prologue
魔法が伝説や御伽噺ではなく、現実の技術となってから、約90云年。
ここら辺の記憶が曖昧な辺り、俺はまだまだ未熟らしい。まあ、そんなことは置いておいて。
当初、魔法が発見された当時は『魔法』ではなく、『超能力』と呼ばれていたそうだ。それは、純粋に先天的な、その人のみに備わった特殊な能力だと当時の人たちは考えていたそうな。しかし、それは誤りだった。研究していく内に少しずつだけど『魔法』を伝える人達が表舞台に姿を見せた。そしてやがて、『超能力』は『魔法』によって再現が可能となった、らしい。
勿論、その『魔法』にだって才能は必要だけど。
超能力は魔法によって技術体系化され、魔法は『技能』となった。『超能力者』は『魔法技能師』となった。
時に、核兵器すらも打ち破る強力な魔法技能師は、国家にとって兵器であり力そのものだった。
二十一世紀末―――――
西暦2095年を迎えても未だ統一される気配すら見せぬ世界の各国は、魔法技能師の育成に競って取り組んでいるんだ。かつての平和なんて、何処にもない。『平和主義』なんて言ったら、鼻で笑われる世界。そんな世界で生きていく、はみ出し者達の物語。
☆★☆★
国立魔法大学付属第一高校。
毎年、国立魔法大学へ多くの卒業生を送り込んでいる高等学校として知られている。
それは同時に、優秀な魔法技能師、もとい魔法師を最も多く輩出しているエリート校というこよでもある。
魔法教育に、教育機会の均等などという建前は存在しない。
この国に、そんな余裕は、ない。
それ以上に、使える者と使えない者の間に存在する歴然とした差が、甘ったれた理想論の介在を許さない。それほどまでに、この国の、いや、世界の情勢は悪い。
徹底した才能主義。
残酷なまでの実力主義。
それが、俺がいる魔法の世界。
この学校に入学を許されたということ自体がエリートということであり、入学の時点から既に、優等生と劣等生が存在する。
同じ新入生であっても、平等ではない。例えそこに、如何なる理由があろうとも。
「…行ってきます…」
無人の我が家に向けて、一人寂しくお出かけの挨拶を言う。勿論、家族は死んでなどいない。両親は旅行、一人いる姉は大学の研修中で一旦家を空けているのだ。
今日は国立魔法大学付属第一高校の入学式。遅刻しないように家を出たのだが、逆に早く着きすぎてしまわないかと心配だ。
「…よし、行こうか」
まだ着慣れない制服のズボンのポケットに手を突っ込んで、俺は駅までの道を歩き始めた。
――to be continued――