魔法科高校の加速者【凍結】 作:稀代の凡人
<< 前の話 次の話 >>
「和也、良いかしら」
「どうぞ」
兄さんと入れ違いになるようにして入ってきたのは、姉さんだった。
「和也、もう大丈夫なの?」
「うん。今日明日大人しく寝てれば大丈夫だよ」
「そう。良かった……」
姉さんはどうやら俺のことを大層心配してくれたらしい。
「お兄様も桜井さんも自分の足で帰ってきたのに、貴方だけ気を失って帰ってきたんだもの。心配するのは当然でしょう?」
「ありがとう、姉さん。心配かけたね」
どうやら出陣前に制止された時無視したことはもう忘れているらしい。
まあその後兄さんの事情について聞いたりとインパクトの強い出来事が色々あったからな。
それも仕方あるまい、というかむしろ好都合である。
「ところで姉さん、お兄様って……?」
「ああ、この呼び方?わたし、これまでお兄様にすごく失礼だったわ。お兄様がどれだけわたしのことを思って下さっているか全く理解していなかったんですもの。……それとも、貴方もこの呼び方には反対かしら」
最後の台詞と共に浮かべられた笑み。
冷笑という言葉では生温い、極寒の笑み。
何というか、近い将来氷の女王と呼ばれるその片鱗を見た気がする。
怖い、怖いから。
「そ、そんなことないよ。そもそも俺は兄さんと仲が悪いわけではないよ」
「あら、そうなの?」
驚く姉さん。
俺も兄さんも、外面は非常に良いし隠し事は上手だからな。
「俺と兄さんは、お互いの合意の上で人前では次期当主と使用人という立場を崩さなかったからね。姉さんも上手くやるならそっちの方が良いと思うけど?」
「上手くやる……まあ確かにお兄様と呼ぶことすらお母様は良くは思っていらっしゃらないようだったけれど」
「多分叔母上はあまり気にしないと思うけど、他の四葉の人間や
分かりやすくいうと原作でたまに出てきた青木なんかが当てはまるだろうか。
魔法とは
その為、
だがそこに縛られずに見るならば、系統外精神干渉魔法、或いは普通から逸脱した歪んだ方向に特化した魔法を得意とする四葉の人間としては最高傑作の一つに数えられるのではないだろうか。
と、話が逸れた。
「姉さんも四葉の人間、それも直系だ。必然的に社交の場に出なければならなくなる事もこの先増えていくと思う。だからこそ、そういう立場とか態度の使い分けはこれから先重要になってくると思うよ」
「そう……ね。考えておくわ。それじゃあ和也、ゆっくり休みなさいね」
今の俺の言葉に思うところがあったのか、何かを考えながら姉さんは部屋を出ていった。
……俺も少し寝ますかね。
◆ ◆ ◆
それから数日後、俺たちの泊まる別荘に再び風間大尉が訪ねてきた。
何でも先日の件の感謝などについて話をしにきたということだ。
話し合いの場には俺と兄さんに、母上たちも含めた全員が参加することになった。
「まずは、先日ご協力頂いたことに感謝致します。達也殿と和也殿、そして桜井殿のお力が無ければ我々は全滅を喫していたところでした」
「いえいえ、お役に立てたなら良かったわ」
そう答えるのは母上。
いつものように退屈そうな表情を浮かべている。
母上は基本的に話に参加する気はないと事前に聞いていた。
話をするのは四葉の次期当主である俺に任せる、と。
「それと、今回の件の顛末についてお話ししておこうかと思いまして」
「おや、我々に話してもよろしいのですか。てっきり軍の機密に該当すると思いましたが」
何しろ軍に内通者がいたということなのですから。
そう告げると、大尉は顔を顰める。
「此方としては言い訳のしようもありません。が、だからこそ話しておくべきかと思いましてな」
一旦基地に戻った大尉はその足で先ほどの命令を出した司令部に向かったそうだ。
そして司令官を詰問したものの知らぬ存ぜぬで通されてしまい、手が出せなかったそうだ。
それどころか勝手な現場判断で部下を危険に晒したとして処分を受けることになってしまったらしい。
ならばと通信機器を調べるが、その通信のところだけ既に履歴が改竄されていて無駄だった。
大尉の持っている端末にも履歴は残っていた筈なのだが、いつの間にかそれも削除されていたらしい。
打つ手無しかと思われたその時、東京にいて付き合いのある上官の一人からある部下を紹介されたそうだ。
「コンピュータや電子系などに強い軍人でしてね。『
ああ、藤林さんですね。
大尉は藤林さんに頼んで削除された通信のデータを復元して、そのデータを藤林さんを紹介してくれた上官に送ったらしい。
当然ながら例の命令を出した司令官は国防軍本部に召還されて尋問を受け、罪を認めたらしい。
「で、大事なのはこの後なのですが」
例の司令官は元から日本の人間だ。
それが何故国防軍を裏切り、現場に嘘の情報を流したのか。
それらは全て、一人の男に唆されたからだというのだ。
さらに、大亜連合が攻めてくるのと同時に国防軍を裏切って大亜連合に寝返った軍人達も、とある男と出会った頃から少しずつ反日へと思考が傾いていったのだという。
そして、証言からどちらも同じ人物を指していると判断された。
つまりこの男が今回の一件、その全ての糸を裏で引いていたということだ。
元々は祖国への愛から国防軍に入り、司令官になるまで出世した男を唆して日本を裏切らせ、偽の情報を流させる。
同時に、沖縄基地所属の「レフト・ブラッド」たちを言葉巧みに操り、自分たちの境遇の悪さと居心地の悪さを増幅させてその不満を日本へと向けさせる。
これだけのことが一人の男の手によって為されたのだ。
その男の名前は――と尋ねると、それは何故か記憶にないらしい。
ただ、先生と呼んでいたと。
風貌はというと、此方も大したことは分かっていないらしい。
長髪の中国系の美麗な青年だったというのだが。
「今後国防軍はこの男の素性を探り、その身柄を追います。このことを一応ご報告しておこうかと思いまして」
「……そうですか。わざわざありがとうございます」
「いえ。では小官は本日のところは、ここで失礼いたします」
そう言って、風間大尉は帰っていった。
◆ ◆ ◆
その後、俺は自分に割り当てられた部屋でソファーに身を深く沈めながら先ほどの風間大尉の話を思い返していた。
中国系の、長髪の美青年。
流石に彼らはまだその素性を特定できてはいなかったみたいだが、原作知識という名のアドバンテージを持つ俺にはそれが誰だか思い当たった。
そのせいでその後の対応がどこか上の空になってしまい、怪しまれたりはしなかったかと心配になるほどだ。
俺の予測が正しければ、その男の名は――
ブランシュや
フリズスキャルヴのアクセス権を持つ「七賢人」の一人であるジード・ヘイグの部下であるとされるが、未だに謎の多い男である。
まさかこんなに初期から蠢いていたとは知らなかったが。
いや、よく考えると原作ではこの裏切りも無かったのか。
つまり、俺の存在によって周公謹の動きが活発になっているのか?
とにかく、周公謹とは長い付き合いになりそうだ。
お読みいただき、ありがとうございました。