二人目の妹は入学すら出来ませんでした 作:スパイラル大沼
<< 前の話 次の話 >>
2日後。朝飯食ってる。
「あ、ほら美雨さん。口元にソース付いてますよ」
言いながら穂波さんがそのソースを指で拭ってくれる。ああ、やっぱこの人天使だ。
「穂波さんも、ここにほっぺが付いてますよ」
言いながらあたしは穂波さんの頬を舐める。全く、困った子ねとでも言わんばかりに穂波さんはため息をついた。
すると突然、テレビで国防軍から緊急警報が漏れた。
『西方海域より侵攻』
「宣戦布告は無し』
『潜水ミサイル艦を主兵力とする潜水艦隊による奇襲』
『現在は半浮上状態で慶良間諸島を攻撃中』
おっほぉおおおおお!面白そうなことになっちょるやんけ!今すぐにでも突撃しに行きたい所だけど深雪の説教怖いからやめとこ。
すぐさま穂波さんは目の色を変えて、自分のなすべきことを始める。
まぁ、軍隊の兵器じゃあたしには傷付かないし、引き続きご飯食べよ。……今日のシャケの味付けサイコー。そんなことを考えながら飯を食ってると、深雪に頭を叩かれた。
「何してるの!」
「ご飯」
「逃げるわよ!基地のシェルターに!」
い、いつの間にそんな話に……。
「え、なんで?」
「はよ!」
「は、はぁ」
*
外に出ると、基地から迎えに車が来ていた。ジョーだった。
「達也、待たせたな!」
「ジョー、わざわざありがとうございます」
「よせよ、他人行儀なあいさつは」
と、兄ちゃんに挨拶すると、今度は穂波さん達の方に言った。
「風間大尉の命令により、皆さんをお迎えにあがりました!」
「ご苦労様、案内をお願いします」
「はっ」
そんなわけで、あたし達は基地へ向かった。
○
無事に基地へ到着。基地に避難している民間人はあたし達だけじゃないようで、90人近くが案内を待っていた。
「おっほー……すごい人……」
思わずキョロキョロしてしまう。不謹慎だけど、あたしはワクワクしている。こんなアニメ的漫画的二次元的な展開なんてそうないからね。あたし的には戦乱の中央に飛び込んでラノベ主人公のごとく無双したいものだ。
「ま、ぶっちゃけうちの家族がいる時に喧嘩売った敵軍が気の毒だよねー」
そんな事を呟きながら、あたしはブレずにゲームをしている。すると、隣でカタカタと深雪が震えてるのに気付いた。……そっか、深雪は実戦の経験がないのか。こういう時、なんて声をかければ良いのか分からない。どうしようか迷ってると、兄ちゃんと深雪の目が合った。
「大丈夫だよ、深雪」
兄ちゃんは優しくそう言うと、言葉を続けた。
「俺がついてる」
あっ、落ちたなこれ。一発で分かった。深雪が顔を真っ赤にしてるのが分かった。
……ちなみに、これがブラコンへの道のスタートということは言うまでもあるまい。
しかし、言うねぇうちの兄貴も、なんて考えてると、あたしは銃声が聞こえた気がして立ち上がった。それは、兄ちゃんと穂波さんも同じだった。
「……達也くん、これは」
「桜井さんにも聞こえましたか」
「あたしも!ねぇ、あたしも!」
「美雨さんは座ってなさい」
「なんで?あたしがいれば一匹も敵を残さず……」
「いいかは座って!」
穂波さんに怒られたので従った。
「じゃあ、やっぱり銃声……!」
「それも拳銃ではなく、フルオートの、おそらくアサルトライフルです」
「状況はわかる?」
「いえ、ここからでは……この部屋の壁には、魔法を阻害する効果があるようです」
と、二人が話してると、不意に少し離れたところから声がした。
「おい、き、君たちは魔法師なのか」
「そうですが?」
桜井さんが答えた。
「だったら、何が起こっているのか見てきたまえ」
「………アア?」
殺意を剥き出しにして低い声が出た。その声にビクッとするおっさんだが、あたしにそんなものは関係ない。次、ナメた口聞いたら本気で殴ろうと決めてると、あたしの肩に兄ちゃんが手を置いた。……不思議だ。この手はいつもあたしの怒りを鎮めてくれる。怒り以外に性欲とかも。
