魔法科高校の加速者【凍結】   作:稀代の凡人
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第9話

「――そろそろ、20km圏内に入る」

 

「了解。――発射準備に入ります」

 

「お二方、障壁張ってもらえます?余波までは防ぎきれないと思うので」

 

「了解した」

 

敵艦が試射を開始する。

その一つが、こちらへ飛んでくる。

かなり弾速が速いな。

でも、これぐらいなら……!

 

「[発火(オーバー・フレイム)]」

 

電磁加速により撃ち出されたフレミングランチャーの砲弾は、俺たちから100mの位置で爆発した。

 

フレミングランチャーの砲弾は爆弾、つまり中に火薬が詰まっている。

ならばそれを先に加熱して爆発させてしまえばここまでは余波しか届かない。

 

発火(オーバー・フレイム)]は、[凍火(フリーズ・フレイム)]とは対極に位置する魔法だ。

火薬の暴発を引き起こすこの魔法は、対銃火器戦において無類の強さを発揮するのだ。

砲弾がただの鉄球だったら別だが、爆弾ならばこちらの方が適している。

 

比較的負担の少ない魔法なのだが、欠点として正確な照準を必要とするためフルスペックの[観測者の眼(オブザーバーズ・アイ)]を併用しなければならない。

だが、フルスペックのそれを10分間使い続けながら連続で魔法を行使しなければならないとすると、500mでは少々危ない。

行けるかどうか際どいところだ。

本当ならば確実性を持って100mに狭めたい。

 

そのためこちらから100mまでこないと発動出来ないのだが……[加速(アクセラレーション)]による魔法演算領域の処理速度の上昇、フラッシュ・キャストなどを盛り込んで精一杯急げば十分間に合いそうだ。

ただ、問題は…。

 

「くっ、爆風が……!和也くん、我々は障壁魔法は得意じゃないんだけどねぇ!?」

 

障壁の方だ。

今のはまだ余裕みたいだが、すぐにこの数倍はキツくなる。

そうなると正直厳しいだろう。

片や古式魔法師、片や魔工師だからな。

どちらも対物干渉力は決して高いとは言えない。

 

発火(オーバー・フレイム)]はあくまで爆弾を爆発させるだけの魔法だ。

爆発によって発生する爆風、飛んでくる金属片などは防げない。

 

今ならばまだ余裕があるから防げるが、フレミングランチャーの特徴はその連射性。

全てを爆発させるにはこちらにかかりきりになる必要があるだろう。

 

となると俺の方もすぐにこっちで手一杯になるだろうから障壁まで張る余裕はないし……。

どうする……?

 

「――援護します!!」

 

ナイスです、桜井さん。貴女を待ってました。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

途中参加の桜井さんに、今の状況と俺が求める役割を伝える。

 

「桜井さん、俺が砲弾は全部100m手前で爆発させるので、余波を防いでください」

 

「了解しました。……ただ、よろしいのですか?」

 

「ん、何が?」

 

「過度の魔法行使は身体に支障をきたします。元造様も深夜様もそれでお身体を……何がおかしいんですか」

 

その言葉に思わず笑ってしまい、睨まれる。

 

「くくっ、桜井さん。――俺を、誰だと思ってるんだ?四葉真夜から認められたこの俺が、この程度を負担に感じると?舐めてもらっては困る」

 

尊大な態度で、しかし暗に心配するなと告げる。

 

ここで譲ってしまって、万が一が出たらどうする。

俺もまだまだ死にたくはないし、負担が大きすぎて無理そうならば手伝ってもらうことにするが、桜井さんは黙って無理をしてしまう可能性が捨てきれない。

どこまでが許容範囲か分からない以上、攻めないで安全策を取った方が良いだろう。

 

「!!……失礼しました」

 

そこまでは分からなくても俺の心配するなという言外の意思に気付いたのか、桜井さんは慌てて謝罪する。

 

「……本命が来るぞ。後は任せた」

 

「は、了解しました」

 

亜音速で撃ち出される幾つもの砲弾。

先ほどの数発で角度の調整は終えたのか、ほぼ正確に砲弾はこちらへと飛来する。

数秒も掛からずこちらに到達するそれを、しかし俺は一瞬で次々と爆発させていく。

視界が爆風で埋め尽くされるが、俺も兄さんも肉眼で対象を認識しているわけではない。

問題はないだろう。

 

