二人目の妹は入学すら出来ませんでした 作:スパイラル大沼
<< 前の話 次の話 >>
そのまましばらく飛んでいると、美月が「あっ」と声を漏らした。
「美月、どうしたの?」
深雪が聞く。
「えっと、ベイヒルズタワーの辺りで、野獣のようなオーラが見えた気がして……」
「野獣?美女は?」
私が聞いた。
「いやそんないい野獣じゃなくて……クッパ的な野獣」
おぉうわかるんだからわからないんだか……という例えだったが、幹比古が突然声を上げた。
「敵襲⁉︎」
「確かなの?」
「でも敵は義勇軍が押し返しているはずよ」
エリカと花音さんが続けざまに問い掛ける。だが、幹比古は首を横に振った。
「少人数による背後からの奇襲です。恐ろしい呪力を感じます。戻りましょう、協会が危ない」
最後の言葉は元会長さんに向けた言葉。だが、真由美さんは迷いの瞳を浮かべて摩利さんと顔を見合わせた。見れば、周りも少しながら辛そうな表情をしている。そりゃそうだ。もう助かると思っていたのだから。再び戦場に行きたがるバカはいないだろう。あ、あたしがいるか。
「………あたししかいないか」
「? 美雨?」
雫ちゃんが心配そうに声をかけてきた。あたしはあえて笑顔で答えた。
「雫ちゃんはみんなと先に逃げてて。ちょっと、行ってくるから」
「ど、どういう意味?」
聞かれるが、あたしは無視して立ち上がった。
「雫ちゃん」
「な、何?」
無言であたしは雫ちゃんのおデコにキスをした。
『ッッッ⁉︎』
全員が全員、顔を真っ赤にした。それを無視してあたしはヘリコプターの出口の前に立った。
「み、美雨さん?どうするつもり?てかどういうつもり?」
真由美さんに聞かれる前にあたしはドアを開けた。
「じゃ、みんな無事に逃げてね」
それだけ言うとあたしはヘリコプターから飛び降りた。
「み、美雨ー!」
雫ちゃんの叫びも虚しく、あたしは飛び立った。
*
「さて、やりますか……」
「何が、やりますか、よ」
「ふえっ⁉︎」
背中から声がして振り返ると深雪が背中にいた。
「な、なんでいるの⁉︎」
「妹一人に行かせるほど、私は薄情じゃないのよ」
「いやいやいや!いなくていいって!深雪のこと守りきれなかったら兄ちゃんに何て言えば……!」
「何を言ってるの?」
そこで言葉を切って深雪はあたしを見た。
「私があなたを守る方よ」
「………へぇ、言ってくれるじゃん。あたしに勝てる気でいるの?」
「ふうん?私が全力を出したところを見たことあるの?」
「上等だよ。足引っ張らないでよね」
「そっちこそ」
そう言うとあたしと深雪は敵の元へ降りた。
*
ズゥゥゥンッ!と美雨と深雪が落下すると、人数は多くはないが、少なくとも2人よりは多い数の敵がいた。その時、美雨は視界に真っ先に入った人物を見て、思わずため息をついた。
「あんたもしつこいなぁ……人食いゴリラ」
視線の先には呂剛虎が兜とか鎧を装備して立っている。
「アレは……人食い虎?」
「そっ、深雪。あいつの相手はあたしがするから、他の周りの雑魚は任せるよ」
「ええ。無理はしないでね」
「そっちこそ」
二人はそう言って微笑み合うと、敵の大群に向かっていった。