もしも深雪が百合に目覚めたら   作:カボチャ自動販売機
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以前、連載用に書いていたものの、別の作品を書きたくなって途中で書くのを止めたものを、短編用に直したものです。

完全にギャグ路線なので、深雪がぶっ壊れています。お気をつけください。



もしも深雪が百合に目覚めたら1

お兄様が素敵過ぎる。

そう、私のお兄様は素敵過ぎるのである。

 

そんなお兄様を私は愛してる。

家族として、兄として、そして何より、男性として。

 

だけど私は血の繋がった妹。

 

どれだけ愛そうとも、愛されようとも、二人が結ばれることはない。

恋い焦がれ、焼かれるこの胸の熱は、お兄様に届くことはないのだ。

 

いつかは私も結婚しなくてはならない。

四葉家を担う者として、何より魔法師として、早くに子をなし、魔法界への発展に貢献する義務がある。

魔法師は早婚が奨励されており、日本魔法界のリーダーを自認する十師族の一員となるのなら、尚更だ。

 

 

私が、お兄様以外の男と結婚することは、必然であり、仕方のないこと。

 

 

 

けど、この身をお兄様以外の誰にも触られたくはない。

お兄様以外の男がこの身を汚すなど、おぞましくて考えたくもない。

 

 

私は思った。

 

 

 

そうだ、女の子と結婚しよう、と。

 

 

 

私は、百合に目覚めたのである。

 

 

 

 

 

 

1999年、人類滅亡の預言を実現しようなんて考えた狂信者集団による核兵器テロを、特殊な能力を持った警察官が阻止した事件が、近代以降で最初に魔法が確認された事例。

 

それから『超能力』の研究は進み、少しずつ、『魔法』を伝える者たちが表舞台に姿を見せた始め、『超能力』は純粋に先天的な、突然変異で備わる能力であって、共有・普及可能な技術体系化は不可能だ、という結論は超能力を魔法に置き換えることで覆された。

 

才能は必要であるが、それは高い適性を有する者のみがプロフェッショナルと呼べるレベルまで上達できる、という意味では、芸術・科学・スポーツ・料理、どんな技術でも同じ事。

 

確かに『超能力』は『魔法』によって再現が可能となったのである。

『超能力』は『魔法』によって技術体系化され、『超能力者』は『魔法技能師』となったのだ。

 

 

その魔法技能師、通称『魔法師』を最も多く輩出しているエリート校。

 

――国立魔法大学付属第一高校。

 

 毎年、国立魔法大学へ最も多くの卒業生を送り込んでいる高等魔法教育機関として知られているこの学校は、エリート校というだけあって、その倍率はもはや正気の沙汰ではなく、ここに入学できるのは、全国でも選び抜かれた精鋭のみ。

 

 

「納得できません」

 

「まだ言っているのか……?」

 

 

その第一高校入学式、開会二時間前の早朝。

新生活とそれがもたらす未来予想図に胸躍らせる新入生も、彼ら以上に舞い上がっている父兄の姿も、流石に疎らだ。

その入学式の会場となる講堂を前にして、真新しい制服に身を包んだ一組の男女が何やら言い争っていた。

同じ新入生、だがその制服は微妙に、しかし明確に異なる。

スカートとスラックスの違い、男女の違い、ではない。

女子生徒の胸には八枚の花弁をデザインした第一高校のエンブレム。

男子生徒のブレザーには、それが無い。

 

ムスッと、頬を膨らませている少女は、十人が十人、百人が百人認めるに違いない可憐な美少女。

まるで、宝石のように輝く美貌は、頬を膨らませていようと、劣れることはなく、むしろ別の可憐さを引き出しており、彼女の美少女っぷりになんら支障はない。

 

少女の正面で、困ったように、というよりも、呆れたように、立っている少年は、取り立てて言い及ぶところのない平凡な容姿。

ピンと伸びた背筋と、やや大人びた雰囲気が、堅物そうな印象を与えている。

 

 

その少年に、今にも掴みかかりそうな勢いで、少女は叫んだ。

 

 

 

「何故この学校のスカートはこんなにも長いのですか!?これでは、美少女の脚線美を拝むどころが、絶対領域さえ幻と消えますよ!誰です、こんな制服を考案したのは!」

 

 

頭を押さえる少年。

真剣そのものの、少女の顔を見て、その瞳に、メラメラと炎が燃えていることに気がつくと、もうどうにでもなれとばかりに、少年は口を開いた。

 

 

「……今時、どこの学校の制服もスカートはこんなものだし、何よりそんなことは入学する前から分かっていたことだと思うんだが」

 

「そんな覇気の無いことでどうしますか!何なんですか、枯れてるんですか!もう男子高校生になるのですよ!美少女の太ももが見たい!とは思わないのですか!」

 

「少なくとも、こんな妹の姿は見たくなかったよ……」 

 

 

年頃の妹、同級生になる妹から、美少女の太ももが見たい!と思わないのか!と問われて元気良く、はい!と答える兄がいたとしたのなら、それは出すべきところに出した方がいい。

この場合、達也が枯れているとか、覇気がないとか、そんなことは関係なく、質問の方がおかしい。

というか、この妹がおかしい。

妹である司波深雪の熱弁に、兄である司波達也が、頭痛を覚えても、それは仕方のないことだろう。

 

 

 

「深雪、そろそろリハーサルの時間だろう?初日から遅刻してしまっては、お前の心証に響く」

 

 

はあ、とため息を一つ吐いて、達也は深雪に端末に表示された時計を見せた。

 

 

「あ!そうでした!危うく、今日のメインイベントを、逃してしまうところでした」

 

 

新入生総代は、入学式で答辞を任される。

そのため、入学式の前には、生徒会の方々と共に、リハーサルを行うことになっているのだ。

二人が入学式の二時間も前からこんなところにいるのは、そのためなのだが、勿論、メインは入学式である。

 

が、深雪にとってはどうやら違うようだ。

 

 

「このリハーサルで、生徒会の方々と直接お会い出来ますからね!今期の生徒会は美少女揃いですし、楽しみにしていたのです!」

 

 

もうどうにでもなれ、と諦めモード全開の達也ではあったが、これから出会うであろう、美少女たちを思い浮かべ、目をキラキラとさせている妹を前にすると、今からでもなんとかするべきなのではないだろうかと、そう思わずにはいられない。

 

 

「それではお兄様、行って参ります!」

 

 

元気よく、それこそ、花が咲くような笑顔を浮かべながら、講堂へと妹が消えたのを確認して、達也は小さく呟いた。

 

 

 

「……どうしてこうなった?」

 

 

 

それはもう、何度目かも分からない、達也最大の疑問であった。

 




今作は全5話程で完結する予定です。
終始こんな感じで進みます。


それでは、明日も0時に更新します。




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