高齢化、人口減少、デジタル革命-。新たな課題が迫る中で平成最後の春闘が始まる。労使には、何よりも「経済格差」是正のための賃上げと働き方改革で、社会の安定につながる成果を求めたい。
二〇〇八年のリーマン・ショック、金融危機のあと、春闘では一四年に賃金を底上げするベースアップが復活。「デフレ脱却」という政労使共通の目標に向けて、昨年まで五年連続で2%を超える賃上げが実現した。
安倍政権の賃上げ要請は「官製春闘」の批判を免れないが、過去最高の収益を内部留保に溜(た)め込む経営者に、前向きの賃上げを促した。政労使の取り組みは一定の結果を残したといえる。
戦後最長に並ぶ景気拡大で「デフレではない」状況にこぎ着けたものの、働く人の実質賃金は伸び悩み、実感は乏しい。年金、社会保障などの将来不安から消費の伸び悩みが続いている。
心配なのはグローバル化がもたらした歪(ひず)み、「経済格差」の解消の遅れだ。フランスで続く黄色いベスト運動、強まる一方の米トランプ政権の保護主義の底流には放置された「格差」への積年の反発がある。人手不足に目を奪われがちな日本でも、大企業と中小企業、正社員と非正規社員などの賃金格差はほとんど改善していない。
今春闘の注目点に、トヨタなど自動車関係の労組の動きが挙げられる。相場形成の役割を担ってきた自動車総連(組合員数約七十八万人)がベアの統一要求を示さない戦略に転換する。狙いは賃金格差の是正にある。
例えば昨年の賃上げは大手の平均八千五百円に対し、中小企業は四千八百円。中小企業は賃金の土台が低く、同率ベアでも格差はむしろ拡大してしまう。格差縮小につなげる「絶対額」重視の要求は評価できる試みといえる。
労働関係の諸法制、改正が実施段階に入る今年、長時間労働の是正、同一労働同一賃金、仕事と生活の両立支援の確実な実行が求められる。
平成の次の時代、労使はともに高齢化、人口減少の深刻な影響とデジタル革命に正面から向き合わなければならない。多くの外国人労働者の受け入れも始まる。経済格差が小さく、多様な人々が活躍できる安定した職場の実現につながる労使の交渉に期待する。
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