魔法科高校の加速者【凍結】 作:稀代の凡人
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多くの方にお読みいただいているようで、ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
俺が追い付くと、丁度姉さんを治すところだった。
神の如き魔法、[再成]。
正確には魔法ではないらしいが、その効果は絶大だ。
その分、兄さんは想像を絶するほどの苦痛を味わっているのだが。
次に兄さんは母上たちの下へ向かう。
そして姉さんや、その目はまるで恋する乙女なんですが、あなたたち兄妹ですよ?
……なんてふざけたことでも考えて居ないと、怒りでどうにかなってしまいそうだ。
既に姉さんには傷は残って居ないが、あの血だらけの姿は脳裏に焼き付いている。
あれは、俺が止められると分かっていて放置した結末だ。
兄さんと姉さんの関係を改善する重要なファクターだったし、兄さんが参戦した理由にもなったから敢えて介入せずに見送ったのだが。
これは中々、くるものがあるな。
裏切った軍の連中、大亜連合、そして何より、自分が許せない。
「風間大尉。俺も戦闘に参加します。奴らには、報いを与えねばなりません」
「俺も、行きます」
兄さんの怒りを押し殺した声に、俺も乗る。
大亜連合には、誰に手を出したかを思い知らせてやる。
「……非戦闘員や投降兵への攻撃は認められんぞ」
「投降する暇など、与える気はありませんから」
「同じく」
「ならばよし。おい、白兵戦用の装備を二人分用意してやれ」
「軍の指揮に従うつもりはありませんが」
「大亜連合という敵と、敵の殲滅という目的が同じならば、肩を並べて戦いましょう」
「それで構わん。歓迎しよう、達也くん、和也くん」
◆ ◆ ◆
「お兄様!!和也!!」
通路に姉さんの声が響く。
俺と兄さんは立ち止まり、兄さんだけが振り返る。
「あ、あの……行かないでください。お兄様が行かれる必要は、無いと思います。和也も、そうです」
俺は……答えられない。
顔を見ることが出来ない。
せめて、自分の中でのケジメ……大亜連合を殲滅するまでは、向き合うわけには行かない。
そう、決めたから。
「ごめんな、深雪」
しかし、兄さんにはそんな負い目は無い。
「でも、俺は行く。自分が行きたいから行くんだ」
あるのはただ、敵への深い怒り。
「俺が
そして、姉さんへの深い愛のみ。
「……本当に、想える……?」
姉さんの、不思議そうな声。
「そこに気付くか、参ったなぁ。……まぁ、お前ももうそろそろ知っても良い頃だろう。母さんに聞いてみなさい。今、自分が疑問に思ったことを」
「お母様に……?」
「うん。……じゃあ、俺はもう行くよ。大丈夫、俺を
少しして、兄さんが駆け寄る音がする。
「良いのか、和也」
「ええ。今の俺では、姉さんと話すことは出来ないので」
「……そうか」
兄さんはあまり納得して居ない様だったが、俺の意思を尊重してくれるのだろう。
黙って引き下がった。
「それより兄さん、
「何のことだ?」
上手にすっとぼける兄さん。
……ふむ。
確信しているので別に兄さんから答えを引き出さなくても良いのだが、折角だから一つ試したいことがある。
「兄さんって嘘を付く時左上を見る癖があるんですよ」
「そんなバカな……やられたな」
慌てて視線を戻そうとして、諦めた。
ハッタリだと分かったからだ。
あんなことを言われると、大抵の人間は別に左上を見ていなくてもその逆方向を意識してしまうものだ。
特に、嘘をついている人間ほど。
「兄さんにも通用するなら、これは正式採用しようかな」
「二度は効かないぞ?」
ふっと笑った俺に、溜息を吐きながらそう言う。
「まぁ、良い機会ではあったからね。それに、これから色々と大変になるし」
「ああ。俺への命令権を唯一持つ深雪には、しっかりしてもらわないと困る」
お姫様も、いつまでも脳内お花畑ではいられないということだ。
いや、脳内お花畑は言い過ぎだが。
兄さんはこれから、おそらくその身に生まれ持った異能を十全に発揮するのだろう。
軍にとって、その有用性は計り知れない。
人を、物を、その区別なく跡形もなく消滅せしめる[分解]。
24時間以内ならば、あらゆる損傷を元の状態に戻し、無かったことにする[再成]。
この二つしか満足に使えないが、しかし魔法師としては凶悪なほどの実力だ。
おそらく四葉と軍の思惑が入り混じり、更に今後他家、或いは他国からの干渉が入ることも考えられる。
現時点で、何があっても兄さんの味方になるのは俺と姉さんだけだ。
そして、俺たち三兄弟の中で一番の弱点となるのはおそらく姉さんだ。
兄さんの異能、俺の特異魔法と比べ、姉さんの「コキュートス」は強力な魔法ではあるもののそれだけだ。
魔法師としての実力は最も低い。
しかし、だからと言って姉さんを切り離すことなど決して出来ない。
だからこそ、彼女にはもっと強くなってもらわなければならないのだ。
魔法師としても、人としても。
お読みいただき、ありがとうございました。