CMOSとTTLって何が違うの? | |
一般的にディジタルICには、大きく分けるとCMOSとTTLの2種類があります。 CMOSとTTLにはイロイロと歴史があるのですが、ハッキリ言って知っていてもあまり役に立たないので(笑)、ここでは単純に両者の違いについて説明します。 CMOSとTTLの歴史が知りたい人は、ディジタルICの本を買えばたいてい最初の方に書いてありますので、そちらを参照してくださいね。 |
簡単に言うと基本構成の違い |
CMOSとTTLの決定的な違いは、「ロジックが何で構成されているか」です。
CMOSは内部回路がMOS-FETというユニポーラトランジスタで構成されており、TTLはバイポーラトランジスタで構成されています。
ユニポーラの「ユニ」とは、「片方の」というような意味があります。また、バイポーラの「バイ」は「両方の」というような意味があります。半導体の構造上、電荷が運ばれるプロセスは2種類存在しますが、その片方だけしか動作に関与しないトランジスタをユニポーラトランジスタと言い、両方が動作に関与するトランジスタをバイポーラトランジスタと言うようです。
というわけで、FETもトランジスタの一種ですが、両方「トランジスタ」と言うと説明がかえってややこしくなるので(というか、一般的にFETはわざわざ「トランジスタ」とは呼ばれないので)ここではFETとバイポーラトランジスタはあまり関連性がないものだと解釈してください。
バイポーラトランジスタもFETも「流れる電流が制御できる」という機能は変わりません。
ただ違うのは、コントロールに使う信号が電流か電圧か、という違いだけです。(脱線したくないので、あまり詳しくは触れないことにしますが)
バイポーラトランジスタは、制御極に流れる電流量に応じてトランジスタを流れる電流が変化します。つまり、電流駆動型の素子です。
一方、FETは制御極にかける電圧に応じてFETを流れる電流が変化します。つまり、電圧駆動型の素子です。
このように、FETとバイポーラトランジスタは決定的に特性が違うため、それによって構成されるロジックも特性が異なる、というわけです。
入力抵抗が違う |
CMOSは電圧駆動型のMOS-FETによって構成されているので、入力端子に一定以上の電圧がかかっていれば'H'レベルと認識されます。つまり、理論上はロジックの入力端子をドライブするための電流は必要ありません。つまり、非常に微弱な信号にも反応してくれます。
ただ、それは理想上のお話。実際は若干のリーク(もれ)電流が流れるため、常時数μA流れます。
また、FETの構造上、入力端子はコンデンサのような構造になってしまうので、'L'→'H'または'H'→'L'に変化した際、ショートしたのと同じような状態になり、電流が流れます。そのほかにも電流が流れる要因があり、現実のロジックでは若干の電流が流れます。
電流が流れないということは、非常に大きな抵抗(数十~数百MΩ)を持っているということです。このことをインピーダンスが高いとかハイインピーダンスとか言います。絶縁膜を挟んで電極(と言っても半導体)が存在するので抵抗が高いのは当たり前ですが、その構造がコンデンサに似ていることから、CMOSの入力端子の等価回路はしばしばコンデンサに見立てられます。
電流が流れない=省電力!‥‥というわけで、身の回りにもかなりのCMOSが使われています。たとえば腕時計や壁掛け時計に使われているLSIは全部CMOSですし、リモコンや車のキーレスエントリーシステムの他、携帯電話に使われているほとんどのLSIもCMOSです。
しかし、入力抵抗が異常に高いせいで困ったことも起こります。
冬場、ドアノブに触れて「パチッ」と来たことがない人はいないでしょう。あれは、地面と人体との抵抗が高いために、たまった電気が逃げる場所がなくて起こってしまう現象です。つまり、電気の逃げ口との抵抗が高いと静電気がたまりやすいのです。
CMOSの入力端子は、そのLSIの他の端子間との抵抗が非常に高いので電気が逃れる場所もなく、どんどんたまっていきます。で、ある程度たまると‥‥内部で絶縁破壊が起こり、FETの絶縁膜が破壊されて結果的に素子が破壊されます。これがCMOSの静電破壊の原理です。もっとも、最近のCMOSでは保護用のダイオード(ダイオードのブレイクダウン電圧という特性を利用した簡単な保護回路)が付けられており、静電気によって破壊されてしまうことは少なくなりました。
一方、TTLは電流駆動型のバイポーラトランジスタによって構成されているので、入力端子に数mAの電流が流れ込みます。ある程度の電流が流れ込まないと、正しい信号レベルを認識してくれないのです。