そして障壁は、今度は全く揺るがない。

流石は桜井さん。

 

「この調子であと10分、耐え切りますよ!」

 

「了解です!お任せください!!」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

兄さんから指定された時間は10分。

それまで俺はひたすら敵の艦砲攻撃を防ぎ続けなければならないのだが……。

7分も経つと、頭にだんだん靄がかかってきているかのような状態になってくる。

 

そもそも[加速(アクセラレーション)]は、加速度最高で長時間使うようなものではないのだ。

普通はそんなに必要ないので、大抵は出力10%程度。

精々30%あれば、殆どの場面は事足りてしまうのだ。

 

先ほどまでは敵艦は2隻だと思っていたし、それならば余裕を持っても20%で十分なのだ。

 

大体、誰が殆ど一人で軍艦10隻の艦砲攻撃を10分防がなければならない状況に陥ると想像するだろうか。

本当に勘弁してほしい。

全く、人生とはままならないものだなぁ。

 

何て現実逃避気味に頭の悪いことを考えている時点で、今の俺は相当ヤバイ。

そろそろ幻覚とか見え出すかもしれん。

 

それでもどうにか集中力を振り絞り、疲労が蓄積してきている頭脳や悲鳴を上げる魔法演算領域に鞭打って、必死に魔法を使い続ける。

 

もはや照準から何から殆ど機械的になっている。

ほら、こうして砲弾の中の火薬に照準をあわせて、照準を……火薬がない!?

 

「奴ら普通の砲弾も持ってやがったのか!?」

 

既に砲弾は30mまで迫っている。

が、その時[物質蒸散(ヒート・ヴェイパリゼーション)]を発動。

ギリギリのところで、防いだ。

 

その後、時折混じってくる火薬無しの砲弾に苦しめられながらもどうにか3分間を耐え切った。

 

そして、ようやく。

 

「――[質量爆散(マテリアル・バースト)]」

 

兄さんの、戦略級魔法が放たれ、3発の銃弾が分解された。

 

分解された物体は(質量)×(光速定数の二乗)のエネルギーに変換される。

 

そのエネルギーは光や熱エネルギーとして放出され、閃光が10隻の敵艦を全て呑み込んだ。

 

そしてこれだけの攻撃、当然ながら余波が発生する。

 

「――津波が来るぞっ!退避しろっ!!」

 

それに反応して皆が動きだそうとした瞬間、衝撃波がここまで到達、船を大きく揺らした。

衝撃波に加え突然足場が揺れたことで俺たちは体勢を崩し、一瞬身動きが取れなくなる。

この一瞬は、致命的だった。

 

その後俺たちは急いで動き出そうとした。

しかし、[質量爆散(マテリアル・バースト)]の範囲に比例して発生した津波も大きくなっている。

何が言いたいかというと、全員が体勢を立て直した頃には既に波は近くまで迫っており、このままじゃ逃げ切れないまま津波に飲み込まれることになるのだ。

 

くっ、どうする……?

兄さんの[分解]――ダメだ、効果範囲が足りない。

桜井さんの障壁魔法――これもダメだ、圧倒的に干渉強度が足りない。

 

回らない頭で考えてみるのだが、現在この状況をどうにかし得るのは残念なことに俺しか居ないみたいだ。

……仕方ない、最後の一仕事をするか。

 

「桜井さん……このままじゃ、逃げきれないで、津波に捕まる」

 

「そんなことは分かってますよ……!でも、私でもあれは防ぎ切れません!」

 

「だから……俺が、どうにかする。後は、任せたよ……」

 

「そんな、無茶です!さっきからあれだけ魔法を連発していたのに……!」

 

「だからって、ここで温存して、死んだら……悔やんでも、悔やみきれないから」

 

桜井さんの制止を無視して、俺は迫り来る波に目を向ける。

そして、魔法を発動した。

 

振動系統魔法[氷炎地獄(インフェルノ)]。

 

波を中央部分と両端に分け、中央部分の熱エネルギーを両端に逃がすことで中央は凍結、両端は蒸発する。

 

それを見届けて、俺は桜井さんに身を預けて意識を失った。




お読みいただき、ありがとうございました。




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