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【社説】

あおり運転判決 殺人に等しい危険性

 あおり運転の後追突し、大学生を死亡させたとして、異例の殺人罪に問われた被告の判決で、大阪地裁堺支部は殺人罪の成立を認めた。世論の後押しもあって、あおり運転への厳罰姿勢が示された。

 殺人罪で懲役十六年の実刑を言い渡されたのは、堺市の元警備員中村精寛(あきひろ)被告(40)。判決などによると中村被告は昨年七月、市内の府道で乗用車を運転。同市の大学四年生高田拓海(たくみ)さん=当時(22)=のバイクに追い抜かれたことに立腹し「ぶつかれば死亡するかもしれない」との未必の故意を持ち高速で追突、転倒させ、高田さんを殺害した。

 大阪府警は当初、自動車運転処罰法違反(過失致傷)容疑で逮捕したが、ドライブレコーダー(DR)の解析などであおり運転が判明、殺人容疑などで再逮捕し、大阪地検も殺人罪で起訴した。

 DRを調べると、追突の後「はい、終わりー」との言葉が記録されており、検察側は論告で「まれに見る殺人運転」と懲役十八年を求刑した。一方、法廷で被告は殺意を否認。「終わり」の意味についても「これからの(自分の)生活(が終わるという意味)です」と供述していたが、判決は、被告の運転が人をあやめるに等しい行為だとみなしたということだろう。

 神奈川県大井町の東名高速道路の夫婦死亡事故など、あおり運転のDR映像がお茶の間に流れて、社会問題化した。警察庁は「法令を駆使して徹底捜査を」と各都道府県警に通達。高速道路でのあおり運転(道交法違反=車間距離不保持)の摘発件数は、昨年の上半期で六千百三十件あり、前年同期より倍増した。

 けがや事故のないあおり運転者を暴行容疑で逮捕(愛知)、あおり運転事故で相手にけがをさせた男性を傷害容疑で書類送検(福井)-など、あおり運転を「故意」として刑事処分する例が目立ってきた。

 あおり運転に対する世論の怒りが高まる中、当局は厳罰主義の方針を強めたとも言えそうだ。今回のケースが突破口になり、悪質な事案では殺人罪や殺人未遂罪の適用が続くかもしれない。

 「殺人罪などもあり得る」という認識が広がれば、あおり運転の減少につながる面もあろう。ただ、罪刑法定主義(犯罪と刑罰をあらかじめ法律で定める刑法の基本原則)などに則し、厳罰化一辺倒の適用にならぬよう、慎重に、理性的に見守っていく姿勢は忘れてはならない。

 

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