魔法科高校の変わり者 作:四葉夜々
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「これ、プレゼントだ……」
「え?今日、別に誕生日じゃないよ?」
「……俺とお前が付き合って、今日で一年目だろ………」
「…………記念日、ね……流石ゲームのイケメン。現実じゃ出来ないことを平然とやってのけるわね」
真夜は乙女ゲームをしながら画面に映ったイケメンを見て考える。因みに今の真夜の格好は、お洒落に気を使うつもりもないのでジャージ姿で髪もセットする時間があればゲームを進められるとショートに変え、ゲームをやりまくったせいで落ちた視力を補うために眼鏡をかけまるで喪じ………話しは変わるが、そう言えば、彼にあって後一週間で一年。
何か記念品でもくれてやろうか………。
「………………」
羊はつけてくる気配を感じながら気付かれぬようにマルチスコープを発動する。
こんなに監視がついたのはこの世界に来た頃以来だ。何かしたのだろうか?
「あ、おーいハヤマン!」
「む?どうしたのかね?」
「まーちゃん見てない?部屋の中から気配がしなくて……」
「今は、一人で居たいそうだ」
なるほど、今回の監視は羊が真夜に近づかないようにする為なのか。
真夜『で』遊ぶつもりだったのだが仕方ない。監視役達に相手をしてもらおう。
「やれやれ、彼らも可哀想に」
ニイィと獰猛な笑みを浮かべた羊の心情を察したのか葉山はふぅ、とため息を吐いた。と、同時に羊は目にも止まらぬ速さで走り出した。
黒羽亜夜子と黒羽文弥は今回の任務を疑問に感じていた。斎藤羊については、噂程度に知っていた。ある日突然真夜が連れてきた少年で、魔法力が途轍もないとか……。
しかし元々一般人だったはずだ……。監視する理由が解らないし、監視するなら自分達を使う必要などないのでは?そう思っていたのだが……。
「うわぁぁぁ!」
彼はこちらの動きに気づき、四葉家を外界から隔離する山の中に逃げ出した。慌てて後を追い、そして今に至る。
もちろん森や山の中の追跡の訓練もキチンと行っていた。居たのだが……。
「ぶもぉぉぉぉ!」
シシ神の森のような猪が表れる森を想定した訓練はしてこなかった。
「うほぉぉぉ!」
「シャアー!」
「クエー!」
遠くでは別の班が襲われているのだろう。動物の鳴き声が次々聞こえてくる。
「うわぁぁ!ご、ゴリラが!」
「ひいい!アナコンダ!こっちにはコモドオオトカゲも!ムリムリ俺爬虫類苦手!」
「げえ!コンドル!」
「どーなってますのこの山の生態系は!?」
亜夜子は追いかけてくる猪に魔法を放ちながら文句を言う。何で日本にゴリラや世界最大の蜥蜴が居るのか。
「はーはっは!ここはお前等の庭じゃない、既に俺の縄張りだ!」
「成る程、彼はこの山の王というわけか……」
イヌワシを肩に乗せ、小鳥を連絡係に動物達に命令する羊。
しかもその命令が的確なので厄介だ。
何とか猪を気絶させた後、羊が口笛を吹いた。すると辺りの動物達が動きを止め山の奥に消えていく羊を追った。ひとまず助かったと思っておこう。
「……生き残りは?」
「ここにいる十名だけかと……」
「三分の一ですのね……」
連絡を取り何とか合流した一同。ここにいない者は今頃四葉家本邸に蔓で縛られた状態で運ばれていることだろう。つい先ほどそのような連絡があった。
「とにかく!彼を真夜様に近付けないようにしなくてば!」
暗くなった部下達を見て亜夜子が気合いを入れ直そうと叫んだ瞬間、部下の一人が亜夜子の背中を蹴る。屈んだ状態だった亜夜子は湿った地面に頭から突っ込んだ。
「お前!何を───!?」
「あははは!」
文弥はすぐに姉を足蹴にした男に魔法を放つが男は木の上に飛ぶとその姿にノイズが走り羊へと姿を変える。
「
「うけけけけっけけっけけ!」
文弥が驚いて固まっている間に羊は木の枝から木の枝に飛び移る。加重魔法を使い体重を減らしているのだろう。細い枝さえ足場にして狙いがつけられない。
「………この……待ちなさいですの!」
「!?」
しかし逃亡する羊の前に亜夜子が突然目の前に表れる。これには羊も一瞬目を見開く。
「ふふん、驚きました?これぞわたくしの魔法、疑似瞬間い──ぷぎゃ!?」
が、本当に一瞬だけ。羊は亜夜子の額を踏みつけさらに高く跳んだ。
「ね、姉さん!大丈夫!?」
「…………じょ……」
「じょ?」
文弥が慌てて亜夜子に駆け寄ると亜夜子はゆらりと立ち上がった。
「じょーとですわあの山猿がぁぁぉ!ちょっと顔が良いからって何をしても許されると思ったら大間違いですわ!とっ捕まえて調教して
「………これはいったい」
葉山が四葉邸の庭を見れば熊や猪、サーベルタイガーや鹿などの動物達が先ほど保護した者達とは別の班の人間をせっせと運んでいた。
「……ん?今変なのが混じっていた気が………」
具体的には本来もう生き残っていないはずの動物が………。
「………ダメね」
真夜は目の前にある蠢く物体を前にため息を吐いた。
「ういーっすまーちゃんここにいた」
「!?な、何でここに……監視は!?」
「山の王を相手にするには実力が足りない」
「………?」
真夜が首を傾げていると羊はキッチンに置かれた物体に気づく。
「………ケーキか、いただきまーす」
「あ、ちょ!」
確かにケーキを作るつもりだったが完全に失敗作のそれを、口の中に頬張る。
ゴチョグチャメリパキと大凡ケーキを食べる音とは思えない粗食音が響き、羊はゴクリと喉を鳴らす。
「だ、大丈夫!?今すぐペッてしないと!」
「見た目はあれで味も最悪だけど体に影響はない」
「そ、そう……なら良いんだけど、ごめんなさい」
「いいって、それよりはい……」
落ち込む真夜に羊は
「今日で出会って一年目だからな。野草で悪いが」
「覚えてたのね……」
「まあな。俺がこうしてこの世界で力を求める連中を気にせず生きられるのは、まーちゃんのおかげだし………ありがとう四葉真夜」
そういって目の前の男性は人懐っこい笑みを浮かべた。
「……?どうした?」
「今……
「……いや?」
キョトンとしている真夜を不思議に思い羊が首を傾げる。その姿は何時もの羊だ。
「ま、いい………じゃあまた明日、今度こそゲームしような」
羊はそういってその場から立ち去った。
「出会い記念のプレゼントはうまく生きましたかな?」
そして羊と入れ違いで葉山が入ってくる。真夜は赤くなったまま固まっていて、何の反応も示さない。
「奥様?」
「………現実のイケメンって………ゲームのイケメンより凄いのね」
『感謝』