魔法科高校の加速者【凍結】   作:稀代の凡人
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第8話

◇ ◇ ◇

 

 

 

戦場に出た二人を目にした風間と真田は目を見開いていた。

その体躯は鍛えられながらも未だ子供で、年齢もようやく初等教育を終えたばかり。

しかし、二人の魔法師としての技能は大人のそれをも凌駕していた。

 

達也が右手を向けると指し示された者は跡形もなく消え去り、左手を向ければ味方兵士の傷が消える。

何が起きているのかはおおよそしか分からないが、凄まじい働きである。

 

そしてもう一人、和也。

彼もまた獅子奮迅の働きを見せていた。

彼だけを見ると、両手をポケットに突っ込んで散歩しているかのような気楽さで歩いている。

が、周りを見るとそれとは対照的だ。

 

彼の周りにいる敵兵は、問答無用で消滅する。

達也とは同じようでいて、しかしよく見ると似て非なる魔法だと分かる。

 

そして彼に飛来する攻撃は全て、彼を中心とした半径3〜5mの不可侵領域への侵入を阻まれていた。

事前に近付くなと言われていたわけがよく分かる。

 

今現在戦場に出ている兵士の誰よりも、この二人は活躍していると言えた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

俺は今、全力で敵の殲滅に掛かっていた。

 

使う魔法は兄さんとほとんど同じ結果を生み出しながら、しかしその実全く違う魔法。

 

振動系加速魔法[物質蒸散(ヒート・ヴェイパリゼーション)]。

物質を構成する分子の熱運動を加速させ、激しく振動させて分子間に働く力より大きな力が働くことで分子がバラバラになる魔法だ。

動いている物体は加熱のために運動エネルギーが奪われるため、例外なく停止、気化する。

 

それは人ですら例外ではない。

この魔法に関してのみ、俺は殆どの魔法師の身体を覆う情報強化を一瞬で突破することが出来る。

流石に一条の[爆裂]ほど生体干渉に特化しているわけではないが。

特に迎撃に無類の強さを発揮する切り札であり、同時に対外的には(・・・・・)俺の特異魔法である。

 

更に[観測者の眼(オブザーバーズ・アイ)]によって座標指定をしているので、死角はない。

現在俺はそれを全開にして戦場全体の状況をリアルタイムで把握していた。

具体的に言うと、半径100m以内に存在する全ての原子の位置、構成、温度などを観測(・・)し、それらの情報を処理して組み立てた立体的な図を脳に投影しているのだ。

 

当然ながら、これだけの情報量が脳に流れ込んできたら普通なら一瞬で廃人になる。

しかし俺は、それを全て難なく処理していく。

これこそ、俺の真の(・・)特異魔法の効果だ。

 

系統外精神干渉魔法[加速(アクセラレーション)]。

 

対象の精神に干渉して任意の正の加速度を与える魔法だ。

この場合精神とは意識と無意識を合わせたもののことを言う。

この魔法を使うことによって意識つまり思考の加速、無意識領域にある魔法演算領域の処理速度の加速が可能となるのだ。

唯一、欠点として自分以外を対象と出来ないのだが。

 

その二つを十全に生かし、膨大な情報量が頭に流れ込んでくる[観測者の眼(オブザーバーズ・アイ)]を使いこなしているのだ。

それでも、本来先天的に備わっているはずの知覚系魔法を後天的に無理やり再現しているから、無理は多いのだが。

 

また、魔法を組み上げる速度はおそらく世界最速。

例え相手のサイオンの活性化を確認してから、[加速(アクセラレーション)]で魔法演算領域の処理速度を加速し、魔法を発動しても十分間に合うほど、俺の[加速(アクセラレーション)]の発動は速い。

 

兄さんの[分解]や[再成]はまあ特別として、俺の特異魔法は主に自己強化に使うから、叔母上の防御不能な[流星群(ミーティア・ライン)]や姉さんの精神を凍結させる[コキュートス]と比べると地味だ。

 

だが、これにより生まれる効果はどれよりも上だと思っている。

上がるのは処理速度だけで干渉強度と演算規模は変わらないのだが、それも四葉直系に恥じないものは持っている。

つまり、俺は正面からの魔法の撃ち合いにおいては世界最強ということだ。

 

 

 

さっきまでは自分自身と大亜連合に対して怒り狂っていたのだが、ただ怒るだけでは何の利益にもならない。

それどころか視野が狭まり、判断ミスで命を落とすことすら考えられる。

緊急時なので[加速(アクセラレーション)]の思考加速を用いて、どうにか自分の心に折り合いをつけたのだが、それで完全に納得出来るのは兄さんぐらいなものである。

 

その怒りを、俺は今ここで思う存分発散していた。

敵が一人また頭を撃ち抜かれた、というのを認識した時には既にまた別の敵兵を撃ち抜いている。

こういうのを無双と言うのだろうか。

 

