二人目の妹は入学すら出来ませんでした   作:スパイラル大沼
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手術

 

 

 

ブチギレた美雨は、穂波と深雪と深夜を撃った男の元へ歩いた。

 

「な、なんだテメェ!」

 

男は躊躇なく美雨に発砲。全部直撃、だが傷一つつかない。元々そうか。そして、目の前まで悠然と歩いたあと、拳を引いた。

 

「て、テメッ……!」

 

言いかけた男の顔面に拳が直撃した。瞬間、男はどういうわけか、ビーム兵器を喰らったように消滅した。

 

「………は?」

 

それを見ていたディックから間抜けな声が出る。さらに、殴ったことによって拳を振り切った方向の基地や壁が全て吹き飛んだ。

 

「………お、おいおい。冗談だろ……」

 

と、呟くディックにゆっくり歩み寄る美雨。そして、腹にアッパーを放った瞬間、同じように消滅し、天井も吹き飛んだ。

 

「! 美雨、深雪!」

 

その時、達也の声が入り込んできた。そして、まず達也は深雪の元に走った。そして、再生を発動した。

 

「深雪、大丈夫か⁉︎」

 

「お兄様……」

 

「よかった……っ!」

 

深雪をギュッと抱き締める達也。その後、深夜と穂波を再生させる。最後に、美雨の方を振り返ったが、美雨はその場にはいなくなっていた。

 

「クッ……!」

 

達也は奥歯を噛む。すると、遅れて風間と真田がやって来た。

 

「すまない。叛逆者を出してしまったことは、完全にこちらの落ち度だ。何をしても罪滅ぼしにはならないだろうが、望むことがあればなんなりと言ってくれ。国防軍として、でき得る限りの便宜を図らせてもらう」

 

深雪の隣で達也と風間大尉が向かい合った。

 

「なら、アーマースーツと歩兵装備一式を貸してください。貸す、といっても、消耗品はお返しできませんが」

 

「……なぜだ?」

 

「妹を止めます」

 

「………妹?」

 

「美雨が、本気で荒れ狂った美雨が、基地を飛び出して暴れ回っています」

 

それを聞いて、真田と風間は吹き飛んだ基地を見た。

 

「………まさか、これを妹さんがやったというんですか?」

 

「その通りです」

 

真田の質問に達也は即答した。

 

「……了解した」

 

風間はそう答えた。

 

「軍に手出しはさせないで下さい。下手に手を出せば無駄死にするだけです」

 

「……そうだな。君に任せよう」

 

それを聞くと、達也は風間と真田と共にその場を離れようとした。

 

「待ってください」

 

穂波が声を掛けた。

 

「私も行きます。美雨さんは、達也くんだけでは止められません」

 

「しかし、桜井さんは……」

 

奥様のガーディアンなのでは?と言いかけた達也の台詞を穂波は遮る。

 

「このまま美雨さんを放置していれば、余波に巻き込まれてどの道危険です」

 

「………分かりました」

 

「では、真田。彼女達を防空司令室へ案内したあと、戦線に復帰しろ」

 

「了解しました」

 

達也、穂波、風間はその場を離れた。が、その後を深雪は追った。

 

「お兄様!」

 

達也は振り返る。

 

「深雪、どうした?」

 

「お兄様、あの……い、行かないでください……」

 

顔を赤くしながら深雪は言った。

 

「美雨を止めるなんて……そんな……」

 

「ダメだ、深雪。このままだと、美雨は正気に戻った後、自分のしでかしたことを理解してしまい、感情が壊れてしまう。それに、沖縄を沈めて、お前も危険に晒しかねない。だから、兄貴の俺が止めないといけないんだ。俺にとって、本当に大切だと思えるのは、お前と美雨だけだから」

 

その言い方に、深雪は少し違和感を覚えた。『大切なもの』ではなく、『大切だと思えるもの』と言った。そこに疑問を持ってると、達也はそれを見透かしたように言った。

 

「今は時間がないし、俺から話して聞かせるべきことでもないと思う。深雪、今お前が思ってることは、母さんに教えてもらいなさい」

 

「お母様に……?」

 

達也はその問いに頷いて答えると、頭を撫でて今度こそ立ち去った。

 

 

 

 

防空司令室。そこに避難した深夜と深雪は戦闘の様子をモニターで見ていた。すると、深雪が口を開いた。

 

「お母様、一つ、お教えいただきたいことがあるのですが」

 

「あら、どうしたの?」

 

「先ほど、お兄様は私や美雨の事を『本当に大切なもの』ではなく、『本当に大切だと思えるもの』と仰られました。理由をお聞きしたところ、お母様に教えていただくように、と……」

 

「そう。達也がそんなことを。まぁ、そろそろ教えてあげても良い頃かしらね」

 

そして、深夜はこれと言って何も考えてないような顔で言った。達也のことを話し始めた。分解と再生しか使えないこと、自分が達也に手術をして、妹以外への愛情以外の感情を消したこと。

 

「なんて、ことを……」

 

深雪は絶句したが、深夜の台詞は続いた。

 

「あと、この際だから、美雨の事も話しておこうかしら。美雨に関してはどうしてあんな風になったのかわからないのですよ」

 

「へっ……?」

 

聞いてもいないことを語られ、深雪は少し戸惑った。

 

「生まれつき、化け物じみた怪力だったのです。あれ程の力だと、もし仮に達也の手術の事を知られれば、私達の命を狙ってきた時に対処する方法なんてありませんから、あらかじめあの子にも手術をしました」

 

「手術……?」

 

「そうです。私や真夜を認識できないようにするための。あの子の視界には私は『そこにいる誰か』にしか見えません」

 

「ッ……!」

 

深雪は言葉を失った。そして思い出した。これまで美雨と一緒にいて、妹は自分の母親と会話どころか、目を合わせたことすらもなかったことを。

 

「まだ何か、聞きたいことはありますか?」

 

「いいえ、ありがとうございました……」

 

深雪は後悔した。聞かなければよかった、と。そして、それと同時に思った。美雨はこれまで、「親を知らずに生きてきたんだ」と。

 

(これからは、美雨は私が守る……!)

 

深雪は、そう決心した。

 

 





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