二人目の妹は入学すら出来ませんでした 作:スパイラル大沼
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で、ようやくミラージバッドの日となった。あたしの試合は二試合目。一試合目では、一高の小早川という人が出るようだ。試合が始まる前、あたしは兄ちゃんと話していた。観客席で。残り3分になったら待機室に行けば全然間に合う。
「つまり、なんか空中に出てくる変なのをたくさんとればいいわけね?」
「ああ、そうだ。お前は大会に集中しろよ。不穏な動きを見たら俺が止める」
「分かってるよー。ま、これ取れば優勝なんだし、サクッと決めてあげるよ」
「美雨」
「なに?」
「油断はするなよ。いくら化け物級の力を持つお前でもまだ15歳だ」
「わかってるよー。そんな心配よりあたしの優勝祝いにいくらかかるかを心配することだね。なんせ、三つも競技を優勝させてるわけだから」
「………………」
それでも、心配そうにあたしを見る兄ちゃん。
「なんだよ。らしくないな兄ちゃん。あたしを誰だと思ってるの?」
「………もう一度言うぞ。油断するな」
「わーかってるって。それより、ミラージバッドがどんなものか見ておきたいんだけど」
「……そうだな。小早川先輩の試合をよくみとけ」
「うん」
で、試合開始。小早川先輩が緑色の光球に向けて飛び上がった。が、他にも早い選手がいた。その選手に向かって小早川さんは静止させる魔法を発動。向こうの選手は体が止まった。その隙に小早川先輩は足場に着地し、もう一度飛び上がろうとした。が、先輩の体は重力に引かれて真っ直ぐ落ちようとしていた。
「………美雨!」
「分かってる!」
あたしは思いっきり客席を踏み付けて、小早川先輩に向かって飛んだ。そのままさらにミラージバッドの足場を踏んで、さらに加速しようとした時だ。その足場が爆発した。
「っっ⁉︎」
あたしの身体の体制は崩れ、そのまま小早川先輩に突っ込む形になってしまった。が、なんとか体制を立て直して、小早川先輩を抱えて壁に着地した。
「痛ッ‼︎」
今回はあたしの声だ。着地するときに足を捻った。
「深雪、さん……?」
震える手であたしの襟を握り締める小早川さん。その後にあたしは壁を登って、なんとかフィールドから離脱した。
*
一応、小早川さんは医務室に運ばれた。で、あたしは兄ちゃんとミッキーと美月と一緒に話をしている。
「今回の事故のことなんだけど、残念ながら僕の方では、術の兆候は見分けられなかった」
「そうか……」
「ゴメン、期待してくれてたのに、応えられなくて……」
「いや、捉えられなかったのは俺も同じだ」
「でも、柴田さんが………」
ミッキーが言うと、兄ちゃんとあたしは美月の方を見た。
「何かみえたのか?」
「ええ、その……小早川先輩の右腕で……多分、CADをはめている辺りで光が、いえ、『精霊』がパチッと弾けたみたいに、その、みえました」
「そうか……みえたのか。それで、その『精霊』は弾けて散ってしまったんだな?」
「えっと……ええ、そんな感じでした。こう、とても古い電化製品が、パチッと火花を散らして止まってしまう、みたいな……」
「そうか。なるほど……」
兄ちゃんは何か分かったように頷く。
「それと、兄ちゃん。あたしが足場にした所、吹き飛んだよね。あれは間違いなく、あたしが助けに来るのを知ってたと思うんだ。タイミング的に見ても」
「ああ。分かっている。良くやったな、美月。今の情報はとても役に立った」
「ありがとうございます!」
「それと美雨。よくやった。小早川先輩が無傷だったのはお前のお陰だ」
「うん。今回はちゃんと助けられた」
あたしはズキズキする右足を我慢しながら笑顔で答えた。
*
ミラージバッド二回戦が始まった。すると、全選手がターゲットに向かって翔け上がる中、あたしは足を止めていた。
「やるしか、ないよね……」
自分の勢い+爆風での足捻りは正直クソ痛いが、深雪と渡辺先輩の代わりだ。ここで降りるわけにはいかない。先手を取って選手全員の心を折れば、後半は手を抜けるだろう。そう決めると、あたしは本気で加速した。
「…………は?」
どっかの選手の間抜けな声がした。あたしが、13人に分身しているからだろう。そのまま、ターゲットを13人で捉えていく。まぁ、光速で動いてるだけだから実際は1人なんだけどね。
そのまま二位以下を大きく突き離した時だ。
ズキンッ
「ッッ‼︎」
ヤバい、これ以上は……と、思った時だ時間切れとなった。そうか、時間毎に切るんだっけこの競技。
*
第二ピリオド終了時も、あたしは分身によって圧倒的大差で勝った。
「お疲れ、美雨」
休憩中に兄ちゃんに声をかけられた。
「うん。次のピリオドでラストだよね?」
「ああ、そうだ。それと、安心しろ。これから先、事故が起こることはない。犯人は捕らえておいた」
「………そっか。ありがと」
さて、さっさと終わらせないとね。
*
第三ピリオド。さっそく分身を使おうとしたが、足がまたズキッと痛む。…………これ以上、分身で足に負担は掛けられないな。仕方ない、セカンドプランで行こう。あたしはONE PIECEでいうスカイウォークを使った。
「はっ………?」
周り選手が間抜けな声を出す。そのまま、試合終了の合図が鳴り、なんとか勝ち進んだ。ふぅ……と、息を吐いて着地した時だ。
「〜〜〜ッッ‼︎」
思わずヨタついてしまった。マズイ……このままじゃ、優勝どころか試合にすらならないかもしれない。でも、負けられない。この程度、いつものゲームならいいハンデだったはずだ。
「やってやるよ……」
そう決意しながらあたしは、退場した。