と、敵の白旗の旗手を撃ち抜こうとした兄さんが柳さんに押さえられ、戦闘が終了した。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「……はっ。了解しました。――全軍、捕虜を連れて帰投せよ」

 

敵艦と20分後に接触する。

対艦戦力も援軍も無く、兵士の数より多い捕虜を全員連れていっては、確実に途中で攻撃を受ける。

しかし軍人として上には逆らえず、理不尽な命令に従うしかないからか苦渋の表情でそう告げる風間大尉。

 

「……風間大尉。先日見せていただいた遠距離狙撃用武装一体型デバイスはありますか?」

 

「真田」

 

「はっ。今ここにはありませんが、ヘリに積んであります。5分ほどで届きますが――」

 

「持ってきてください。俺には敵艦を撃退する手段があります。ただ、誰にも見られたくないので軍には先に撤退していただきたい」

 

「いや、俺と真田は残る。構わないな?」

 

「……分かりました」

 

「俺も残ります」

 

話が終わりそうだったところに割り込む。

風間大尉と真田中尉は訝しむようにこっちを見て、兄さんは首を振る。

 

「ダメだ、お前も先に帰れ。お前は四葉家次期当主だろう」

 

「四葉家次期当主としては、強力な手札となる戦略級魔法師を失うわけにはいかない。弟としては……なおさら見捨てるわけが無いだろう。大体、大した障壁も張れないくせに前線でアレをやろうなんて、無茶にもほどがある」

 

普段なら使わないような言葉を敢えて使うのは、それだけここから退くわけにはいかないから。

 

それが伝わったのか、それとも単に説得を諦めたのか……取り敢えず、兄さんは許可を出した。

 

「CAD、届きました」

 

「ありがとうございます」

 

兄さんは、発動準備に入った。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

兄さんは現在、受け取ったCADの試し撃ちをしている。

 

「ダメですね。20kmが良いところでした。そこまで待つしかありません」

 

試射を終え、兄さんは首を振る。

 

「待て、だが20kmとなると相手も射程圏内に入る」

 

「ええ。ですから、お二人は退避を――」

 

「――大丈夫ですよ」

 

「……和也?」

 

「敵艦の砲撃は全て俺が防ぐ。最も少しはご協力いただかないといけませんが」

 

「そ、それは構わないが……」

 

それに頷き、兄さんを見る。

 

「敵艦は、何発あれば全滅させられる?」

 

「それは配置と何隻あるかによるが……」

 

「巡洋艦2隻、駆逐艦5隻と聞いている」

 

ここで風間大尉が口を挟む。

 

「なるほど。だがまあ一応確認しておく……!?」

 

観測者の眼(オブザーバーズ・アイ)]の機能と方向を限定して範囲を伸ばし敵の姿を確認した俺は、思わず絶句してしまう。

 

「どうした?」

 

「……敵巡洋艦、2隻どころの騒ぎじゃないんですけど」

 

「どういうことだ……?」

 

「ざっとその5倍。10隻ってとこですかね」

 

「何だと!?事前に入った情報では2隻しかないと――」

 

流石の大尉も動揺を隠し切れないらしい。

事前情報と違うとなると、考えられる可能性は3つか。

 

「途中で合流したのか、こちらの情報網が欺かれたのか、或いは……」

 

「司令部に敵の手が入り込んでいるか、だな」

 

敢えて濁した3つ目だが、それは大尉も理解しているらしい。

 

途中で合流したにしてもこの遮るものの無い海でどこに隠れていたんだという話だし、仮にも先進国に数えられる日本の情報網が欺かれたとは考えにくい。

 

となると一番可能性が高いのは3つ目である。

先ほどの基地内でのことも考えると、これで殆ど決まりだろうな。

 

普通に考えてあの数の捕虜がいて敵艦が来る前に帰投するというのは不可能に近い。

これが敵艦2隻ならばまだ被害が少なく済む可能性があった。

しかし10隻となると、全滅以外の道が見えない。

この命令を聞いたものは全員あの世で、死人に口無しと現場の自己判断とされてしまうだろう。

 

まぁ、俺たち兄弟が居なければ(・・・・・・・・・・・)の話だが。

 

「兄さん、今の聞いてた?」

 

「ああ」

 

「その上で聞くよ。準備に何分必要?」

 

「10分あれば」

 

「了解」

 

10分か。

 

拠点防衛が最も適していると自負してはいるが、相手は海岸への攻撃ならば最大火力を誇るという沖からの艦砲斉射攻撃。

それを10分となると、どうにかなるか微妙なところだな。

 

だが、俺の後ろには母上が、姉さんが、桜井さんがいる。

隣には兄さんがいる。

 

――ならば、俺の命にかけてもどうにかしてみせるさ。




お読みいただき、ありがとうございました。




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