魔法科高校の神童生   作:RAUL85
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EPISODE7:ヒロインすぎる…

 一日の始まりを告げる清々しい朝。にも拘らず、俺の気分は最悪だった。昨日、ブランシュを壊滅させた後、待っていたのは、姉さんの料理だった。なぜ、鍋だというのにあれほどの死臭が漂うのか、なぜ鍋だというのにあんなに瘴気が噴き出ているのか。などまだまだたくさん疑問があったのだが、気づいたら、俺の口の中にイエティのものと思しき肉が入っていた。噛まないように注意しながら横を向くと、最上の笑みでアーンをした体勢でいる姉さんの姿があった。

 そのすぐ後、俺の意識は飛んだ。そして、起きたのが今だ。

 

「う……まだ昨日の瘴気みたいなのが体の中に残ってるよ……」

 

 激しい頭痛に呻きつつも体を起こす。枕元にあった時計を見ると、

 

「マズイ!このままじゃ遅刻だ!」

 

 表示された時刻に、頭痛ごと眠気も吹き飛んだ。

 

 

 

 

☆★☆★

 

                   

 

 

 

「達也、深雪さん!おっはー」

 

「ああ、おはよう」

 

「おはようございます」

 

 朝飯を高速で食べてから、すぐに制服に着替えることのできた俺は、無事にいつもどおりの時間に登校することができていた。キャビネットから降りると、昨日と同じく、仲睦まじい兄妹の姿があった。

 

「ん?達也、誰ョ、ソイツ」

 

「達也くん知り合い?」

 

「お知り合いですか?」

 

 と、今日は他に一人の男子生徒と二人の女子生徒の姿があった。お友達かな?

 

「やあ、俺の名前は九十九隼人だよ。よろしく」

 

「俺は西城レオンハルトだ。レオで構わないぜ」

 

「私は千葉エリカよ。よろしくね隼人クン」

 

「あ、あの柴田美月です。よろしくお願いします」

 

 と、こんな風に、今日は友達が増えたのだった。

 

 

 

 

☆★☆★

 

 

 

 

                     

「え、隼人クンてもう風紀委員なの?」

 

「ん、まだ正式ってわけじゃないらしいけどね。ほぼ決まりらしいよ」

 

「へー、すげえんだな隼人って」

 

「そんなでもないよ、深雪さんのほうが断然凄いでしょ」

 

「そんなことないわ、私よりお兄様のほうが凄いわ」

 

「深雪さんって、やっぱりお兄さん思いなんですね」

 

「あ、はは。見事なブラコ……い、いえ、なんでもありませんよ」

 

 絶対零度の瞳で睨まれた俺は、ただただ謝ることしかできなかった。と、そんなときだった。俺は、今日一日が波乱の日になることを悟った。

 

 

 

 

 

☆★☆★

                    

 

 

 

 

「なあ、達也って生徒会長と知り合いなのか?ついでにお前も」

 

「んと、俺の記憶に間違いがなければ入学式が初対面だって言ってたかな?」

 

 俺とレオ、そしてエリカと美月が見ている先では、達也と深雪さん、そして生徒会長が話しをしていた。どうやら、深雪さんに生徒会のお誘いらしいのだが、昼食時に達也と深雪さんの二人で生徒会室に行くことになったらしい。

 

「ああ、そういえばさっきの話しを聞かせてよ」

 

 取り敢えず、あの三人の話しが長くなりそうだったので、ある程度の距離をおいて俺はレオに先ほどの話しの続きを促した。

 先ほどの話し、というのは、どうやら昨日の帰りに一科生と一悶着あったらしい。

 

「あー。どこまで話したっけ?」

 

「んと、下校のときの話しからだよ」

 

 俺がそう言うと、レオはああ、そうだったと言って溜め息をついた。

 

「っとな。下校のとき―――」

 

 レオの話を要約すればこうだった。

 下校の際、達也と共に帰ろうとする深雪さんを一科生の数人が引き止める。そして、その一科生の言い分に美月がエキサイト。とんとん拍子で口論、そして魔法の発動寸前まで。拳銃型のCADを起動させた一科生、というか俺と戦った森崎くんのCADをエリカが警棒で吹き飛ばす。それで、それに驚いた一科生の女子、というか入学式に知り合った光井ほのかが魔法式を展開。後に、生徒会及び風紀委員の介入、という一幕があったらしい。

 その話しを聞いて、俺の感想はただ一つ。

 

「………問題児じゃん」

 

「うっせ。てか、ふっかけてきたのは一科のほうだかんな!?」

 

「分かってる分かってる。まあ、一科はプライドの高い連中だからね、仕方ないよ」

 

 自分の本心を口にしたときの、美月の「隼人さんも一科生じゃ…?」というツッコミは敢えて無視する。

 

「せっかくですけど、あたしたちはご遠慮します」

 

 と、そこでエリカのそんな声が聞こえた。どうやらあの三人の話しがコチラにも飛んできたようで、話しに夢中になっていた俺とレオは質問自体を聞き逃してしまったようだ。

 

「あの、会長さんが私たちも一緒にお昼はどうか、って」

 

 そんな俺とレオをフォローしてくれたのは美月だった。そんな彼女にお礼を言い、ふとエリカの口調に疑問を覚える。

 遠慮するにしてはきっぱりと断言している。この二人、なにかあるのだろうか。

 

