魔法科高校の神童生 作:RAUL85
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達也と共に講堂に入ってみると、もう既に何人もの新入生と思しき生徒達が長椅子に座っていた。入学式十分前。恐らく、俺達が最後の入室者ではないだろうか。
「ん…?」
よく見てみると、その座り順に規則性が見受けられた。それがなんなのかを理解して、俺は思わず呆れてしまう。
何故かは知らないけど、席の前半分に一科生、後ろ半分に二科生が座っていた。
「つまんない認識持ってる人たちだなぁ」
思わず悪態をついてしまうのも仕方がない。差別意識を持っているのは何よりも自分達だということを、彼らは理解していないのだろうか。
とはいえ、自分ひとりだけイレギュラーな行動をして注目を集めるのは面倒だ。
「達也」
「ああ、また後でな」
同じようなことを考えていたのだろう。俺が名前を呼ぶと達也からすぐさま返答があった。
仕方ないな、という視線を交わして、俺達は分かれて歩き出した。俺は前へと、達也は後ろへと。
☆★☆★
「くぁ……」
適当に空いていた席を見繕って腰を下ろしてから少し。何もやることが無くて俺は再び睡魔と闘うことになった。周りの人たちは自分の隣の人と話したりしてるけど、生憎俺の隣は空席続き。話せる人なんていなかった。
本格的に眠ろうとして、足を組み替えたときだった。
「あの、隣、いいですか?」
「ん?あ、ああ。いいよ」
頭上から掛けられた声は女の子のものだった。目を開いて確かめると、そこには二人の少女が立っていた。その胸には当然、八枚花弁のエンブレム。
しかし、なぜ俺の隣に座るのか。席なら向こう側が空いているというのに。と、再びウトウトしながら考えていると、隣に座った子が「あのっ!」と急に話し掛けてきた。
「な、なんだい?」
少々ビックリしながら返事をすると、女の子は恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「あの、九十九隼人さん、ですよね?」
「–––––っ」
俺の警戒心が急激に上がった。猫を被っていた思考が引き剥がされるような感覚。頭がスッと冷却され、今まで靄がかかっていたように冴えなかった思考が、急激に活動を再開する。
しかし、次の女の子の一言、俺の警戒は全くの無駄足だったことを悟った。
「あのっ、私っ、九十九さんのファンなんです!さ、サインください!」
「……ふぁ、ファン?サイン?」
それらは、俺にとって全く無縁の言葉たちだった。
唖然とした俺の前に、テンパる女の子の後ろからヒョイともう一人の女の子の顔が出てきた。
「九十九さんは、魔法が凄いって雑誌で有名」
いや、それ本人に言う言葉じゃないよね?というツッコミは取り敢えず破棄して、俺は事情が分からず奇異の眼差しを向けてくる周囲に頭を下げることとなった。
☆★☆★
「くそ……あのド三流記者め…!」
「あの、九十九さん?」
「ん?ああ、なんでもないよ」
疑問の声を上げる、俺にサインを求めてきた女の子『光井ほのか』さんに返答する俺の頭の中にあるのは、とある記者への百通りの呪詛だった。
先々月くらいに、何故か俺の所在を掴んできた自らを『魔法記者』と名乗る謎の人物(本名、住所、容姿すら不明。分かったのは背の高い男だということだけだった)。
余りにも熱いその勢いに流されて色々質問に答えてしまったが最後。奴は俺の制止も聞かず、耳障りな高笑いをしながら立ち去っていた。
その翌日の雑誌の紙面には、大々的に俺の名前が載っていた。更に、詳細なプライベートギリギリの線までもが、懇切丁寧に。
すぐさま、俺は雑誌社に問い合わせたため、翌週からは俺のことは載らなくなったが、連載まで考えていたらしい。それが、俺の知っていることだった。
しかし、もう一人の女の子、『北山雫』さんの話しによれば、一週間空けた隔月で連載していたらしい。
一瞬、本気でその雑誌社の本社を潰してやろうかとも考えたが、後々面倒なことになるのは目に見えていたため、渋々大人しく、諦めることにした。
しかし、肝心な一番秘密なところはバレていない(そもそも言っていないのだが)みたいだから、百歩。いや万歩譲って良しとしよう。
