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【社説】

勤労統計不正 及び腰は許されない

 毎月勤労統計の不正な調査問題に対応するため政府は新たな予算案を閣議決定する。予算の修正によるやり直しは異例だ。政府は事の重大性を認識すべきだ。及び腰の対応は許されない。

 本来受けられる雇用保険や労災保険の給付を受けられなかった人への未支給分の支給は、迅速に確実に実施すべきだ。同時になぜずさんな調査が長年放置されたのかの解明も安倍政権の責務なのは言うまでもない。

 問題は事務費やシステム改修に約二百億円が必要なことだ。労働者や企業が負担した保険料から新たに支払われることにならないか。この額で済むのか。本来は労働者の給付に充てる財源で、政府の不祥事の後始末に使われることは理解し難い。丁寧な説明を尽くすことは当然である。

 さらに、未支給分の給付も難題だ。延べ約二千万人の対象者のうち約一千万人の住所が把握できない。既に死亡した人もいるだろう。

 雇用保険の給付は失業している人や育児休業中の人などが受ける。労災保険の給付は仕事でけがや病気となり働けない人への支援だ。労災には障害を負った人や、労働者が亡くなった際に遺族に払われる年金もある。

 年金は一人当たり平均九万円が未支給だ。最も苦境に直面している人へこの仕打ちはないだろう。安倍晋三首相は働きやすい環境整備をすすめる「働き方改革」を掲げているが、そうなら逆行する。

 二〇〇七年に約五千万件もの年金記録の持ち主が分からない不祥事が発覚した際、首相は「最後の一人、最後の一円まで年金を支払う」と繰り返した。だが、持ち主が判明したのは約六割にとどまった。しかも、その解明費用に約四千億円が投じられた。今回も、この再来になるのではと危惧する。

 勤労統計不正への疑問も解消していない。誰が何のために始めたのか、昨年一月からなぜ手法を変えたのか、組織的な関与や隠蔽(いんぺい)はないのかなど全体像はなんら解明されていない。

 厚生労働省が特別監察委員会を設置したが、当事者の官庁に設置してどこまで独立性が保てるのか疑問が残る。年金記録問題の際、総務省に年金行政を監視する第三者委員会が設置された。今回も公的統計を管理する総務省に設置するやり方もあるのではないか。解明には国会の役割も大きい。

 菅義偉官房長官は法令違反との認識を示している。そうなら政権には責任ある対応を求める。

 

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