俺も魔法科高校に入学する 作:フリーザ様
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翌日。論文コンペ当日となった。達也は深雪と予定通りの時間に会場に到着。
「……お兄様、そろそろ何とかしたほうがよろしいのではないでしょうか」
「俺が何とかしなきゃならないのかな……」
達也は深雪の言葉に嫌そうに答えた。その視線の先には、エリカと花音が険悪な表情で睨み合っていた。
「どうしたんですか?」
仕方なく二人の仲裁に入る達也。
「あっ、達也くん。おはよー」
エリカが花音そっちのけで軽い挨拶をした。
「司波くん。この聞き分けのないお嬢さんに、貴方から何か言ってやってくれない?」
「はぁ……」
もうどうでもいいやという気分でため息をつくと、達也は、
「自分に一任してもらえるなら引き受けますが」
と、言った。花音は嫌そうながらも頷いた。で、達也はエリカとレオを引き連れて、ロビーのソファーに腰を下ろした。
「……まあ、事情は大体想像できるよ。エリカも真正面からぶつかることはないだろうに」
「ごめんなさい。結局、達也くんの手をわずらわせちゃって……」
「別に警備、って張り切らなくても、客席から応援してくれれば良いよ。何か事件が起こったら、その時は事態収拾に協力しても文句は言われないだろうし」
「そっか。協力、ね」
「始まるまで暇だったら楽屋へ遊びに来ればいい。友達なんだから遠慮は要らない」
その台詞に、エリカとレオは声を立てず楽しげに笑った。
○
その頃、大輝はまだ家で寝ていた。鈴音は午後から会場入りする。だから、その護衛の大輝も必然的に午後から入ることになるのだ。だから、この時間はまだ寝てる。
「んっ……今、何時だ……?」
時刻は八時十二分。安心して二度寝した。
○
八時四十五分になった、客席も埋まりかけてきて、先程控え室に藤林が持ってきたデータを達也は読みながら見張り番をしていると、五十里と花音がやって来た。
「司波くん、交代しようか」
「お願いします」
と、声をかけて深雪と客席に向かった。が、その途中、
「司波さん!」
名前を呼ばれた。「さん」付けである以上はおそらく深雪が呼ばれたのだろう。
「一条さん」
将輝だった。左腕には警備とかかれた腕章がある。
「お久しぶりです。司波さん。後夜祭のダンスパーティー以来ですね」
「ええ、こちらこそご無沙汰しております」
「あっ、いえ、こちらこそ……」
将輝は棒立ちになった。緊張の余り、何も話せない。
「会場の見回りですか?」
「は、ハイ、そうです」
どこまで緊張してるんだこいつは……と、達也は思った。
「一条さんが目を光らせてくださっているのであれば、私達もいっそう安心できます。よろしくお願いしますね」
「ハイッ!必ずやご期待に添えるよう全力を尽くします!」
マチルダの前のホワイトベース乗組員のようだった。
「十三束くんも、頑張ってください」
「あ、ありがとうございます」
将輝の緊張が移ったのか、隣の十三束もどもってしまった。
○
九時。大輝は目を覚ました。
「………まだ九時か……。んだ、寝付き悪ぃーな……」
三度寝した。
○
時刻は十時半になった。市原家の前。
「遅いわねぇ、真田くん。何してるのかしら……」
すでに集まっている真由美、摩利、鈴音は残り一人を待っていた。
「案外、まだ寝てるのかもしれませんね」
鈴音が冷静に言った。
「まぁ、あいつならそうだろうな。もしくは、今、朝飯食い始めたのかもしれん」
摩利もいつもの大輝の行動パターンを思い出しながら言った。
「………なんか、二人とも真田くんのこと随分分かってるのね」
「と、言いますと?」
鈴音が聞いた。
「いやだって、下級生の男の子の行動を予測できるなんてなーって思って」
「司波くん大好きの会長に言われたくありませんね」
「だ、大好きじゃないわよ!」
「照れるな照れるな」
鈴音と摩利にに逆にからかわれ、悔しそうに顔を赤くする真由美。
