二人目の妹は入学すら出来ませんでした 作:スパイラル大沼
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横浜フィールドワーク当日。あたしは兄ちゃん達より早く家を出た。今日は私服でOK。そのまま何時ものように学校に到着した。
「おはよーう!司波さん!」
と、挨拶してくれたのは同じ班の山本さん。犯人はあたし含めて四人、山本さん、北原くん、北本くんであたしだ。この中の山本さんと北本くんはスクールカースト上位陣の人で、早い話が鬱陶しいタイプ。
「で、覚えてるよな?今日の作戦」
北本くんが嬉しそうに言う。
「うん。魔法科高校の論文ナントカをこっそり観に行くんだよね?」
「そうだ!楽しみだなおい!」
楽しみじゃない。全然楽しみじゃない。どうにかしてこれだけは回避しないといけないのだが、どうしたもんか。別に行くことはいいんだよね。雫ちゃんに会えるし。ただ問題は、あたしはクラスでどちらかというとおとなしいタイプの人間だ。万が一にも雫衝動が出てみろ。自殺ものだ。
どうしたものか考えてると、クラスメートはバスに乗り込み始めた。ま、時間はいくらでもあるし、じっくり考えよか。
*
着いちゃったよ……バス酔いでそれどころじゃなかった……。
「では、解散!」
担任がそう言うと、それぞれの班は自分達の決めたルート通りに動き始める。
「さて、俺たちも行くか!」
そのまま論文コンペの会場へ。クラス内カースト上位陣はてっきり計画だけ壮大で、実行力など欠片もない、またはその逆なのだと思っていたが、それは違った。二人は意外にも考えているようで、警備員の目を抜けて見事に会場に潜り込んだ。
「………無駄に考えてるもんだな」
北原くんが呟いた。そのまま順調に中に潜り込んでる時だ。
「美雨さん?」
聞き覚えのある声がかかった。振り返ると、一条くんと知らない子が立っていた。
「ゲッ……」
「久しぶり。夏休み以来だな」
「あー……うんっ」
やべっ、どうしよっ。一番困る人来ちゃった。
「こんな所で何してるんだ?魔法科高校生以外は立ち入り禁止のはずなんだが……」
「あーいや…その……」
ど、どうしよう……ザルだったんで浸入しちゃいましたーとは言えない……。と、思った時だ。
「こんにちは!司波さんの友達の北本です!魔法科高校の人ですか⁉︎サインください!」
お前は状況が分かってねぇのかよ!引っ込んでてくれないかなマジで!
「それくらいは構わないけど……ここは魔法科高校生以外は立ち入り禁止だぞ」
「え?い、いやーその……みちにまよって……」
言い訳もヘタクソか!やっぱ上位カースト陣は何考えてるか分かんないや。ここは正直に言うべきかな。
「一条くん、実はアレ……今、あたし達学校行事でここにいるんだけど、この人たちがどうしても行きたいって言って来ちゃったんだ……」
「そ、そうか。まぁ司波さんの友達ならなんとかなるかもしれないけど……」
「美雨?」
また聞き覚えのある声。振り返ると兄ちゃんと深雪と雫ちゃんにほのかちゃんに……その他諸々でいいか。とにかく、いつものメンバーがいた。
「しーず……」
待て、理性よ働け。
「あ、兄ちゃん!」
「「「兄ちゃん?」」」
班員三人が声を漏らす。
「こんなところでなにやってるの?その人たちは?」
深雪が雪女の笑顔で言った。
「や、これは……その……」
とりあえず正直に話した。
「……と、いうわけで……」
すると、兄ちゃんは三人に言った。
「初めまして。美雨の兄の達也です」
「あ、ああ……どうも」
「残念だが、君たちは見学していくことは出来ない。それどころか本来なら罰則になっても可笑しくない。ここは美雨の友達ということで今すぐ帰れば見逃すけど、どうする?」
「帰ります」
即答かよ北本くん。そのままみんなで出て行こうとした時だ。あたしの肩に手が置かれた。深雪だ。
「あなたは帰さないわよ?今からお説教フルコースね」
「えっ」
見れば、北本くんも北原くんも山本さんも「ごめんネ」のサインを出しながらエリカとレオの誘導で出て行っていた。あいつら殺す。最低でも殺す。で、三人はあたしの視界から完全に消えて、1、2、3……。
「しーずーくーちゃーんッ‼︎」
速攻で抱き着いた。
「ひゃあっ⁉︎」
そのまま雫ちゃんを抱き上げてオッパイの匂いを堪能した。
「あー雫ちゃん雫ちゃん雫ちゃん!君はどうして雫ちゃんなの?どうしてこんなに小さいのに柔らかいおっぱいなの?どうしてそんなに可愛いの?どうしてクーデレなの?ねぇどうしてどうしてどうして……」
凍った。
「いい加減にしなさい」
深雪に怒られるのを鮮やかに無視してあたしは一条さんに聞いた。
「そういえば、一条くん」
「なんだ?」
「一条くんも論文コンペ出るの?」
「ま、まぁ一応ね。サポートの方だけど……」
「頑張ってね。応援してるから!」
すると、なぜか頬を赤く染める一条くん。
「あ、ああ。頑張るよ」
「兄ちゃん達に勝てたらうちの近くにあるラーメン屋奢ったげるね」
などと、話してると、急にあたしの裾を誰かが……というか雫ちゃんがキュッと握った。心なしか膨れっ面だ。
「どうしたの?」
聞くが無視され、その雫ちゃんの先には一条くんがいる。
「…………」
それに一条くんは「?」と言った顔で睨み返す。なんだろ……火花が散ってるようにも見えなくもないな……。
「美雨は、渡さないから」
「………ああ。そういうことか。それなら俺も譲るつもりはないな」
なんだろ……どういう空気なんだろこれ。