魔法科高校の神童生   作:RAUL85
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EPISODE6:九十九家のお仕事

 

「うーー、た・だ・い・まぁ~~~~~………」

 

「あら、おかえり隼人」

 

「ん?……ちょ、ちょっと待って姉さん。貴女、今、ドコでナニしてんですか?」

 

 学校から帰ってきてみると、なぜかリビングに姉さんがいなかった。そして声が聞こえてきたのは、奥。台所のほう。確信にも似た絶望を覚えながら、それでも一抹の希望に縋ってみる。

 

「ドコって、もちろん台所よ。台所と言えば、料理、よねえ」

 

 瞬間、俺は自己加速魔法を発動した。靴を脱ぎ捨ててリビングをぶっ飛ばして台所にたどり着く。そこにある光景を見て、俺は危うく『力』を解放しそうになった。

 

「ねえ、姉さん。ソレ何料理?」

 

「うーん、と。マンドラゴラとー、スカイフィッシュとー、河童とー、イエティとー」

 

「も、もういいよ……」

 

 姉さんはどうやら、地球の謎を全て解明するつもりらしいです。学者さん涙目だね。

 

「あ、もうちょっとでできあがるから待っててね」

 

「……あ、もしもし鋼?うん。ちょっと今日さ、うちの家で妖怪大戦争やるらしいから避難してもいいかな?え?事情がわからない?俺だって分からないよ!!」

 

 鋼くんの家への避難は断られてしまった。薄情なやつだなあ。

 

「あ、姉さん。今すぐソレ捨てて。そして俺に味見させようとしないで。そしてこの拘束を外して!今すぐに!」

 

「ダメよ。隼人、こうでもしないとすぐに逃げちゃうじゃない」

 

「あ、当たり前だよ!てか、離せ!HA☆NA☆SE!!」

 

 

 

 

☆★☆★

 

                  

 

 

 

「んぁ?任務?」

 

 姉さんが製作した魔の巣窟(台所)から命をかけた撤退劇を演じ終わり、俺は今自分の部屋にいた。四畳半くらいの広さの和室には、最低限のテーブルとタンスとクローゼット、そしてパソコンくらいしかない。今日、九十九家としての依頼が入っていたのは俺のパソコンにだった。

 本来、九十九家への依頼は当主である姉さんのパソコンへ届くようにしてある。俺のほうに依頼が来る場合は、俺への指名、ということだ。

 

「ふむふむ……で、今回の標的は……?」

 

 依頼として届いたメールを下へ下へスクロールしていくと、そこには驚きの内容が書かれていた。

 

「……ブランシュ、か」

 

 なんと、ブランシュ日本支部の二つある拠点の内、一つを壊滅させろ、とそこには書かれていた。

 

「場所は東京郊外……ちょっと遠いけど、まあ、依頼人はお偉いさんみたいだしねえ。仕方ないか」

 

 基本、依頼のメールは匿名だ。だが、ここまでブランシュのアジトの位置を掴んでいるということは、それなりの地位がある人物でなければ不可能だ。そう、例えば、軍関係者かそれとも、政府か。

 

「さて、行こうか」

 

 取り敢えず依頼を受けることにした俺は、この依頼メールの送り主に空メールを送り返した。九十九家ではこれが、依頼受理を報せる方法となっているのだ。

 そしてクローゼットを開く。中に入っているのは全て、隠密行動用の黒装束ばかり。俺はそれの、一番馴染んでいる黒の燕尾服、そして狐のお面を取り出した。

 

 

 

 

☆★☆★

 

 

                      

 

 

 

「姉さん、俺任務入ったから行ってくるね」

 

「あら指名?隼人への指名は多いわねえ」

 

 装備を整えて居間まで来ると、姉さんが魔の巣窟(台所)を掃除しているところだった。ナニカの呻き声が聞こえるけど、きっと幻聴だ。

 

「標的は?」

 

「ブランシュだよ」

 

「ふーん」

 

 と、姉さんはこの仕事関係になると急に醒める。

 

「まあ、いってらっしゃい。怪我はしないでね」

 

「もちろん。あ、俺が帰ってくるまでにソレ片付けておいてね」

 

「善処するわ」

 

 俺の気分が浮かなくなるような返事を聞いて、俺は家を出た。

 

 

 

 

☆★☆★                

 

 

 

 

 

 深夜1時の東京郊外。いくら日本という国の首都が東京だからといって、郊外で夜中に行動する人間は少ない。隼人が悠然と歩く中で、今までですれ違ったのは片手で数えるくらいしかいなかった。だが、この先にある雑居ビルのサイオンが活性化されているのを隼人が見過ごすはずもない。ゆったりとした足取りで、ブランシュのアジトと思しき雑居ビルまでたどり着くと、隼人は今まで横に引っ掛けていた狐のお面をつけた。

 

「さて、行くか」

 

 まるで友人の家に入っていくような足取りで隼人は雑居ビルの一室へと侵入した。彼を阻んでいた扉は、すでにこの世に存在していなかった。

 

 

 

 

