もしも深雪が百合に目覚めたら   作:カボチャ自動販売機
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もしも深雪が百合に目覚めたら5

「お兄様、私とクラスを代わってくれませんか」

 

「普通に無理だが、理由を聞こう」

 

「エリカと美月と同じクラスが良いからに決まってるじゃないですか。今日カフェでお話をして確信しました。嫁にするしかない、と」

 

「嫁にした瞬間から二股になるわけだが、そこはいいのか」

 

 

ちなみに、深雪が私の嫁発言をするのはこれで三回目である。

 

 「私の体が一つしかないのが悪いのです。そうだお兄様、私を二人に増やす魔法を創ってください」

 

「普通に無理だから断る」

 

 

エリカがチェックしていた「ケーキ屋」は、実際行ってみると「デザートの美味しいフレンチのカフェテリア」だった。

 

そこで昼食を済ませ、女子三人が短くない時間お喋りに興じていたため、二人が家に帰り着いたのは夕方も近い時間帯になっていた。

 

今はリビングで深雪のいれたコーヒーを飲みながら夕食までの時間を寛いでいるところである。

 

 

「そういえば、七草会長とはお知り合いだったのですか?随分と親しそうなご様子でしたが」

 

 

「いや、今朝少し話しただけなんだが……」

 

「そんな感じには見えませんでしたが……まさかお兄様、私を差し置いて七草会長を口説いたのですか!?」

 

「考えてもいないから詰め寄らないでくれ」

 

 

目と鼻の先にまで迫っていた深雪を片手でそっと押し戻して、持っていたコーヒーカップをテーブルに置く。

 

幸い、コーヒーは溢れていなかったが、あわや溢れそうになる程の勢いだったのだ。

 

 

「まあ、お兄様がどうしてもと言うのならば深雪は引き下がりますが……その時は七草会長に妹さん達を紹介するようにお願いしてくれませんと」

 

 

「七草の双子のことか?」

 

七草の双子とは七草真由美の妹である二人、七草香澄と七草泉美を合わせて数字付きの間で言われている通称である。

 

一卵性双生児で、肉体的に同一の遺伝子を有しているのみならず、魔法演算領域の特性も一致しているため、魔法式の構築と事象干渉力の付与を分担して一つの魔法を発動する『乗積魔法』が使えることで有名だ。

 

達也としても『乗積魔法』には興味はあるが、態々紹介してもらう程ではなかったのだが、深雪がそこまで『乗積魔法』に関心があるとは知らなかった。

 

と、達也が考えていると――

 

 

「はい!とっても可愛いのですよ!双子それぞれに個性があって、香澄ちゃんは、みるからに活発で元気、体育会系的な印象のある娘なんですが、反対に泉美ちゃんはお淑やかでおっとり、文学少女的な印象で、双子としての強みを最大限に発揮しているんですよ!さらにお揃いのリボンまでしててあざとい!でもそれが可愛い!二人並べて愛でたい!この気持ちが分かりますかお兄様!?」

 

 

――双子の魅力について語られた。

 

勿論、全く分からない。

 

 

「……まあ、俺は七草会長とどうこうなろうという気はないから」

 

「そうですよね、そうなるとやはり私がやるしかないようですね」

 

「いや、別にやらなくても良いが」

 

 

やる気に満ち溢れている深雪を前にして達也は思い出す。

 

深雪のストライクゾーンは広い。しかしその中でも特に好きなタイプというものはある。

 

 

 

小柄で自身より低身長。

 

 

 

達也の分析では深雪は特にそういう女性を好んでいるらしいことが分かっていた。

 

深雪は愛を与えたい、尽くすタイプ。

 

愛でたい、甘やかしたい、という欲求があり、それが自身よりも小さい、という好みの原因だった。

 

 

 

つまりはただのロリコンである。

 

 

 

「ああ、七草三姉妹を並べて愛でたい」

 

「……深雪、夕食にしようか」

 

 

深雪が妄想の世界へ入ろうとしていたところを達也が止めると、深雪は嬉々として、料理の準備をするために席を立った。

 