「……私たちは基地関係者ではありませんが」
桜井さんがあたしの代わりにそう言った。
「それがどうしたというのだ。君たちは魔法師なのだろう」
限界突破。ズガンッ!と、音を立ててあたしは床を踏みつけた。ビキビキビキッと基地の床にヒビが入る。
「オイ、ハゲ」
「は、ハゲてない!」
「精神的にハゲ」
……殴るから、と続けようとした時、穂波さんがあたしの前を片手で制した。このままでは言い争いが始まる。その前に奴らの顎を断ち切ってやりたいとか思ってたら、どこからか、声が掛かった。
「達也」
「なんでしょうか」
「外の様子を見てきて」
しかし、兄ちゃんは珍しく反論した。
「……しかし状況が分からぬ以上、この場に危害が及ぶ可能性を無視できません。今の自分の技能では離れた場所から深雪を護ることは」
「深雪?達也、身分を弁えなさい」
「……失礼しました」
兄ちゃんは一言謝罪して、それ以上は反論しなかった。兄ちゃんは外の様子を見に行った。
外からの銃撃の音が近くなってきた。あたしはどうせなら敵兵が雪崩れ込んできて欲しいとか思ってると、ドアの外から兵隊がやってきた。
「失礼します!空挺第二中隊の金城一等兵であります!みなさんを地下シェルターにご案内します」
そう言うと案内を始めようとする。が、
「すみません、連れが一人、外の様子を見に行っておりまして」
桜井さんがそのことを言った。
「しかし、既に敵の一部が基地の奥深くに侵入しております。ここにいるのは危険です」
「では、あちらの方々だけお連れくださいな」
「しかし……」
「キミ、金城君と言ったか。あちらはああ仰っているのだ。私達だけでも先にあんないしたまえ」
精神ハゲに言われて、ゴールデンキャッスルさんは他の人の案内を始めた。
「……達也くんでしたら、風間大尉に頼めば合流するのも難しくないと思いますが」
桜井さんが小声で言った。
「別に達也のことを心配しているわけではないわ。あれは建前よ」
「では?」
「勘よ」
「勘、ですか?」
「ええ、この人たちを信用すべきではないという直感ね」
すると、さっきの金閣寺さんがやってきた。あっ、寺って城じゃねーや。
「申し訳ありませんが、やはりこの部屋にみなさんを残しておくわけには参りません。お連れの方は責任持って我々がご案内しますので、ご一緒に付いてきて下さい」
と、まるで建前のような台詞が聞こえた。その時だ。
「ディック!」
ジョーが現れた。瞬間、金城一等兵はジョーに乱射する。悲鳴が上がる中、桜井さんが起動式を展開する。なんだっけ……キャスト・ジャミング、だっけ?
「ディック!マーク!アル!ベン!何故だ!」
ジョーの声が響いた。
「何故、軍を裏切った!」
「ジョー、お前こそなぜ、日本に義理立てする!」
「狂ったかディック!日本は俺たちの祖国じゃないか!」
「日本が俺たちをどう扱った!こうして軍に志願して、日本の為に働いても、結局俺たちは『レフト・ブラッド』じゃないか!俺たちな、いつまで経っても余所者扱いだ!」
と、なんだかよう分からん言い争いの中、あたしはとりあえずボコボコにしてやろうかと席を立った。すると、隣の深雪が魔法を発動した。
何とか何とか魔法「ナントカ」。ヤベェ、何の魔法だかさっぱり分からん。(後から教えてもらった話だと、精神凍結魔法「コキュートス」らしい)。これで一人を静止させた。
が、敵は一人じゃない。別の男が銃口をこっちに向けていた。
その弾丸が、深雪と、穂波さんと、もう一人を撃ち抜いた。
撃たれた、深雪と、穂波さんが。敵が来ても余裕とか、頭の中であたしは妄そ……イメトレしてたのに、そんな行動は1ミリも出来ずに、実行できる身体能力もあったのに、ただ目の前で、何も出来ずに、二人が撃ち抜かれたのを見ていただけだった。
……アア、ダメダ。あたしの理性が、壊れて行く。
この日、初めてあたしは、本気でキレた。