魔法科高校の劣等生~双子の運命~【本編完結】   作:ジーザス
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書くことって楽しいそれではどうぞ。


第二話 再会②

三日後の夕方、雨のにおいを含んだ風が吹く中克也がリムジンに乗ってやってきた。克也が車から降りると同時に深雪は走り出して克也の胸に飛び込む。

 

「克也お兄様お待ちしておりました!」

 

涙を流しながらすがりつく妹に俺は優しく頭をなでてあげた。

 

「ただいま深雪。待たせて悪かったね」

 

俺の声を聴くとまた泣き出してしまい俺は慰めようと慌てふためいている。

 

「お帰り克也。久しぶりだな」

 

達也が頬を緩めて近づいてきた。

 

久しぶりに見る双子の弟を視界に入れるとなぜか妙に安心できる。相変わらず不思議な奴だと思いながらも返事をした。

 

「よう達也。元気だったか?」

「当たり前だ」

 

といつも通りの返答をしてくる弟に笑みがこみあげてくる。するとメイドが話しかけてきた。

 

「克也様、入学試験頑張ってくださいね応援しております」

 

笑顔で言ってきた。

 

「ありがとう」

 

返事をすると彼女は車に戻った。

 

克也に話しかけているメイドの顔を見て達也達は驚いていた。 

 

こげ茶色のウェービーヘアと細く濃い眉も笑うと両側にできるえくぼも沖縄で達也をかばって逝った人桜井穂波桜井穂波(さくらいほなみ)にあまりにそっくりだったのだ。

 

達也にとって心を開くことのできる数少ない人であり深雪にとっては年の離れた姉のような存在だった。

 

俺たちが驚いていると克也が不思議そうに尋ねてきた。

 

「達也、深雪?どうしたんだ?」

 

克也の声に我に返る二人。

 

「すまない克也俺の知っている人にそっくりな人がいたから」

 

{なるほどそういや二人は穂波さんと親しかったな}

 

「彼女は桜井水波(さくらいみなみ)。桜シリーズの第二世代で達也たちの知っている桜井穂波さんとは遺伝子上姪の関係だよ」

 

そのことを説明すると二人は納得したようだ。

 

 

 

リムジンが去り俺たちは家の中に入った。

 

「二階の一番奥が達也お兄様の部屋で手前が克也お兄様の部屋になっています」

 

深雪に部屋の説明を受けラフな格好に着替えて夕食の準備がしてあるリビングに向かった。

 

深雪の料理はどれも美味しくて至極満足のいく夕食でしかも俺の大好物の魚介がメインだった。

 

食後、達也はアイスコーヒーを俺はアイスティー、深雪はミルクティーを飲んでいた。正確には深雪が久しぶりに会えたことがうれしいのか俺の右腕に抱きつきながら。

 

「克也、魔法の方はどうだ?」

 

達也は気にかけるように聞いてきてくれた。深雪も心配そうに見つめてくる。

 

「安心してよ二人ともほぼマスターしたからさ」

 

そう答えると達也はほっとしたように肩の荷を下ろした。

 

まあ、約一名「さすが克也お兄様です!」とエキサイトしているのもいたが(もちろん深雪である)…。

 

「ほぼマスターしたというのは言葉通り受け取っていいんだな?」

「もちろんだ」

 

達也の質問にしっかりと答えておく。

 

二人がここまで心配してくれている理由は幼いころ俺が魔法事故にあったからだ。『流星群』の実験中機械の故障で魔法式が俺に逆流し死にかけたことがあった。

 

その時に達也が俺に『再生』を行使してくれた。そして達也を連れてきてくれたのが深雪だった。

 

生まれた時から俺は膨大な想子を有していた。母である深夜の精神干渉魔法に似た魔法と妹である真夜の固有魔法『流星群(ミーティア・ライン)』を使うことができると言われていた。

 

達也は生まれた頃から『分解』と『再生』の固有魔法を有していたが魔法演算領域が大幅に占領されていたためそれ以外の魔法を使うことができなった。

 

それによって達也は使い物にならないと判断された。俺がありえない魔法を四つも有していたのが達也の迫害に拍車をかけたのだと思っている。

 

六歳の頃に人造魔法実験を行われた達也だが俺との絆は切れておらずむしろ固くなっていた。こいつ(あいつ)がいれば俺は誰にも負けないと思うほどに。

 

俺が『流星群』を使えることを知った子供のいない叔母の真夜は俺を溺愛した。母といるより叔母と過ごすことの方が多かった俺はもちろん母にも愛されてはいたがどこか蚊帳の外だった。

 

それでも達也と深雪は俺と仲良くしてくれた。だからこそ今この状況ができあがっているのだ。

 

俺は達也にお願いをすることにした。

 