「そうですか」

 

 疑問を覚えた俺達を余所に、会長だけは変わらなかった。本物なのか作り物なのかよく分からない笑顔で頷く。

 

「じゃあ、深雪さんたちだけでも」

 

 そう言った会長の目は、なぜか俺も見ていた。

 

「隼人くんは、放課後に生徒会室に来てね?摩利がお呼びだから」

 

「う……あ、いえ。分かりました」

 

 今日も、波乱の一日になりそうだ。

 

 

 

 

 

☆★☆★

 

 

                    

 

 

「へー、隼人が風紀委員……ぷっ、似合わなぶっ!?」

 

「は・が・ねくん?」

 

「ごめんなさい」

 

 現在、一年B組は授業の真っ最中。レールの上にある台車を、レールの端から端まで手を使わずに三往復させるという課題だ。とはいえ、監督する教師がいないため、私語や暴力し放題。

 

「いや、道徳的に暴力はダメだと思うけど」

 

「その通りだよ明智さん!さあ、この脳筋にもっと言ってやって!」

 

「「え?俺(私)達、中学は進学校だったよ?」」

 

「ごめんなさい」

 

 と、三人でこんなコントをやっている内に順番が回ってきた。

 設置された据え置き型のCADの前に立つ。ペダルスイッチでCADの高さを調節し、白い半透明のパネルに軽く手を乗せる。そして、普通ならばここでサイオンを流さなければならないのだが、俺はそうではなく、直接サイオンに干渉し、改変した。サイオンを改変された台車は急発進を始め、そのままぐんぐん加速。マニュアル通りならば中間点で減速を始めるのだが、俺はそれもしない。台車がレールの端まで行ったところで再びサイオンを改変し、運動のベクトルを逆転。今度は逆端に向かって進む台車。その三往復目に、運動ベクトルを逆転するのではなく、サイオンに『停止』を命じて、台車自体の動きを完全にピタッと止める。

 

「相変わらずのチートだね、なんだよ三往復8秒って」

 

「あっはは、ま、精々頑張りなさい」

 

 自分の番が終了して、列の最後尾へ向かおうとすると、俺と入れ替わるようにしてCADに向かう鋼が溜め息混じりにそう言った。

 俺はそんな鋼にエールを送って、歩きだした。俺の、この『魔法式を必要としない魔法』は、九十九家では一応秘匿事項とされている。だが、俺はそれを使わなければ恐らくこの学校に入学することすら不可能だったかもしれない。

 今日の課題は魔法式がなくても一科ならば普通に可能、その程度のレベルのものだったが、その内それでは誤魔化しがきかなくなってくるだろう。

 

「……サイオンを余分に改変して、魔法式をつくるかぁ…」

 

「うーん、それは大変そう!」

 

 顎に手をやって考えていると、背後から急に声がして、俺は思わず飛び上がりそうになった。

 

「え、エイミィ!?」

 

 俺としたことが、どうやら考え事をしていたせいで背後から接近するエイミィに気づけなかったようだ。

 

「あれ?意図せず奇襲成功みたいな?」

 

 キョトンとしているエイミィに苦笑いを返して、俺は思わず溜め息をついた。

 エイミィとは大分幼い頃からの付き合いだ。だから、大体の俺の事情は知られている。流石に、九十九家の本業である『暗殺』をしているとは言っていないが、『魔法式を必要としない魔法』のことはバレているので、さっきの呟きを聞かれてもなんら問題はない。

 現在、その魔法のことを知っているのは恐らく、九十九家の人間と十三束家の一部の人間、エイミィ、そして政府と軍部くらいだろう。もしかしたら、俺のCAD『シルバー・フィスト』を作った『トーラス・シルバー』にも知られているかもしれない。

 十三束家に知られていて、何故エイミィの家に知られていないのかは、十三束家とは家柄の付き合いだから俺の情報がバレてしまっても仕方ないという理由と、エイミィの家である名門『ゴールディ家』に知られるのは少々厄介だからという理由がある。そのため、エイミィには誠心誠意、端整込めたお願いで口止めしている。

 

「便利すぎるのも大変よねぇ」

 

「全くだよ……」

 

 フフ、と力無く笑いを零す。と、エイミィが俺のほうへ顔を寄せてきた。

 

「なんか、疲れてる?」

 

「へ?」

 

「目の下にクマができてるよ」

 

 確かに、昨日の夜はお仕事でブランシュを壊滅させたせいで十分な睡眠をとることができなかった。恐らく、2~3時間くらいしか眠れていないだろう。世の中には 安眠導入機サウンド・スリーパーなるものがあるらしいが、俺はそういうのは好かないタイプなため、使ったことはない。

 

「昨日は遅くまでテレビ見てたからかな?」

 

 だが、どんな理由があろうとエイミィに俺が暗殺の仕事をしていると知られたくない。幼い頃の約束を破っていることを、知ってほしくはない。

 

「……まあ、隼人が私になにか隠し事をしているのは前から知ってるけど……」

 

「う……」

 

 どうやら、核心部分は知られていないようだが、俺の秘め事は秘めきれていないようだった。

 

「無茶はしちゃダメだからね?」

 

「……勿論、分かってるよ」

 

 心配そうな表情で覗き込んでくるエイミィに、俺はそうとしか返すことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――to be continued――






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