魔法科高校の変わり者 作:四葉夜々
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「イヤッホーイ!」
大空の上でハシャぐこの世界で生きた年齢をあわせて等々五十路になってしまった少年羊。彼はまさに人生を謳歌していた。
雲を突き抜けると、そのまま暫く遊泳飛行に移る。足下ではフィンによる風で揺れる雲が見ていて飽きない。
「転生特典もらって良かったな………」
転生者である羊は類い希なる魔法師としての資質を貰っていた。羊としてはトップクラスに入れる程度のつもりだったのだが担当の神の性格があれで……文字通り並ぶ者は永遠に現れぬレベルの才能を持っていることに本人はいまだ気づいていない。
しかしこの世界は中々楽しい………この上空の景色、出来ることなら前世の家族達にも見せてあげたい。今や家族当然の真夜にでも見せるか?
「…………違った、アイツは家族じゃない。うん、いらない。家族も、友達も、恋人も…………」
羊は突然いつものふざけた雰囲気を消して真顔になると小さく呟く。が、直ぐに何時ものように子供のような笑みを浮かべる。
「よっしゃー!このまま日本横断するぞ、おー!」
自己加速、移動、摩擦の調整、空気の収束、フィン自体を回転させる移動魔法、さらに固定魔法をバランスを取りながらあっさり行使して音速を超えた。
「……それで、勢い余って地球一周したと?」
「えっと……まあ、はい………」
「家の門限は?」
「六時です」
因みに時刻は既に八時を過ぎている。羊が帰ってきたのは五分前、つまりそういうことだ。
真夜は生まれたての子鹿のように震える羊を見てはぁ、とため息を吐く。
「全く、暗くなる前に帰ってきなさいって言ったでしょう。あまり心配をかけないで」
「いや、その………そもそも俺大人だよ!?こんな見た目でもお前よりお兄さんなんだよ!?なんだ門限って」
「あ?」
「さーせんしたー!」
真夜にギロリと睨まれ正座から土下座にシフトチェンジする。情けない?そんなこと言う奴は今から真夜の前に立つと良い。
「お兄さんと言うなら年上の威厳を見せて欲しいものね」
「お前こそ年の貫禄が足りてねーんだよ若作りババア」
「……………………は?」
「しまった!違う、今のは本音だ!」
その日一人の少年が星空を支配する魔王と命がけの追いかけっこをしたという。自己加速魔法と摩擦制御で音速を超えて逃げ回る彼を追いかけ放たれる防御不能の魔法は壁や天井、高級な壺や書物に穴を空け2人そろって執事にこってり絞られたという。
因みに修復は魔王の甥っ子らしい少年が行ったらしく、彼が理由を尋ねると魔王はニッコリ笑い誤魔化したという。
「はぁ、あなたのせいで散々な目にあったわ」
「いやまーちゃんのせいだって」
何とかラスボスを倒した後、昨晩の事に文句を言い合う2人。片や魔王、片や五十路の少年。彼らの本質を知らず正体だけを知る者が見たら夢か何かと思うだろう。
「にしてもタッツーは面白い魔法使うよなぁ………こんな感じだっけ?」
羊は何を思ったのかゲーム機に片手を向け空気の弾丸を打ち込み、しかし何もなかったかのように元に戻す。
「………構造情報に干渉して分解するのは最高難易度術式の筈なのに、CADも使わず良くできるわね……それに再構成………達也さんと違いそれでもなお深雪さんをもしのぐ魔法演算領域って……チート転生者は違うわね」
真夜が呆れたように横目で羊をみた後画面に視線を戻す。そこにはラスボス戦前の口上シーンが映っていた。
「…………………」
「……………………」
魔王と少年の逃亡劇が始まるまで後二秒、2人が執事に説教を食らうまで、後五分……。
「逃げろ!」
「待ちなさい!」