俺も魔法科高校に入学する   作:フリーザ様
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バレンタイン前日

 

2月13日。達也やらアメリカの雫やら真由美やら十文字やら幹比古やらが必死にパラサイトを追い掛けているというのに、まったく協力する姿勢を見せない大輝は、バッターボックスに立った。

 

「来いやァッ!」

 

野球部の喧嘩に手を出さない代わりに野球やることになったのである。

ピッチャーが野球ボールをグローブの中で握る。三回表、1-2で負けていた。ノーアウトランナー1、2塁の逆転のチャンス。

ピッチャーがボールを投げた。大輝がバットを振った。だが、ボールが変化した。大きく曲がり、ストライクゾーンから外れたが、思いっきり振られたバットの勢いは止まらない。空振りしてストライクとなった。

 

(予想通り、こいつは所詮素人だ。変化球は打てない)

 

前の打席と今の投球でピッチャーはそう分析した。キャッチャーからの送球を受け取り、ロージンバックに触れる。キャッチャーもそう思っていたのか、サインはフォークだった。

 

(OK)

 

帽子のツバに触れると、胸前にグローブとボールを持ってくる。ランナーの位置を確認し、ホッと一息つくと、二球目を投げた。グィーンッとキャッチャーミットに向かって突き進む。が、ボールが落ちた。

 

「ッ」

 

大輝がバットを振り下ろした。

 

「っ⁉︎」

 

(読まれた⁉︎)

 

タイミングもインパクトの位置もほぼ合っていた。ボールにバットが当たるが、芯に捉えることは出来ず、先端に当たる。ボールはファーストの横に転がりファールとなった。

「チッ」と大輝は舌打ち。それを見てキャッチャーはサインを出す。

 

(ストレート?なるほどな、確かに変化球を警戒してる今なら打ち取れるかもしれん)

 

ピッチャーはツバを触って了解というと、ボールを投げた。全力ストレートがキャッチャーミットに吸い込まれるように突き進む。

だが、キャッチャーは見逃さなかった。大輝がニヤリと笑ってることを。

 

「っ⁉︎」

 

バットが完璧な軌道で繰り出される。ボールをバットが捉え、思いっきり振り切られた。ボールは右中間に低いライナーで飛んだ。

セカンドとファーストの間を抜け、ライトとセンターの間のいい所に転がった。ライトに取られたものの、これでノーアウト満塁。続くバッターは、四番市原鈴音(大輝(バカ)の色に染められた)。

 

「審判、タイム」

 

大輝が一塁の副審に言うとタイムが掛かった。大輝はピッチャーに近付き、耳元で言った。

 

「………変化球と全力ストレートとデッドボール投げたら殺す」

 

「ええっ⁉︎」

 

ツッコミも虚しく大輝は言うだけ言って一塁に戻った。キャッチャーからは全力ストレートのサインが出ている。チラッと大輝を見るピッチャー。血走った目でウィンクしていた。

 

(すまん……俺はまだ死にたくないんだ……!)

 

ピッチャーは止むを得ずに超山なりのストレートを投げた。守備全員が半眼になる中、鈴音はバットを振った。偶然、真芯に当たった。センターの頭を超えてホームランになった。

 

『ふおおおおおおおおおお!』

 

攻撃側のチームメイトから歓声が上がった。全員が抱き合う中、ピッチャーは他のチームメイトにボコボコにされた。

 

 

 

 

「いやー勝った勝った!」

 

上機嫌に大輝は言った。現在、鈴音と帰宅中である。

 

「スゲェじゃん鈴音。打てるモンだな」

 

誰の所為だよ、とは言わないでおこう。

 

「いえいえ、大輝くんほどではありませんよ」

 

「俺はなんもしてねーよ」

 

「いえいえ、野球も出来るんですね。本当にスポーツ全般なんでも出来るみたいで驚きました」

 

「いやいや、卓球とか苦手だし俺」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ。ついうっかり相手の眼球に球当てちまうからなぁ」

 

「それ絶対狙ってますよね?大輝くんとは絶対卓球しません」

 

「えー、明日は卓球部にお邪魔しようと思ってたのに」

 

どうやら二人にとって部活動というのはデートスポットの一部に過ぎないようだ。

 

「あっ、少し図書館に寄ってもいいですか?」

 

「いいけど……学校のじゃダメだったのか?」

 

「あんな魔法のことばっかりの図書館はダメなんです」

 

「あーそう。了解」

 

二人は図書館に入った。鈴音が料理本を探しに向かった。大輝は手伝うと言ったのだが、「空気読んでください」の一言に一蹴されて仕方なく漫画コーナーへ。テキトーに漫画を数冊持って椅子に座ると、見覚えのある人物が座っていた。

 

「…………」

 

黙々と勉強してるのが見えたので後ろから肩をポンッと叩いた。その瞬間、ビクッと肩が震え上がる。

 

「っ⁉︎」

 

「よー渡辺」

 

摩利だった。勉強してるのか、赤本数冊とノートが広げられていて、傍には缶コーヒーが見えた。

 

「だ、大輝⁉︎というか今、呼び捨てにしたか?お?」

 

「何やってんだー?こんなところで」

 

「君とは無縁のことしてるんだ。頼むから邪魔しないでくれ」

 

「あー勉強?受験か!大変だな受験生!」

 

「分かってるならさっさと退……」

 

「おいおい数ⅰかよ。まだそんなところやってんの?もう2月だぜ?」

 

「復習に決まってるだろ。というか明日受験当日だから頼むから」

 

「あ、そこ違うよ」

 

「え、嘘」

 

「うん、嘘」

 

「ねぇ頼むから邪魔するのやめ……」

 

「こういう問題にはコツがあるんだよ。俺はそのコツ知らんけど」

 

「ねぇ、なんで人のコーヒー勝手に飲んでるの?」

 

「あー美味かった。ご馳走さん」

 

「………飲み干したのかお前」

 

やるだけやって大輝は去って行った。

 

「………飲み物買ってこよう」

 

摩利は自販機に向かった。

 

 





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