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【社説】

原発輸出総崩れ 成長戦略の誤り認めよ

 日立製作所が英国での原発建設計画を凍結し、日本の原発輸出はすべて暗礁に乗り上げた。契機は福島原発事故。その当事国が原発輸出を「成長戦略」と呼ぶことに、そもそも無理はなかったか。 

 リトアニア、台湾、米国、そして今度の英国と、福島原発事故後もなお、日本メーカーがかかわってきた原発輸出計画は、次々に挫折した。トルコからの撤退も確実視されている。

 米国に押しつけられた感のある原発メーカー、ウェスチングハウス・エレクトリックの経営破綻は、買収した東芝をも経営危機に追い込んだ。

 今世紀初め、温暖化対策などを名目に「原発ルネサンス」、すなわち世界的に再評価が叫ばれた。

 経済産業省は二〇〇六年に「原子力立国計画」を立案し、現政権は原発輸出を「成長戦略」の中心に位置付けた。だが、3・11がすべてを変えていたのだ。

 福島の教訓に基づく安全対策費用の高騰で、原子炉は一基一兆円超時代。高過ぎて造れない。“商売”として見合わなくなっていた。

 「コストを民間企業がすべて負担するには限界がある」と、日立製作所の東原敏昭社長は言った。

 しかし、総事業費三兆円という今回の原発計画には、英政府が約二兆円の融資保証をつけていた。

 たとえ政府レベルの手厚い支援があっても、もはや原発事業は、成り立たないということだろう。

 一方、再生可能エネルギーは世界中で飛躍的に伸びている。二〇一五年に導入された発電設備の五割以上を再生可能エネが占めている。だが、かつて太陽光パネル生産量世界一を誇った日本は、今や再エネ先進国とは言い難い。

 もしかするとメーカーとしてもリスクだらけの原発という重荷を下ろし、再エネ事業などに切り替えたいというのが、本音なのではないか。

 世界の潮流に逆らうような、不自然ともいえる政府の原発へのこだわりは、日本経済の足かせになっているとは言えないか。

 海外がだめなら国内で。原発の再稼働を急ぎ、さらに新増設も、という声もある。大間違いだ。政府支援、つまりは税金を使った新増設を民意が許すはずがない。

 原子力技術の継承が必要ならば、当面は廃炉技術に磨きをかけるべきではないか。原子力発電の衰退は、廃炉市場の拡大にほかならない。「成長戦略」というのなら、そちらを取りに行くべきだ。

 

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