「漫然と踏襲し放置した」。毎月勤労統計不正問題を調査していた特別監察委員会は、こう結論を出した。組織的な関与や隠蔽(いんぺい)は認定しなかった。そう聞いてどれだけの人が納得するだろうか。
「隠そうとしたか」と聞いて「はい」と答える人はまずいない。法令違反を問われ社会に多大な影響を与えた不正の当事者たちである。それなのに監察委は主に厚生労働省からの説明を聞いただけで報告書をまとめた。
加えて厚労省が設置した監察委の樋口美雄委員長は、厚労省所管の独立行政法人理事長だ。身内が調べたと受け取られかねない。
しかも、報告書は調査開始からわずか一週間の公表である。厚労省は関係者の処分まで同時に決めるなど手際が良すぎる。国会審議や参院選などを控え幕引きを急いだようにもみえる。
報告書では、全数から抽出調査に変えた不正を始めた動機を「対象事業所からの苦情や都道府県の要望があったとみられる」と認定した。だが、監察委は東京都などへ事情を聴いていない。
長年不正が続いてきたことは漫然と前例を踏襲して問題を放置した「無関与」がある、と指摘しただけにとどまった。
気になる記述がある。統計担当者の中には公表資料と実態が違う不正に気づいた人がいたが、組織内で問題提起はされず、統計を管理する総務省や都道府県と協議もしなかったという。
局長級幹部が不正を知った際、担当者に修正の指示はしたが、その後の確認をせず放置した。
こうした点についてなぜ改善や公表がされなかったのか、報告書は明確に答えていない。漫然と統計作業をしてしまったり、公表をせず放置した背景に隠そうとした組織の意図がなかったのか、その疑問は依然残る。
監察委は今後、再発防止策を検討するが、隠蔽の有無が不明確のままでは防止策はつくれない。
一方で、報告書の通り歴代担当者が不正の影響を「誤差の範囲」と軽く考えていたのなら、それも信じ難い。勤労統計は社会のあらゆる場面で使われて既に大きな影響がでている。重大なミスを自ら発見し修正する能力がないと認めたに等しい。
今日は国会で閉会中審査が行われる。国会も始まる。国会の疑惑解明への責任は重い。
国民は税金や、給付が過少だった雇用保険などの保険料を払う。甘くみてもらっては困る。
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