「……………」
現在は、入学式の真っ最中。新入生総代である『司波深雪』さんの答辞。そう、『司波』深雪。さっき友達になった『司波達也』の妹か姉であることは、サイオンを見なくても明々白々だった。
それにしても、結構プライドのお高い方々をピリピリさせるような言葉を使っていらっしゃる。しかしまあ、彼女の美貌に我を忘れてそれどころじゃない人たち(男女問わず)が約8割くらいいるから、誰かが爆発か暴走するなんてことはなかったけど。
☆★☆★
そして現在、クラスを確認するための窓口審査が終わって。俺とほのか、雫は適当に人ごみに流されている状態だった。
「九十九さん、何組でした?」
興奮を隠し切れないようにほのかが聞いてきた(敬語や『さん』付けは禁止されてしまった)。それに対して、俺はあまりの一の多さにやや吐き気を覚えながらカードを覗き込んだ。
「俺は…B組だね」
「ああー……私はA組です」
「私も、A組」
極端に落胆したほのかと、まるで無表情な雫。この二人、性格的にもいいコンビなんじゃないかな。
感情表現の激しい子と、感情の起伏が余りない子。二人合わせれば丁度良くなる。
「まあ、AとBなんだから会う機会はあるよ、多分。さて、一応、俺はホームルームを覗いて来るけど」
「あ、じゃあ私達も行きます!」
勢い良く返事をするほのかと無言で頷くだけの雫に苦笑いを浮かべて、俺は教室へ歩き出した。
☆★☆★
場所は変わって1-Bの教室。の、前の廊下。どうやら思ったより人がいるようで、教室の中からは和やかな談笑が聞こえてくる。
「さて、行くか」
呟き、扉の取っ手に手を掛けて右から左にスライド。瞬間、お喋りが一瞬で止み、全員が俺を見た。皆一様に自分の目を疑うような表情をしているけど……。
刹那、何故か嫌な予感が全身を突きぬけ、思わず浮かべようとしていた笑みが引き攣ってしまった。
「お前、まさか……九十九隼人!?」
「え!?本当に!?」
気づいたときには、俺は完全に包囲されていた。いつの間にか背後にも数人の生徒。
そこからは、質問の嵐だった。
「なあなあ、自由自在に天気を変えられるって本当か!?」
「大亜連合の魔法師と戦ってボコボコにしたって本当!?」
「お姉さんって魔法大学にいるのか!?」
「あの『人斬り鮫』と戦ったことがあるって本当!?」
「あ、はは……みんな、まずは落ち着いてよ」
そんな抵抗も、みんなが発する熱気によって掻き消されてしまった。
俺が呆然と引き攣った笑みを浮かべている間に『質問』がヒートアップして、なんか知らないけど、『じゃれ合い』になってきていた。みんなに揉みくちゃにされながらも、隙を見て教室内を覗いてみる。
「あ!」
そこで俺は、よく見知った顔を発見した。低い身長に、小学生と間違えても可笑しくは無い童顔を持つ男子生徒の姿。
「は、鋼!助けて!」
内心安心して、古くからの友達『十三束鋼』に助けを求める。が、ヤツは一度フッて笑った後に思いっきり目を逸らした。
「う、裏切り者ぉぉ!!」
俺の悲鳴も、ただただクラスのみんなの悲鳴んも似た叫び声に飲み込まれていった。
☆★☆★
「で、さっきのはどういうつもりだったのかな?」
「あ、あはは……」
場所は変わって近くのカフェテリア。先ほど、俺をものの見事に見捨てた鋼のサイフをスッカラカンにしてから、俺は詰問を開始した。
「いや、ね。僕的には、友達に有名人がいれば自慢できるからいいかなと……思ったり…思わなかった、り……して……あ、あはは」
俺が醸し出す黒いオーラのせいか、言葉の最後になるにつれて鋼の声は尻すぼみに小さくなっていった。
この小学生高学年並みの童顔を持つこの男の名前は『
「あんまり人が多いとサイオンが活性化されるから疲れるんだよっ、てこれ言うの何百回目?」
「142回目だよ……って分かった分かった。ごめん」
回数覚える位なら本題を覚えろ、という視線を読み取ったのか、鋼が手を翳して引き攣った笑みを浮かべた。それに、俺は引き下がった。
「お詫びに、この後模擬戦ね」
「うぇぇ……隼人ってば存在自体がチートで攻撃がエグいから嫌なん……いえ、ありがたく御一緒させて頂きたく存じます」
「よろしい」
その一言に、鋼はガックリとうな垂れた。
――to be continued――