二人目の妹は入学すら出来ませんでした   作:スパイラル大沼
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組手

 

 

 

そんなわけで、基地を見学。あたしも兄ちゃんも深雪もロープ登り訓練を見ていた。と、思ったら終わった。そして、次は組手訓練。あたしとしては興味津々だったのだが、深雪は随分退屈そうにしていた。まぁそういうのが興味ある人じゃないし、仕方ないか。

 

「司波くん、見ているだけではつまらないだろう?組手に参加してみないか?」

 

風間大尉が声をかけてきた。すると、兄ちゃんは深雪をチラリと見た。

 

「そうですね、せっかくですからお願いします」

 

……あ、深雪が退屈してるの完全に見透かしてた。頭を血が上り、顔が真っ赤になる深雪。っと、兄ちゃんばかりズルいわ。

 

「あ、あたしもやりたい!」

 

「すまない、今言ったのはどっちだ?」

 

風間大尉が聞いた。ああそうか、双子だから見分けつかないのか。

 

「あたし!」

 

元気よく手を挙げて立ち上がった。が、風間大尉は、

 

「……やめておいたほうがいい。ここの者はどいつも指折りの実力者ばかりだ」

 

やんわりとお断りした。

 

「えー!あたしも世界指折りの実力者だよ!」

 

「コ、コラ美雨」

 

深雪に止められる。でもあたしだってやりたいもん。

 

「美雨」

 

今度は兄ちゃんだ。………なんだか初めて呼び捨てで呼ばれた気がする。

 

「やめなさい。お前の力は見せびらかすものではないよ」

 

その言葉にピクッと風間大尉が反応した。

 

「力?只者ではないということか?」

 

「うん!強者!」

 

「美雨」

 

兄ちゃんにまた止められた。

 

「うう……わかったよ……」

 

あたしは大人しく深雪の横に戻った。はぁ……久々に喧嘩したかった……。軍人さんと殴り合える機会なんて滅多にないだろうに……。

 

「司波くん、遠慮はいらないぞ。渡久地軍曹は学生時代、ボクシングで国体に出た実力者だ」

 

大尉がその渡久地という人を紹介する。で、組手開始。あたしはその組手の様子を黙って見ていたが、すごかった。兄ちゃんが一瞬のうちに間合いを詰めると、右手を鳩尾に拳を叩き込んで倒していた。

 

「渡久地!」

 

見ていた軍人さんが慌てて駆け寄って応急処置を始めた。兄ちゃんは軽く下がって一礼する。

 

「これはこれは……」

 

風間大尉も真田中尉も驚いている。

 

「南風原伍長!」

 

「ハッ!」

 

今度は別の人が立ち上がった。

 

「手加減など考えるな。全力で行け!」

 

「ハッ!」

 

そして、もっかい襲い掛かる。それでも兄ちゃんは落ち着いて南風原という人の攻撃を捌いていた。

 

「………すごい」

 

兄ちゃんって、こんなに強かったんだ……。

 

「実践的ですね、彼は。相手が暗器を持っている可能性を想定した間合いの取り方です」

 

「そうだな」

 

真田中尉と風間大尉も絶賛していた。深雪も目を丸くして見ていた。そして、南風原伍長の脇腹に肘打ちを決める兄ちゃん。それを喰らい、二、三歩よろめいた所で「そこまで!」の声が上がった。

南風原伍長と兄ちゃんは握手をした。その後、真田中尉が兄ちゃんに言った。

 

「南風原伍長にまで勝利するとは大したものです。彼はこの隊でも指折りの実力者なのですよ?」

 

「まさか、ここまでの腕とは思わなかった。何か、特殊な訓練でも受けているのですか?」

 

風間大尉も続く。

 

「いえ、特殊なことは何も。強いて言うなら母の実家に道場がありまして、そこで稽古をつけてもらいました」

 

「ほぅ……」

 

風間さんが頷く。

 

「しあしこのままでは恩納空挺隊の面目は丸潰れですな。もう一手、お付き合い願えませんか」

 

うわあ……それは少し勝手なんじゃ……。と、あたしは思った。深雪もそう思ってるようで断ろうとしたのか口を開きかけた。だが、

 

「自分にやらせて下さい!」

 

一人のハゲが立ち上がった。あれ?あのハゲこの前絡んできた奴じゃない?

 

「桧垣上等兵、報復のつもりなら認めることはできないぞ」

 

「報復ではありません、雪辱であります!」

 

「……ふむ、司波くん。本人はああ言ってるが、付き合ってもらえないだろうか?桧垣上等兵は若いながら、南風原に劣らぬ猛者だ」

 

風間大尉がそう言うと、兄ちゃんは淡々と言った。

 

「お相手します」

 

で、お互いに隙を窺うように間合いを取る。ハゲは腰を落として構え、兄ちゃんも隙を窺うように横に移動する。その瞬間、桧垣上等兵の体がものすごい速さで兄ちゃんに迫った。

……自己加速術式!そう判断した瞬間、あたしは思わず兄ちゃんの前に桧垣上等兵を上回る速さで兄ちゃんの前に立ち塞がり、ハゲの突進を止めた。

 

「魔法を使うなんて、卑怯じゃないんですか⁉︎」

 

深雪も同じことを思ったのか、風間大尉に食って掛かる。だが、

 

「よせ、深雪!美雨!」

 

キッパリと言い切った。

 

「組手に魔法を使わないという取り決めは、最初から存在しない」

 

「ええ……でも、」

 

「いいから、退きなさい」

 

兄ちゃんに言われて、あたしは渋々退いた。「……あいつ今、メチャクチャ早くなかった?」という周りから上がる声に普段ならピョンピョンする所だったが、大して気にすることが出来なかった。

 

「桧垣、気を引き締めていけ!」

 

風間大尉の叱咤が飛んだ。そして、組手は仕切り直された。兄ちゃんとハゲが間合いを取る。すると、兄ちゃんが真っ直ぐとハゲに手を向けた。ハゲは同じように突進しようとした。その時、な、なんだっけ……ぐ、グラム・デモンストレーション?

 

「グラム・デモリッションよ」

 

「ありがと深雪」

 

そんなに顔に出てたかなぁ……なんて思ってるうちにハゲの自己加速術式を打ち消した。そして、ハゲはタックルのやり方を忘れてしまったように無防備になったところを、兄ちゃんが体を開きながら上から撫でるように叩き、ハゲは吹っ飛んだ。

大の字になって天井を向いてるハゲに兄ちゃんは歩み寄った。そして、手を差し出した。それを手に取るハゲ。

 

「負けたぜ。完敗だ。一昨日のあれが、俺の油断なんかじゃないということがよくわかったよ」

 

おお……なんか急にいい人になった。

 

「改めて自己紹介させてもらうぜ。俺は桧垣ジョセフ上等兵だ。名前を聞かせてもらえないか」

 

「司波達也です」

 

「オーケー、達也。俺のことはジョーと呼んでくれ。沖縄にはまだしばらくいるんだろう?退屈したら声を掛けてくれよ。こう見えても俺はこの辺りじゃ色々顔が利くんだ」

 

「そこまでだ、ジョー。今は訓練中だぞ」

 

風間大尉が笑いながら声をかけた。すると、ハゲ改めてジョーは訓練に戻って行った。……なんか、丸く収まった。

 

 





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