トップ > 中日スポーツ > スポーツ > 首都スポ > 記事

ここから本文

【首都スポ】

[スポーツクライミング]先駆者の兄の背中を追いかけるホープ楢崎明智

2019年1月25日 紙面から

19年シーズンへ向けてジムで練習する楢崎明智=栃木県宇都宮市で(武藤健一撮影)

写真

 2020年東京五輪の新競技であるスポーツクライミングで、偉大な兄の背中を追うクライマーがいる。種目のひとつ、ボルダリングで、16年に日本男子史上初のW杯年間王者となった日本のエース楢崎智亜(ともあ)の弟、明智(めいち、19)=ともにTEAM au=だ。今月26、27日のボルダリング・ジャパンカップ(東京・駒沢屋内球技場)を皮切りに、いよいよ五輪出場を懸けた19年シーズンが開幕する。兄とともに激戦の男子クライミング界を盛り上げることになりそうなホープを紹介する。 (平野梓)

 長い手足を自在に操り、カラフルなホールドを次々とつかんで登っていく。187センチの長身で、身長を8センチ上回る195センチのリーチ。届く範囲が広くどんな課題でもクリアできそうだが、明智は「日本の課題だと170センチ前後の人が作るから、それに合わせた課題になると動きが取れなくなっちゃう」と苦笑する。

 欠点を補っているのが、ほかの人にはまねできない繊細さ。足の置き方、つかみ方、保持する体勢。多くの要素が必要となるクライミングの世界で、明智は窮屈な体勢でも体を動かせる。兄・智亜も「明智は狭い所でもうまくバランスを取ったり、ポジション取りができる。そこはぼくにはないところ」と言う。

 ボルダリングジムに通い始めたのは小学1年から。最初は智亜が熱中していたのを見ているだけだったが、2年の終わりから実際に登らせてもらえた。「最初は智くんのまねをするのが楽しいっていう感じで。ボルダリング自体はあんまり楽しくなかったんじゃないですかね」。それが小学4年のときに群馬県山岳協会の強化選手に選ばれて、真剣に取り組み始めた。

 「1年早く強化選手になっていた智くんを抜かしたいっていうのがあって。めちゃくちゃ1人でも登るようになった」

 兄以上に強くなりたい-。その思いを原動力に、国内のユースやジュニアの大会で上位に入り続けた。13年から代表の下の世代であるユースの国際舞台にも立ち、17年世界ユース選手権は、ジュニア(1998、99年生まれ)男子で東京五輪の実施競技である複合(ボルダリング、リード、スピード)で金メダルに輝いた。16年からリード、17年からボルダリングのW杯に本格参戦している。

 昨年6月に盛岡市で開かれ、第1回大会となった複合ジャパンカップは兄弟対決で沸かせた。決勝でスピード、ボルダリングを終えた時点で明智が首位。最後のリードで兄に逆転され2位となった。「たまたま上にいるっていう感覚で、絶対に最後で負けると思っていた。智くんには一番、リードで勝てる気がしなかった」と振り返る。兄が欠場した昨年11月のアジア選手権(鳥取県倉吉市)の複合は見事に優勝。今年8月の世界選手権(東京・八王子)切符をつかんだ。

 いよいよ五輪出場を懸けたシーズンが始まるが、自国開催の大舞台に強い思い入れがあるわけではない。「五輪って意識するのは、あんまり好きじゃない。一つのW杯みたいな感じで楽しそうだなとは思いますが」。実は宇都宮市の実家にテレビがない。幼少期に上に乗ってテレビ台から落として壊してしまって以来、設置されていない。五輪を生中継で見た経験がなく、「五輪のすごさは知っているけれど、いまいち盛り上がりが分からない」と本音を明かした。

 五輪の種目に決まってから目の色を変えて競技に取り組む選手もいて、なかなかその波に乗れていない自分がいる。「だけど、やるからには最後の最後まで生き残りたい気持ちはありますね、もちろん」と強調するのは、兄以外にも男子には五輪メダルを狙える有力選手が多いから。昨年のアジア大会複合2位の藤井快、同世代では昨年の世界選手権ボルダリング優勝の原田海らがしのぎを削る。その争いに自然体で臨む。

<楢崎明智(ならさき・めいち)> 1999(平成11)年5月13日生まれ、宇都宮市出身の19歳。187センチ、64キロ。小学2年から競技をはじめ、2012年JOCジュニアオリンピックカップで初優勝した。世界ユース選手権(ともにジュニア部門)では17年複合金、18年はリードとボルダリングで優勝。スピードの自己ベストは6秒94で日本ランキング4位。

写真

◆明智のアラカルト

 ◇好きな食べ物 「フルーツが好きですよ。栃木って言ったらイチゴじゃないですか。好きな品種? やっぱり『とちおとめ』です。県民あるあるで、季節になると農家をやっている知り合いが箱でくれるんですよ。あとキウイも好きだし、バナナは食べ過ぎて今は微妙だけど…。リンゴも好きです」

 ◇中学生のときのあだ名 「ふざけてですけど『進撃の巨人』と。当時、はやっていた漫画のタイトルです。中学で180センチ前後あって大きい方でしたね。仲のいい人はめいちゃん、とか明智って呼んでくれます」

 ◇趣味 「ゲームです(笑)。携帯でもプレステでも。昔ですけど、パズドラは中学時代に余裕で学年で1番やり込んでいた感じで…」

 ◇尊敬する人 「父親は尊敬していますね。口数は少ないですけど、なんでも分かっていてくれるなと。理解もあるし応援してくれる。一番のスポンサーです」

 ◇兄・智亜との関係 「ライバルではないです。能力的に負けているんで。遠いというか、まだまだ自分が足りていない感じ。友達ですね、親友です」

写真

◆スポーツクライミングの複合

 下記の3種目全てに臨み、各種目の順位を掛け算したポイントの少ない選手が上位となる。

 【スピード】 ホールド(突起物)の位置が統一基準で定められ、高さ15メートルの壁を登るタイムを争う。世界のトップは男子が5秒台、女子が7秒台。決勝では1対1の対戦による勝ち抜き戦となる。

 【ボルダリング】 高さ5メートル以下の壁にさまざまな形のホールドが設置され、複数の課題(コース)に挑んで完登できた数を競う。

 【リード】 命綱を使って12メートル以上の壁を登り、時間内に到達した高さを競う。

◆東京五輪のスポーツクライミング

 スピード、ボルダリング、リードの3種目をこなす複合で争われる。男女各20人で、各国・地域からは最大2人。国際連盟によると、8月の世界選手権のほか、11~12月の五輪予選(トゥールーズ=フランス)と来年の大陸別選手権でも出場権を手にできる機会がある。日本は開催国枠で男女1枠ずつを確保している。

    ◇

 首都圏のアスリートを全力で応援する「首都スポ」。トーチュウ紙面で連日展開中。

 

この記事を印刷する

閉じる
中日スポーツ 東京中日スポーツ 中日スポーツ 東京中日スポーツ 中日スポーツ購読案内 東京中日スポーツ購読案内 中日スポーツ購読案内 東京中日スポーツ購読案内 中日新聞フォトサービス 東京中日スポーツ