「達也、俺久々に八雲先生の体術修行をお願いしたいんだけどいいかな?」

「いいだろうさ師匠も喜ぶんじゃないかな」

 

達也がうなずいてくれたのでひとまず安心した。

 

「師匠に頼んでくる」と言い九重寺(きゅうちょうじ)に向かう達也を見送って俺は深雪に勉強を教えることにした。

 

居候(?)させてもらうのだからそれぐらいの対価は支払わなければならないと思ったのだ。自慢ではないがある程度のことを教えれるほどの知識は持っている。

 

勉強を教えるために深雪の部屋に向かった。

 

 

 

翌日、八雲先生の許可がとれたので達也と二人で向かうことにした。深雪はお留守番だ。そう告げると少し拗ねていたが午後に買い物に行く約束をするとすぐに機嫌を直してくれた。

 

この後魂が抜けることになるとは知らずに…。

 

克也は足で地面を踏むことなく坂道を滑り上る。一方達也は一歩一歩の歩幅が十mにもなっている。達也の顔には余裕がなく少し苦しそうだ。

 

「スピード緩めようか?」

 

スピードを落として横に並びながら聞いてくる克也は片足で滑走していた。

 

「いやそれではトレーニングにはならない」

 

軽く息切れしながら達也は答える。二人は靴に動力を仕込んでいるのではなく魔法を使っているのだ。

 

克也は重力加速度を低減する魔法と自分の身体を道の傾斜に合わせて目的方向に移動させる魔法。

 

達也は路面をキックすることで生じる加速力と減速力を増幅する魔法と路面から大きく飛び上がらないように上向きへの移動を抑える魔法。

 

どちらも移動と加速の単純な複合術式だ。

 

単純であるが故に後から魔法演算領域を付け加えられた達也にも継続的に使える。

 

目的地は家から十分程の距離にあり階段を上り山門をくぐると左右から同時に攻撃を受けた。

 

二人は慌てずお互いに背中合わせで迎え撃つ。

 

レベル的には危ういことはないのだが何しろ数が多い。倒しても倒しても敵が群がってくる。

 

魔法で倒したいところだがここには体術の指導を受けにきているので使いたくない。使ったところで効果はない(薄いではない)。

 

人数的に九重寺の門人の七割が総掛かりしているようだ。師の性格の悪さに二人同時にため息をつきながら確実に仕留めていく。

 

五分ほどで全員を叩き潰し(行動不能に近い状態)歩き出す。

 

二人ともかすり傷以上の怪我をしておらず息切れもしていない。門人が手加減したわけではなく二人がこの歳ですでに達人の域に近いところまで技術を高めているからだ。

 

生半可な鍛え方をしたものが相手をすれば十秒ももたないだろう。

 

寺の中心には弟子をけしかけたことをなんとも思っていない師が待っていた。服装は門人たちとほぼ変わらない質素なものなのにまとっている空気は別格だ。彼の名前は九重八雲(ここのへやくも)

 

この九重寺の僧侶で自称「忍び」だ。より一般的には「忍術使い」古式魔法の使い手であり古式魔法の伝承者だ。

 

「先生お久しぶりです久々に体術の指導をしてもらえますか?」

 

あいさつとともにお願いし構える。両手をあごの下あたりで構え左足を突き出し右足を引きながら腰を少し落とす姿は格闘技の基本の構えだ。

 

それを見ながら先生はひょうひょうとしながら答えた。

 

「そんなにあせらなくてもちゃんと鍛えてあげるよ今日だけではなくこれからもね」

「本当ですか!?」

 

今日鍛えてもらえるだけで素晴らしいことなのにこれからも鍛えてくれるらしい。

 

ありがたく思いながら一気に八雲との距離を詰める。目の前に現れた瞬間に右足で八雲の足を払う。が八雲に簡単によけられてしまう。

 

だがそれは予想の範囲内である。

 

ジャンプでよける八雲に払った足を軸にし踏み切り前方に回転し左の踵で八雲の頭を狙う。

 

「およ?」

 

予想外の攻撃に八雲は声を出す。 

 

{これならいける}と俺は確信したが後頭部にあたる瞬間先生の輪郭が崩れたと思うと姿が消えていた。

 

俺は無理な体勢から放った技を空振りさせ致命的なスキを見せたことで先生の高速の連撃をよけるのに精一杯になった。

 

先生の攻撃をかわし続けることができないと思った俺は連撃のスキを見て間合いから逃れて白旗を上げた。

 

「参りました先生」

 

降参すると先生は自分の頭をぱしぱしとはたきながらつぶやいた。

 

「ふい~今のは少し危なかったよ。あの体勢からまさかドロップキックがくるなんておしかったね克也君。つい『逃水(とうすい)』を使っちゃったよ」

「『透水』ですか?俺には輪郭がなくなって姿が消えたようにしか見えませんでしたが…。」

 

