいかと思いますよ」
「そう言っていただけると助かります。さあ、議題を進めましょう」
「ええ、そうですね。モモン殿が心配された亜人を殲滅するだけの力があるのかという問いですが……切り札はあります」
「切り札ですか?」
「ええ、持参しておりますので実際にご覧ください。これを聖王国へ進呈することで信頼の証としていただけないでしょうか。おい、あれをここへ」
「はっ」
ニグンの部下が布に包まれたそれを得意そうに議場の机へ広げる。中から現れたのは一振りの剣であった。鞘から抜かれたそれは恐ろしいほどの力を感じさせる魔法の輝きを放つ透き通った刃を持っている。
「これこそ人類最高の神剣、斬り裂けないものはこの世には存在しないといわれる至宝『