☆★☆★

 

 

 

 ブランシュ日本支部は、二つ存在している。一つは、第一高校近くの廃工場に。もう一つはここ、東京郊外の雑居ビルに。基本的に行動を起こすのは廃工場のほうで、雑居ビルのほうはそのサポートでの意味合いしかない。だが、陰で暗躍する組織だということは確かで、一世紀前の映画のような悪の組織ばりに、その構成員たちは遊び、酒を飲み、女を抱いていた。今夜も例外ではなく、男たちは皆、酒色に溺れていた。これから自分たちの身に起きる、悲劇に気づかずに。

 

「あん?なんか下が騒がしいな。おい、様子を見て来い」

 

「はい」

 

 リーダーと思しき男がいるのは最上階である5階。この部屋には、この男と側近である中年くらいの男と、あとは女しかいなかった。リーダーのほうはまだ若い。恐らく、20代後半くらいだろうか。だが、男が纏う雰囲気は、人を使うという、リーダーという存在特有のものだった。

 リーダーが下の階が騒がしいことに気づいたのはついさっきだ。ぶっちゃけ、このビルはいつも騒がしい。まあ、遊び呆けているのだから当然だろう。今日もどうせいつも通りなのだろう、と男も最初は考えた。だが、同時に今回は違うというような気もしていた。だからこそ、リーダーは一番信頼のおける側近に下の階を見て来いと頼んだのだ。

 側近が階段をおりていく内にも叫びは聞こえるまま。男は何故か沸きあがる不安を押し流すように、一息にグラス内のワインを飲み干した。そして、側近の男が降りていってから数分、けたたましい叫びや悲鳴はピタリと止んだ。それを、男は自分の側近が諫めたのだと理解した。しかし、事態は男の予想を裏切っていた。いくら待てど、側近が戻ってくる様子はない。それに、やけに静かすぎた。側近が騒ぎを止めたから、そんな甘い考えをするほど、男も初心者ではない。下の階からは、叫びや悲鳴、声、いや、生きている者の声や存在すら感じられなかった。

 そこで、男の『不安』は一気に『絶望』へと落ちた。男の横に立っていた二人の女が、音も無く、光もなく、ただただ空間に歪みを生んで消え去ったのだ。

 

『動くな』

 

 錯乱しそうになった男を静めたのは、冷酷で非情な声だった。凡そ生者の人間が発すると思えない、地獄の門番のような冷たさを持つ声。

 

『お前が、ここのリーダーか?』

 

 姿を見せず、気配を掴まさず、また、声すらも変えて、『暗殺者』九十九隼人はリーダーと思しき男に問いかけた。隼人が発する無音の圧力に屈した男は、ゆっくりと、顔に脂汗を滲ませながら頷いた。

 

『そうか。では一つ聞く。お前達の目的はなんだ?政府か?魔法大学か?それとも、魔法科高校か?』

 

 最後の言葉に男が身じろぎするのを、隼人は見逃さなかった。そう、ブランシュ日本支部が狙っているのは、魔法科高校。その生徒か先生か、機密データかは知らないが、恐らく狙われるのは第一高校だろう。

 

『ならば手を引け。お前の部下は皆、この世から消え去った』

 

 非情な宣告が、男を貫いた。

 

「殺したのか?」

 

 その問い掛けは、好奇心ではなく、恐怖が生み出したもの。自分の死を先送りするための時間稼ぎ。

 

 

『殺したのではない。 ()()()()()のだ。さあ答えろ。返答次第ではお前を逃がしてやることも考える』

 

 それは、まるで悪魔の囁き。死を目前にして、生を目の前に吊るされている感覚。この暗殺者の言うとおりにすれば、自分はまだ生きていられる。しかし、そんなことを、この男が許せるはずもなかった。部下が皆死んで、自分だけが生き残る?冗談ではない。そんなことは不可能だ。

 

「教えられんな。さあ、殺せ。私の大切な者たちは皆死んだ。ならば、私がこの世に存在している理由はない」

 

 震える声で、男はそう言った。すると、目の前に音も無く、漆黒の燕尾服を身に纏った男が表れた。

 

『……残念だ』

 

 そう、一声。そのすぐ後にはもう、男はいなくなっていた。逃げたのではない。隼人の特異魔法である『 消失デリート』によって、この世から存在を消されていた。

 

 

 

 

☆★☆★                

 

 

 

 

 

 ブランシュの日本支部を一人で壊滅、いや消去した隼人は被っていたお面をとって、深々と溜め息をついた。

 

「大切な人たちなら、巻き込むんじゃねえよ」

 

 湧き上がる怒りで、隼人の口調は元の自分のものに戻ってしまっていた。人をその人のサイオンごと消去するのは、これで恐らく3桁の数に昇るだろう。

 

「俺は多分、感覚が麻痺してんだろうな」

 

 人を殺す、または消すことへの罪悪感がない自分を、隼人は内心で恐れた。

 見上げた空には、綺麗な満月が、隼人を照らしていた。隼人の仕事を見ていたのは、満月だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――to be continued――






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