二人目の妹は入学すら出来ませんでした   作:スパイラル大沼
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火花

 

 

 

横浜フィールドワーク当日。あたしは兄ちゃん達より早く家を出た。今日は私服でOK。そのまま何時ものように学校に到着した。

 

「おはよーう!司波さん!」

 

と、挨拶してくれたのは同じ班の山本さん。犯人はあたし含めて四人、山本さん、北原くん、北本くんであたしだ。この中の山本さんと北本くんはスクールカースト上位陣の人で、早い話が鬱陶しいタイプ。

 

「で、覚えてるよな?今日の作戦」

 

北本くんが嬉しそうに言う。

 

「うん。魔法科高校の論文ナントカをこっそり観に行くんだよね?」

 

「そうだ!楽しみだなおい!」

 

楽しみじゃない。全然楽しみじゃない。どうにかしてこれだけは回避しないといけないのだが、どうしたもんか。別に行くことはいいんだよね。雫ちゃんに会えるし。ただ問題は、あたしはクラスでどちらかというとおとなしいタイプの人間だ。万が一にも雫衝動が出てみろ。自殺ものだ。

どうしたものか考えてると、クラスメートはバスに乗り込み始めた。ま、時間はいくらでもあるし、じっくり考えよか。

 

 

 

 

着いちゃったよ……バス酔いでそれどころじゃなかった……。

 

「では、解散!」

 

担任がそう言うと、それぞれの班は自分達の決めたルート通りに動き始める。

 

「さて、俺たちも行くか!」

 

そのまま論文コンペの会場へ。クラス内カースト上位陣はてっきり計画だけ壮大で、実行力など欠片もない、またはその逆なのだと思っていたが、それは違った。二人は意外にも考えているようで、警備員の目を抜けて見事に会場に潜り込んだ。

 

「………無駄に考えてるもんだな」

 

北原くんが呟いた。そのまま順調に中に潜り込んでる時だ。

 

「美雨さん?」

 

聞き覚えのある声がかかった。振り返ると、一条くんと知らない子が立っていた。

 

「ゲッ……」

 

「久しぶり。夏休み以来だな」

 

「あー……うんっ」

 

やべっ、どうしよっ。一番困る人来ちゃった。

 

「こんな所で何してるんだ?魔法科高校生以外は立ち入り禁止のはずなんだが……」

 

「あーいや…その……」

 

ど、どうしよう……ザルだったんで浸入しちゃいましたーとは言えない……。と、思った時だ。

 

「こんにちは!司波さんの友達の北本です!魔法科高校の人ですか⁉︎サインください!」

 

お前は状況が分かってねぇのかよ!引っ込んでてくれないかなマジで!

 

「それくらいは構わないけど……ここは魔法科高校生以外は立ち入り禁止だぞ」

 

「え?い、いやーその……みちにまよって……」

 

言い訳もヘタクソか!やっぱ上位カースト陣は何考えてるか分かんないや。ここは正直に言うべきかな。

 

「一条くん、実はアレ……今、あたし達学校行事でここにいるんだけど、この人たちがどうしても行きたいって言って来ちゃったんだ……」

 

「そ、そうか。まぁ司波さんの友達ならなんとかなるかもしれないけど……」

 

「美雨?」

 

また聞き覚えのある声。振り返ると兄ちゃんと深雪と雫ちゃんにほのかちゃんに……その他諸々でいいか。とにかく、いつものメンバーがいた。

 

「しーず……」

 

待て、理性よ働け。

 

「あ、兄ちゃん!」

 

「「「兄ちゃん?」」」

 

班員三人が声を漏らす。

 

「こんなところでなにやってるの?その人たちは?」

 

深雪が雪女の笑顔で言った。

 

「や、これは……その……」

 

とりあえず正直に話した。

 

「……と、いうわけで……」

 

すると、兄ちゃんは三人に言った。

 

「初めまして。美雨の兄の達也です」

 

「あ、ああ……どうも」

 

「残念だが、君たちは見学していくことは出来ない。それどころか本来なら罰則になっても可笑しくない。ここは美雨の友達ということで今すぐ帰れば見逃すけど、どうする?」

 

「帰ります」

 

即答かよ北本くん。そのままみんなで出て行こうとした時だ。あたしの肩に手が置かれた。深雪だ。

 

「あなたは帰さないわよ?今からお説教フルコースね」

 

「えっ」

 

見れば、北本くんも北原くんも山本さんも「ごめんネ」のサインを出しながらエリカとレオの誘導で出て行っていた。あいつら殺す。最低でも殺す。で、三人はあたしの視界から完全に消えて、1、2、3……。

 

「しーずーくーちゃーんッ‼︎」

 

速攻で抱き着いた。

 

「ひゃあっ⁉︎」

 

そのまま雫ちゃんを抱き上げてオッパイの匂いを堪能した。

 

「あー雫ちゃん雫ちゃん雫ちゃん!君はどうして雫ちゃんなの?どうしてこんなに小さいのに柔らかいおっぱいなの?どうしてそんなに可愛いの?どうしてクーデレなの?ねぇどうしてどうしてどうして……」

 

凍った。

 

「いい加減にしなさい」

 

深雪に怒られるのを鮮やかに無視してあたしは一条さんに聞いた。

 

「そういえば、一条くん」

 

「なんだ?」

 

「一条くんも論文コンペ出るの?」

 

「ま、まぁ一応ね。サポートの方だけど……」

 

「頑張ってね。応援してるから!」

 

すると、なぜか頬を赤く染める一条くん。

 

「あ、ああ。頑張るよ」

 

「兄ちゃん達に勝てたらうちの近くにあるラーメン屋奢ったげるね」

 

などと、話してると、急にあたしの裾を誰かが……というか雫ちゃんがキュッと握った。心なしか膨れっ面だ。

 

「どうしたの?」

 

聞くが無視され、その雫ちゃんの先には一条くんがいる。

 

「…………」

 

それに一条くんは「?」と言った顔で睨み返す。なんだろ……火花が散ってるようにも見えなくもないな……。

 

「美雨は、渡さないから」

 

「………ああ。そういうことか。それなら俺も譲るつもりはないな」

 

なんだろ……どういう空気なんだろこれ。

 

 

 





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