ただ、CMOSと違って入力インピーダンスはそれほど高くなく(数十k~数百kΩ)、静電気による破壊にあまり気を遣う必要がないというメリットもあります。個別の入力端子だけで静電気をため込んでしまうことはなく、静電気がかかったらLSI全体にほぼまんべんなく静電気がたまります。電位差が電圧となるので、素子全体がため込んだ静電気はそれほど問題にはなりません。
いかんせん、TTLは電気を食うので、乾電池で使ったりバッテリーで使ったりする用途には一般的にあまり使用されません。
電源電圧が違う |
CMOSとTTLは、電源電圧も大きく異なります。
一般的なCMOSの場合3~6V、物によっては3~15Vとかなり広い電源電圧で動作します(ただし、もっと電圧幅が小さいものもあります)。乾電池2本程度の電圧から使用でき、しかも消費電流も非常に少ないので、携帯機器にはとくに積極的に使用されています。
一方、一般的なTTLは5V±5%という狭い範囲の電源電圧でしか動作が保証されていません。なんでこんなに狭いのかというと、内部回路がバイポーラトランジスタで構成されているためです。すべてが内部を流れる電流でコントロールされているため、電圧が変動すると流れる電流もモロに影響を受けます。電流が流れなくても流れすぎても正常に動作しないので、動作電圧の幅が狭いのです。
実際は4~6V程度の幅であればとくに問題なく動作するようですが、それはメーカーの保証範囲外です。設計者として、ICの保証範囲外の使い方をしては絶対にいけません。
動作速度が違う |
TTLに比べて圧倒的に良いように思われるCMOSですが、欠点が存在します。TTLに比べて、動作速度が圧倒的に遅いのです。ここで言う「動作速度」というのは、入力レベルが'H'→'L'または'L'→'H'と変化したときに、その変化からどのくらい遅れてICがその変化をとらえることができるか、ということを指します。
CMOSの入力端子の等価回路がコンデンサに見立てられる、と書きましたが、これがそもそもの原因。コンデンサには電気がたまりますが、電圧がかかった瞬間に満タンになるわけではなく、ナノ秒オーダーで見ると徐々に充電されていく様子が見えます。(オシロで見ればわかります) CMOSの入力端子でも同じことが起こります。要するに、入力端子にかかる電圧が上がりきるまでに時間がかかるのです。
そこでかなりの遅延が発生します。通常用途ではとくに問題になりませんが、TTLと接続して数MHzのクロックで動作させようとした場合、CMOSのロジックはTTLの動作速度について来ることができません。
それでは困ってしまうので、もっと動作速度が高速なCMOSが開発されました。それがハイスピードCMOSです。HCMOSとか呼ばれたりします。
ハイスピードCMOSは、型番が74HCxxxとなっていますので、見ただけですぐわかります。入力レベルがTTL互換のものは74HCTxxxとなっており、いずれも動作速度がTTLに匹敵するほど高速で、74HCTxxxはTTLとそのまま差し替えが可能です。ちなみに、ハイスピードCMOSは同種のTTLとピン互換になっています。
動作速度と消費電流の関係が違う |
たとえば数十Hzの信号を入力した時と、数百kHzの信号を入力した時を考えてみます。
TTLの場合、ある程度の速さの信号までは、消費電流はほとんど変わりません。普段から大飯食らいの分だけ、高速でもよく働いてくれます。
しかし、CMOSの場合は動作速度にほぼ比例して消費電流が増えていきます。つまり高速で動かせば動かすほど、たくさん電気を消費して発熱します。これも実は入力端子の等価回路がコンデンサに見立てられることで説明できます。
'H'レベルの信号が入力されている時は、入力端子にほぼ電源電圧に近い電圧がかかっています。そこに'L'レベルが入力されると、'L'レベルの方が電圧が低いために電位差が発生し、電流が流れます。ただ、一瞬で放電してしまうので、それ以上は電流が流れません。
また、レベルが変化した瞬間、ロジック内部の回路でほんの一瞬だけ電源がショートします(最近はそうならないように細工してあるようですが...)。
CMOSは定常時には電流がほどんと流れませんが、このようにレベルが変化した瞬間は一瞬電流が流れます。それが高速に繰り返されたとき、平均して見ると消費電流が増加する、というわけです。
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