二人目の妹は入学すら出来ませんでした   作:スパイラル大沼
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卒業式

 

 

 

美雨はさっさと終わらせると帰って行った。残されたのは達也、深雪、リーナとその他諸々。すると、達也がリーナに言った。

 

「リーナ」

 

「何よ」

 

「もしリーナがスターズを退役したければ……」

 

「えっ?」

 

「もし軍人であることを辞めたければ、力になれると思うぞ。いや、俺自身には大した力も無いが、力を貸してくれそうな知り合いに心当たりがある」

 

「タツヤ?あなた、何を言ってるの?私は別にスターズを抜けたいなんて……シリウスを辞めたいだなんて思ってないわよ」

 

「………そうか」

 

「待って、タツヤ!なぜそんなことを聞くの⁉︎」

 

聞くが、達也は答えない。代わりに、

 

「悪かったな。変なこと言って」

 

とだけ言って深雪と共に帰った。

 

 

 

 

「お兄様、リーナは」

 

帰り道、深雪が口を開いた。

 

「うん?」

 

「リーナは……お兄様の仰ったことを、キチンと受け止めてくれるでしょうか?」

 

「分からないな。俺に分かるはずがない。俺は彼女じゃないからな。リーナにはリーナの事情があるんだろう。自分のことを自分の思い通りに出来ないのは、何も彼女に限った話じゃない」

 

「それでもお兄様は手を差し伸べられたのですよね……?何故なのですか?」

 

「何故、とは?」

 

「お兄様は……何故リーナを助けようとなさるのですか?リーナに……特別な感情を持たれているからですか?」

 

「色々と誤解があるようだが……リーナのような立場の人間と交流を持ったのはそれが初めてだからだ。今まで人間といえば、自分よりずっと年上で、職業として軍人の道を選んだ人ばかりだったらかね」

 

と、1つずつ誤解を解いていく。

 

「俺がリーナに抱いてる感情はお前が思っているようなものじゃない。身も蓋もない言い方をすると、リーナにスターズを抜けてもらったほうが将来的に都合がいいと考えているだけだよ。できれば軍を抜けるだけじゃなくてこっちに移住して欲しいんだが……美雨のお陰で無理だろうな」

 

「思いっきりトラウマ刻んでしまいましたからね……」

 

「まぁ、リーナの人生だ。俺が決めることじゃない」

 

そんな事を話しながら家に帰った。

 

 

 

 

卒業式の日。意外にもその場に美雨の姿はなかった。なんでも、朝早くから出掛けていったようだ。

 

「お兄様、お待たせいたしました」

 

深雪と真由美と摩利がやってきた。

 

「達也くん、何を書いてるの?」

 

「魔法の持続時間を引き延ばすシステム的なアシストに関する、ちょっとした覚え書きです」

 

「……いや、そんな何でもないことのように流してしまうテーマじゃないと思うんだが」

 

呆れ顔で摩利が言った。

 

「それよりみなさんお揃いでどうしたんですか?七草先輩にしても渡辺先輩にしても、二次会のお誘いがなかったとは思えませんが」

 

「その前に、お前に挨拶しておこうと思ってな」

 

後ろから克人がぬっと顔を出した。

 

「司波美雨はどうした?いないのか?」

 

「それが、朝から何処かに出掛けてしまったみたいで……」

 

「そうか……彼女にも挨拶しておこうと思ったのだが……」

 

「恐縮です。わざわざお運びいただかなくても、後ほど俺と美雨の方からご挨拶にうかがうつもりでしたが」

 

「あら、そうなの?パーティの間中もこんな所に引っ込んでる達也くんのことだから、知らん顔して帰っちゃうのかと思ったんだけど」

 

「生徒会役員でもない俺が卒業パーティに顔は出せないでしょう。まして、一科生の方のパーティには……」

 

「何でよ!」

 

達也の台詞を遮っていきなり本気で突っかかった声が聞こえた。

 

「どうして正規の生徒会役員でもない私がパーティの手伝いさせられて、風紀委員のタツヤが何もしないで良くなるのよ⁉︎」

 

「風紀委員は生徒会役員じゃないぞ。それに、臨時であってもリーナは生徒会役員じゃないか」

 

「納得できな……」

 

「リーナちゃあああああああああああん‼︎」

 

そこで、ビュンッ‼︎となんか降って来た。チュドオオオオオオオオンと音を立てて地面にでっかいクレーターが出来る。が、そのクレーターにリーナの姿はない。全員が空を見上げると、美雨が空中でゆるゆりしていた。

 

「噂をすればなんとやら、というヤツですね」

 

「そうだな」

 

「こんな様子みるのも最後、か……」

 

と、達也、克人、摩利と言った。

 

「んー!リーナちゃんリーナちゃんリーナちゃーん!」

 

「ち、ちょっとタツヤ!ミユキも!助けなさいよ!」

 

言われて、2人はため息をついた。で、達也が言った。

 

「美雨、戻って来ないと晩飯抜きだ」

 

戻って来た。

 

「それで、美雨ちゃん。今日はどこに行ってたの?」

 

「あ!真由美さん!摩利さんにゴリ文字さんも!卒業おめでとー!」

 

「ありがとう」

 

「今日は今朝から公務員試験!」

 

「へっ?」

 

「警備員になるんだ!」

 

「ごめん、話が見えないのだけれど」

 

「だーかーらー!この学校の警備員になれば雫ちゃんとずーっと一緒にいられるし、立ってるだけでお金入ってくるし、公務員だからクビとかないし、メリットしかないじゃん!」

 

「ど、どうだったの?」

 

「ん?テストは満点だと思うよ?元々頭良いし。で、警備っていうからには魔法とか使えなきゃいけないんだけど、指で壁壊したら何故か素直に合格にしてもらえた」

 

「アッソウ……」

 

と、美雨はニコニコしながら説明した。

 

 

 

 

ある日、東京湾海上国際空港。あたしと兄ちゃんと深雪とレオとエリカと幹比古と美月とほのかちゃんは雫ちゃんのお迎えに来ていた。ついでにリーナも送って、雫ちゃんを待っている。そして、ようやく来た。

 

「ただいま」

 

「「お帰りぃぃぃぃぃぃぃ‼︎‼︎」」

 

ほのかちゃんと一緒にあたしは雫ちゃんに飛び付いた。

 

「雫、おかえり。無事で何よりだ」

 

「うん」

 

兄ちゃんが後ろから言うと、雫ちゃんも微笑みながら言った。あたしは一応は抱きついたものの、内心は警戒していた。だって、雫ちゃん下手したらヤンデレ化してるかもなんだもん……。が、誰もそれは気付くことなく、深雪とエリカが聞いた。

 

「雫、雰囲気が変わったわね」

 

「そうだね、大人っぽくなった。なにかイケナイ体験でもしちゃったのかな?」

 

「エリカちゃん⁉︎」

 

美月が反応する。イケナイ体験、か……しちゃったわ。しかもあたしと。思わず赤くなる顔を抱きつきながら隠した。

 

 

 

 

で、自宅。あたしが部屋でゲームしてると、ノックの音がした。

 

「ふぁーい?」

 

聞くと、「俺だ」と兄ちゃんの声。不思議と冷静な声ではなかったように聞こえた。

 

「いーよー」

 

言うと、扉が開いた。

 

「美雨、今日から新しい子が増える」

 

「へっ?」

 

聞き返すと、兄ちゃんの横から女の子が現れた。

 

「えっ……」

 

「未熟者ですが、精一杯お務めさせていただきます」

 

桜井水波ちゃんだった。

 

 





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