東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

中国の月探査 宇宙に争い持ち込むな

 ベンチャー企業の人工衛星などを搭載した小型ロケットイプシロン4号機が十八日、打ち上げられた。国内では「宇宙軍」の声も聞くけれど、科学、ビジネス分野こそ、後れを取ってはならない。

 イプシロンが軌道に投入した中には、東京のベンチャー企業が開発した、流れ星をつくる世界初の人工衛星も含まれる。

 海外でもベンチャー企業が活躍し始めた。米国では有人宇宙飛行実現を競っている。中国では、人工衛星からロケットの打ち上げを撮影するといった技術力の高いベンチャーも現れている。

 科学分野でも中国が注目を集めている。無人月探査機、嫦娥(じょうが)4号が今月三日、世界で初めて月の裏側に着陸。写真が次々と公表されている。密閉した容器の中で綿花の種の発芽にも成功した。

 年内には月の石を持ちかえるため嫦娥5号を打ち上げるという。インドやイスラエルも自前で、月面探査機を送る計画だ。

 科学に関しては各国とも情報が公開されている。問題は、同じ技術が科学にも軍事にもビジネスにも使われることである。

 ビジネスの場合は、一つの企業で打ち上げから衛星の開発、運用まで行うのは無理なので、お互いが得意分野で協力していくことになるだろう。

 安全保障はどうか。米国は中国の台頭を警戒し国際宇宙ステーション(ISS)から中国を排除した。だが、結果的には、米国を脅かす存在に育った。

 トランプ米大統領は、月の軌道に宇宙ステーションを建設して火星への有人飛行を目指すゲートウエー構想を発表している。欧州連合(EU)やロシアは参加の意向だ。日本も検討している。中国は嫦娥4号の成功を受けて「月面の科学研究基地建設の可能性を模索する」としている。

 巨額の資金と大量の人材を必要とする科学技術はビッグサイエンスと呼ばれる。素粒子研究で有名な欧州合同原子核研究所(CERN)では、中国人研究者もいる。ノーベル賞を受賞したヒッグス粒子もそこで発見された。

 素粒子研究と同じようなことが宇宙開発でもできないだろうか。

 米中が世界と一緒にやれば月の資源や領土の問題はなくなる。お互いの技術力が分かれば、疑心暗鬼による軍拡を防ぐ効果も期待できる。日本はかつて宇宙の平和利用と言ってきた。米中の仲介役を果たしたい。それは日本の安全保障にもつながるはずだ。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】