「でも、確かに遅すぎるな。これじゃ予定時間に間に合わないぞ」
「仕方ないわね……迎えに行く?あの子、一人暮らしよね確か」
「そうだな。行こうか」
鈴音が、『何してるんですか?迎えに行くので家で待っててください』と、LINEして、みんなで迎えに行った。
○
「………真田くん。まだ既読つきませんね」
「ほんとに寝てるなあのバカ」
鈴音の一言で摩利は呆れるように愚痴った。
「まったく、こんな美人三人と一緒に登校出来るっていうのにね」
真由美だけ呑気な事を言っていた。で、三人は大輝のアパートに到着。
「着いたけど……」
「とりあえず、インターホン押すぞ」
摩利が押そうとした時だ。真由美と鈴音は摩利の後ろに縦並びしている。
「…………おい、なんで縦並び?」
「や、だって……男の人の部屋に入るなんて初めてだし……」
「私もです」
「だからって縦並びはやめろ!緊張移るだろう!」
で、ピンポーンと押した。
「大輝、起きろ!迎えに来たぞ」
返事はない。それどころか、家から物音ひとつしない。
「………もっかい押すぞ」
ピンポーンとまた、呼び鈴が鳴る。
「しかし、返事はないただの屍のようだ。なんてね…」
と、真由美がいたずら心で言った時、摩利と鈴音に割と本気で心配したような汗が浮かんだ。で、二人でインターホンを連打する。
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポ……と、そこまで、連打したところで、ドアが外れて突っ込んできた。それが摩利に直撃する。
「うるッッッせェェェェェッッッ‼︎‼︎今日のために人が睡眠とってんのが分かんねェのかァァァッッ‼︎‼︎‼︎」
大輝が飛び蹴りを炸裂させたのだった。ドアの下敷きになる摩利を気まずげな顔で見る真由美と、真顔で見る鈴音。
「って、七草先輩に鈴音さん。もしかしてハロウィン?ごめん俺お菓子持ってないよ」
「トリックオアトリートじゃないわよ。遅刻よ、真田くん。十時半にはリンちゃんの家の前集合って言ったでしょ?」
「………今何時っすか?」
「十一時よ」
「じゃ、着替えてきます。あっ、どうぞ上がってください。おい渡辺。ドア直しとけよ」
「殺してやろうか!壊したのお前だしここお前の家だろうが!」
ガタッと起き上がって怒鳴る摩利。
「早く準備してほしーんだろ?そのくらい協力しろカス」
「んなっ……‼︎つーかタメ口か!」
「七草先輩、鈴音さん、上がってください」
「おまっ……!覚えとけよ!」
だが、無視して大輝は部屋に戻る。摩利がドアを直す中、大輝はコーヒーを二人分用意した後、遅刻して先輩に迎えに来させた癖に、朝から唐揚げを作って食べた。
「………意外と料理できるんですね」
鈴音がその様子を見ながら言った。
「それに、思ってたより散らかってませんし」
「こう見えて綺麗好きなんすよ。てか、一人暮らしならこれくらいのスキルは必要でしょう」
「それもそうですね。でもあそこのジャンプの山はなんですか?」
「捨てるの勿体ないやん」
「三年間、ジャンプ溜め込むつもりですか。この家埋まりますよ」
「いや生活費ピンチになったらちり紙交換にでも出そうかなって」
「あっ、なるほど」
と、言いながらコーヒーをすする鈴音。瞬間、ブハッと吹き出した。
「甘っ⁉︎」
「えっ」
「な、なんですかこのコーヒー!」
「普通そのくらい入れない?砂糖」
「……いつもこんなに入れてるんですか?」
「うん」
「糖尿になりますよ」
「終わったぞ〜……」
と、摩利が戻ってきた。
「あ、お疲れ様。ほらコーヒー」
「おお、サンキュー」
そうコーヒーを差し出す大輝はすでに着替え終わり、木刀ともう一本を腰に差し、いつでも出れる格好だ。
で、摩利はそのコーヒーを一口飲んだ。その瞬間、また吹き出した。
「辛ッ‼︎」
「あ、すいません渡辺先輩。砂糖とタバスコ間違えました」
「どんな間違いだそれは!」
逃げる大輝と追う摩利。結局、家を出る時間はさらに遅れた。