一人になった達也は、高校生活においての目標にして、守護者として四葉より与えられた指令を思い出す。

 

 

 

――高校三年間の間に妹を正常な人間にすること。

 

 

 

達也個人としては同性愛を否定するわけではない。

 

ただ、少々危うい、オブラートに包まずに言うならば、変態と言わざるを得ないこの状態をなんとかしたいのである。

 

「お兄様、先程エプロンを見て考えたのですが、裸エプロンというのは、こうしてエプロンが日常の中に常にあるからこそ、魅力があるのだと思います、お兄様はどうお考えでしょうか?」

 

「……深雪はやるなよ」

 

 

 

 

無理かもしれない。

 

これなら加重系魔法の技術的三大難問の方が出来そうな気がする。

 

達也はため息を一つ吐くと、深雪が料理をしている姿を確認し、情報端末を取り出す。

 

パスワードを入力し、画面を開くと、もう一度別のパスワードを入力し、一つのファイルを画面に表示させた。

 

それは、極秘の計画書だった。

 

その計画名は。

 

 

――四葉家主導司波深雪真人間化計画。

 

 

達也は遠い目でそれを見つめながら、まだ無邪気だった頃の深雪の姿を浮かべ、カップに残っていたコーヒーを流し込んだ。

 

 

 

 

私は、お兄様を愛している。

 

そのことは割と早い段階で自覚していた。最初は自分の感情に名前を付けられず、どうしたらいいのか分からない焦りだけがあったが、それもお兄様と過ごす内に、愛だと気がついた。

 

もしかするとこの愛は、異性に対する愛ではなく、家族に対する愛なのかもしれない。

 

しかし私は、お兄様以外の男性にこのような感情は抱いたことはないし、抱くこともないだろう。

 

ならばこの愛がどのような愛であったとしても、それは世間一般で言うところの恋愛感情から来る愛と何も変わらない。

 

とはいえ、私とお兄様は結婚できない。世間一般で言うところの愛のゴールは初めから用意されていないのだ。

 

 

当時、中学生だった私は絶望した。

 

どんなに愛を向けてもそれを理解してもらえない、伝えることもできない、叶うことはない。

 

中途半端に成長した私の精神はその絶望から逃れるため、滅茶苦茶な理論を展開した。

 

 

即ち、女の子と結婚する、である。

 

 

伝えられない愛は吐き出されることなく積もっていき、それは当時の私の心を蝕んでいた。しかし、お兄様に愛を向けられないのならどうすれば良いのか。この燻った愛をどこへ向ければ良いのか。

 

 

この身をお兄様以外の男が触り、汚すなんて、おぞましい。

そうなったら、異性に愛を向けることはできない。

 

 

じゃあ、女の子にしよう、という理論だ。

 

 

弁解させてもらうと、これがあまりに短絡的で、破綻しているということには、とうの昔に気がついてる。

 

しかしどうだろうか。女の子に愛を向け始めた私は満たされていた。今まであった不安や絶望が嘘のように無くなった。

 

 

今、私は思う。

 

お兄様と私は結婚できないが、結婚とは他人同士が家族となるために行う契約であり、既に私達は家族なのだから必要ないのではないかと。

 

愛は女の子で満たし、お兄様とは兄妹としてずっと一緒にいられれば、それはなんて幸せなのかと。

 

 

滅茶苦茶な理論であったが、やってみればそれが唯一の正解であった様に思える。

 

沢山の女の子に囲まれ、お兄様と一緒に過ごす。

 

 

 

それが今の私の目指す、愛のゴールだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――一族の総力を挙げて、妹を真人間にしようとする兄。

 

 

――その兄を愛する余り、百合になるという斜め上の進化を遂げた妹。

 

 

 

それぞれの思惑が交差する兄妹の、魔法科高校での生活はこうして始まった。




本当に序章という形なのですが、短編としてはこれで完結です。

書きたいことはまだまだあるので、またキリの良いところまで書き溜めが出来たら、今度は連載版として投稿出来ればなと思っています。その際にはまた読んでくださると嬉しいです。

ご愛読ありがとうございました!




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