二人目の妹は入学すら出来ませんでした   作:スパイラル大沼
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第二ラウンド

 

八王子特殊鑑別所。摩利さんがなんかしてる間、あたしと兄ちゃんと元生徒会長さんは隠し部屋にいる。あたしは兄ちゃんに聞いた。

 

「ねぇ、今更聞くようだけどなんで呼ばれたの?」

 

「人喰い虎が来るかもしれないからだ。その時は任せるぞ」

 

「いやそうは言ってもさ……。兄ちゃんがいれば余裕でしょ?」

 

「いや、余裕とは限らない。それにここは鑑別所だ。他の部屋を壊され、犯罪者を逃がすようなことがあってはならない」

 

「なるほどね……。って、いやいやいや。あたしの攻撃力じゃ部屋どころか鑑別所もろとも吹き飛ばしちゃうけど」

 

「だから、逃げ出した犯罪者は俺が捉える」

 

めんどくせー……。思わず心の中で本音が出た。だってめんどいもん。何それ、完全にただの掃除機じゃんあたし。

 

「はーあ……最近雫ちゃんと会ってないなぁ……」

 

「そういえば、雫も同じようなことを言っていたぞ。今週中に美雨に会えなかったら自殺するそうだ」

 

「今行くよ!雫ちゃん!」

 

「今はだめだバカ」

 

走って出て行こうとしたあたしの襟を掴む兄ちゃん。おかげで首が締まった。

 

「グェッ」

 

「行きたければ取り調べが終わるまで大人しく待っていろ。いいな?」

 

「ねぇ、あたしが取り調べしちゃダメなの?」

 

「………と、言うと?」

 

「吐くまで殴るとか」

 

「却下だ」

 

「ええーっ!早く遊びに行きたいよー!てか雫ちゃんとチュッチュしたいよー!」

 

と、喚くあたしの脇で真由美さんが兄ちゃんに聞いた。

 

「ねぇ、前から思っていたんだけど、この子と北山さんってどんな関係なの?」

 

「本人たち曰く、友達以上恋人以上だそうです」

 

「恋人以上なんだ……」

 

その時だ。警報が鳴った。その瞬間、摩利さんが関本って人をベッドに倒して部屋から出てきた。

 

「侵入者ですね」

 

「何処の命知らずだ……」

 

兄ちゃん、摩利さんと言う。

 

「達也くん、どこから来てるかわかる?」

 

「屋上から侵入したようですね。飛行機から飛び降りたか、カタパルトを使ってジャンプしたか、そんなところでしょう。現在位置は東階段三階付近だと思います」

 

「……大当たり、さすがね。達也くん。侵入者は四人、ハイパワーライフルを武装しているわ。警備員が階段の踊り場で盾のバリゲード作って応戦してる」

 

「廊下の出入口は隔壁で閉鎖されているようですね」

 

「兄ちゃん。あたしはその警備員と殴り合ってる人たち殴ってくればいいの?」

 

「そうだな……。いや、お前はこっちだ」

 

最初は肯定しかけたものの、兄ちゃんはすぐに訂正した。その視線の先には人喰いゴリラが立っていた。

 

「呂剛虎」

 

摩利さんが声を漏らした。人喰いゴリラは真っ直ぐとあたしを睨んでいる。

 

「………なんかあたしに用あるのかなあれ。それともあたしのこと好きなのかな」

 

「言ってる場合か。行ってこい。正直、俺たちでは人喰い虎に勝てるかは分からん」

 

「ほい、了解」

 

あたしと人喰いゴリラの第二ラウンドだ。

 

 

 

 

お互いに殴りかかる。が、当然というかなんというか、美雨の拳が見事に呂の腹に直撃、ぶっ飛ばした。だが、悠然と立ち上がるゴリラ。

 

「1割弱じゃ加減し過ぎか……」

 

なんて呟いてる間に、呂は美雨の後ろに回り込み、殴りかかってきた。それを躱して、腕を掴んで床に背負い投げで叩きつけた。バッカァァァァンッッ‼︎‼︎と音を立てて、床に減り込み、地中13mほどまで減り込んだ。

 

「気ぃ済んだ?」

 

穴に向かって言った瞬間、穴の中からドボッ!と拳が飛んできた。

 

「うおっ」

 

「ガァッ!」

 

天井に着地してから、二人殴りかかってくる呂。百烈拳並みのラッシュを美雨は後ろに下がりながら躱し、隙の出来た一撃を右に切り返して躱し、顔面に踵廻し蹴りをぶち込んで壁に叩きつけた。だが、それでもうごく呂。

 

「しつこいなぁ……」

 

大きく廻し蹴りを放ってくる呂。それを頭突きで相殺させ、バランスを崩したところに顔面パンチ。拳で地面に叩きつけ、呂は地面と天井に4、5回ほどバウンドした後、壁に突っ込んだが、何食わぬ顔で立ち上がった。

 

「兄ちゃん、これどうなってんの?いい加減死なないのこの人?」

 

「そいつの魔法は鋼気功。ちょっとやそこらの攻撃じゃダメージは通らないぞ」

 

「力加減し過ぎてたか……。でも、これ以上力出したらここ滅ぶよ?」

 

「多少は仕方ない。3割出していいぞ」

 

「りょーかい」

 

美雨は二ヒッと笑うと、再びゴリラを見た。ゴリラもゆらりと立ち上がり、美雨に迫ってくる。そして、うおおっと殴りかかってきた。それを美雨はヌルッと躱すと拳を引いた。

 

「死なないでよ」

 

そのままドムッとMSみたいな音を立てた腹パンが呂に減り込んだ。そのまま血をゴフッと吐き出し、床に倒れた。

 

 

 

 

「いやーたのしかったぁーっ!」

 

上機嫌に言うのはあたしだ。

 

「あんなに同じ人に何度も殴ったの初めてだよー」

 

ニコニコしながら言うあたしの脇で摩利さんと真由美さんは話している。

 

「なんかもう慣れたな……」

 

「そうね。色々な意味でね」

 

何か……申し訳ないなぁ。今思えば魔法師を素手でボコボコにするなんて完全に魔法に喧嘩売ってるよね。これで兄ちゃんはともかく、摩利さんと真由美さんが魔法を学ぶ気失せなきゃいいんだけど……。

 

「で、美雨」

 

摩利さんに声をかけられた。

 

「んー?」

 

「今回のはどれくらい本気だったんだ?」

 

「最後のは3割かな。それ以外は1割未満だよ」

 

言うと、質問してきたくせに呆れる摩利さんだった。

 

「とにかく、お疲れ美雨。あと処理は俺に任せてお前は先輩達と帰ってなさい」

 

「はーい」

 

兄ちゃんに言われ、あたしは先輩達と帰宅した。

 

 





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