自分には分析する能力が低いので理解することができない。

 

「達也君にはどう見えたかな?」

 

八雲は達也に話を振った。

 

「光の屈折率を下げ自分の姿を周辺の景色に溶け込ませたのではないですか?姿が消えたように見せかけ相手の動揺を誘う技。眼で敵の位置を探し当てる敵には効果てきめんでしょうね。しかし師匠が使いたがる術ではないと思いますが」

「その通りだよ達也君。正確に言えば気配を消して隠れるのではなく認識をずらす術だ。僕があまりこの術式を使わないのは自分に合わないと思っているからだよ。気配を消すか偽るのが『』の要素だからね」

 

達也の分析は正しかったようだ。

 

「さあ達也君やろうか」

 

先生と組手を始める達也を見ながら俺は考え込んでいた。

 

{やはり達也は俺に足りない能力がある。さらに体術は上でCADを自分で完全マニュアル調整を行えるほどの知識も持っている}

 

うらやましいと俺が思うのは達也を否定することにつながる。なぜなら達也からしたら自由に魔法を使える俺がうらやましく思うのと同じなのだから。

 

だが俺と達也がコンビを組めば間違いなく最強になれる。達也の分析力と俺の魔法力があれば負けることはない。

 

達也が息切れを起こしながら地面に崩れておりまた先生に負けたようだ。ほんの少しうれしく思いながらも治療するために近寄る。

 

「そろそろ達也君との勝負は勝率六割になるかな。ようやく差をつけれたよ」

「達也の方が俺より長く戦えてますし勝率も高い少し悔しいです先生」

 

達也に固有魔法『癒し』をほどこしながら話す。この魔法の便利なところは精神的ダメージだけでなく肉体的なダメージにも通用することだ。

 

「仕方がないよ克也君。君は数回しか僕の教えを受けてないし達也君はこの二年間ほぼ毎日組手をしている。そもそも体術といっても僕が教えているものと君が本家で教わったものでは根本的に違うからね。忍びまたは忍術使いが使う体術は相手の動きを予測し必要最小限の行動で終わらせられるかを目的としている。逆に君が習ってきた体術は相手を倒すことを目的にしている。だから僕とやってもすぐに終わってしまうし負けることが多い。でも落ち込む必要はないんだよ克也君両手で数えるぐらいしか組手をしていないのに僕が予測できない戦い方をした自信を持っていいんだ」

 

先生に励まされたことで自信がついた。達也もいつの間にか起き上がり先生の話を同じように聞いていた。

 

「君たち二人が同時にかかってくればたぶん僕もそんなに持たないと思うよ?君たち二人は口に出さなくてもどう攻撃したがっているのかわかるんだからさ」

 

それだけ言うと先生はもう帰りなさいと送り出した。

 

 

 

帰りは魔法を使わずに歩いた。二人して先生に勝つことができなかったが収穫があったので落ち込むことはなかった。

 

「達也、先生が言ってた口に出さなくてもどうしたいかがわかるってのは俺たち三人が作った『念話』のことかな?バレてるとは思わないけど」

「それはないたぶん師匠が言いたいのは心の深い部分で繋がっているとか信頼があるとかそういうことだと思う」

 

俺の不安を一蹴してそれらしいことを言ってきた。達也が言うのだから間違いないだろう。

 

「達也、家まで勝負しないか?先にインターフォンを押した方が勝ちだ魔法は禁止で走りだけな。負けたら深雪の欲しいもの一つ買うのはどうだ?」

「いいよ克也面白い勝負になりそうだ」

 

そう言うと直線のガードレールの柱に並んだ。

 

「「よーい…ドン!」」

 

二人同時に掛け声をして走りだした。もちろん誰にも迷惑をかけないようにして。

 

勝負はギリギリのところで俺が勝ったがインターフォンを壊してしまい深雪に二人そろって怒られた。あの女王のような笑顔で(ただし眼は笑っていない)…。

 

修理費は本家が出してくれたが深雪に説教されている俺たちを見て修理に来た四葉家の使者は笑っていた。

 

午後から俺は深雪に連れられて買い物に行ったが夕方まで振り回され魂が抜けどこで何をしたのかを覚えていない。帰ってきた俺を見て達也は首をかしげていた。

 

そして俺の魂を抜いた張本人がとってもご機嫌だったのはまた別の話である。その喜びは達也が服を買ってあげたからか俺と一緒に買い物に行けたからなのか…。




九重先生が登場しましたね戦闘シーンを書くのが難しい。


逃水(とうすい)・・今作オリジナル魔法。光の屈折率を下げ自分の姿を周辺の景色に溶け込ませ敵の認識をそらす魔法。





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