二人目の妹は入学すら出来ませんでした 作:スパイラル大沼
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一条くんの部屋。
「ジョージ、タイムだ」
「これで最後だけど?こんな中盤でタイムを使い切っちゃっていいのかい?」
今二人が対戦してるのは、リアルタイムシュミュレーションゲーム。その様子をあたしは見ていた。
「……あそこで待ち伏せなんて性格悪すぎだろ。しかも、わざわざ魔法を使わずにロープで降下とか……」
「待ち伏せのポイントはともかく、相手の意識を魔法に引きつけておいて、魔法を使わずに移動するという戦術はつい最近見たばかりだよ、将輝」
「あいつか……」
「そう。新人戦モノリス・コード、対二校戦で彼が使った魔法だ」
それを聞いてあたしは思わずサッと顔を伏せた。その彼、とはおそらく田中太郎、つまりあたしのことだろう。別にそんな戦法とかじゃなくて魔法を使えないだけなんですけどね……。
「美雨さんもやるかい?」
吉祥寺くんに聞かれた。
「やる!」
で、今度はあたし対吉祥寺くん。
「おいジョージ。手加減してやれよ。彼女は魔法を使えないんだから」
「分かってるよ」
むっ、なんかなめられてるなぁ。まぁなんでもいいけど。その代わり、ちょっと痛い目見てもらおうかな。
*
「もう一回だ!」
「えー……もういいよぉー……」
吉祥寺くんと43戦目。その度にフルボッコにしてる。
「すごいな、美雨さん……」
「そんなことないよー。ただのゲーマー」
「いや、ただのゲーマーじゃ真紅郎は倒せないよ。あいつ、俺たち三校の参謀なんだ」
「ふーん……。まぁこれはゲームだからね」
テキトーにあたしは返事しておいた。だって、その参謀さんに九校戦で正面から叩き潰しましたなんて言えないもん。と、ゲームスタート。44戦目だ。
「楽しそうだね」
「あー!茜ちゃん!」
「美雨さん……画面から目を離していいの?」
「はっ!しまった!」
危なかった……なんというハニートラップ……。すると、一条さんが茜ちゃんに言った。
「茜、ドアを開けるのは判事を確認してからにしろっていつも言ってるだろ」
「いいよいいよ茜ちゃん!なんならノックもいらないよ!ついでにあたしの心の扉をノックしてくれないかな⁉︎」
「いや、あの……ちょっと無理」
完全にドン引きされてしまった……。と、思ったら茜ちゃんは吉祥寺さんの方に歩いて行く。あの野郎……ゲーム中にイチャ付きやがって……。
「叩き潰す」
「ちょっ……!美雨さん⁉︎なにそのエゲツない戦ぽ……ああああッ‼︎」
「ロリコンがぁぁぁぁぁッッッ‼︎‼︎‼︎」
「いや違うよおおおおッッ‼︎‼︎」
*
夕食。あたしが瑠璃ちゃんを見た瞬間に百合百合しようとしたら、茜ちゃんに弾き飛ばされ、夕食。
「真紅郎くんが家に来てくれるの久しぶりね。忙しかった?」
一条ママが言った。
「そうだよ。もっと遊びに来てくれればいいのに」
「あたしはたくさん遊びに来るね!茜ちゃんのために!」
「あの、ほんと気持ち悪いのでやめて下さい……」
ううっ……小学生に嫌われるのは辛いよぅ……。
「お前が遊んで欲しいんだろ」
「あれ、兄さん、妬いてるの?大丈夫だよ〜、兄さんから真紅郎くんのこと、取ったりしないから」
「バーカ、俺とジョージはそんな関係じゃねーよ」
「馬鹿とは何よ!フンッ、そんな余裕見せられるのも今のうちなんだからね。友情なんて愛の前には儚いものなんだから!」
「あ、愛⁉︎茜、お前、小学生のくせにませすぎだろ!」
「一条さん!小学生は無邪気で天真爛漫で笑顔が太陽より眩しい最強の生命体だよ!『癖に』とか言わないで‼︎」
「お、おう……いやでも小学生で愛って……」
「小学生をバカにしたな⁉︎兄さんこそ、高校生にもなって恋人もいないなんてだらしない!」
すると、ピタッと騒がしかった。食卓を静寂が包んだ。と、思ったら一条くんがあたしをチラッと一瞬見た。すると、茜ちゃんが何を悟ったのか知らないが、バンッ!と立ち上がった。
「兄さん!ダメよ!私は兄さんが惚れた女なら基本的にどんな人でも義妹になる覚悟は出来てるけどこの人だけはダメ!」
「ちょっ!おまっ……!ちげーし!べ、別に惚れてなんかねぇーし!」
「私の貞操が危ないのよ!」
なんの話をしてるのかサッパリだ。と、思ったら、
「ふたりともうるさい」
と、瑠璃ちゃんが言った。
「瑠璃ちゃーん!」
「人の妹に手を出さないで!」
「お姉ちゃん邪魔。美雨ちゃんと遊びたい」
「茜⁉︎」
などと、カオスに包まれた食卓は、しばらく平行線をたどった。そういえば、こんな騒がしい晩御飯は久しぶりだな。たまにはこんなのもいいかもしれない。
*
翌日、迎えに来た兄ちゃんと深雪にめちゃくちゃ怒られた。