42~Blind Spot~   作:フリーマスタード
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第8話:二つの薔薇

「す、すまない、アルベド。もしかすると止めた方が良かったかもしれない」

「大丈夫ですアインズ様、あなたは一人ではありません。私が付いております。どうかご安心なさってください」

「妄も付いているでありんす!」

 

 漆黒の薔薇と蒼の薔薇はトブの大森林南部に現れた幽霊船に訪れていたが、あまりにも予想外過ぎる展開に困惑していた。偵察に送った恐怖公の眷属達も消息不明になったが、アルベド達仲間を信じて思い切って飛び込むことにしたのだ。

 確かに不足の事態が起こる可能性が高い為、本来ならば同行するのを断って蒼の薔薇達だけで行かせて様子を見るのが最も安全だ。しかし、アインズは仲間を信じて未知に飛び込むことにした。仲間たちと一緒ならどんなことでも乗り越えられると信じたかった。

 

 しかし、現実は斜め上に裏切ってきた。

 

 ―――まさか、超本格的なお化け屋敷だとは予想していなかった。これは完全にレラさんだ。

 

 顔面を包帯を覆っている看護師が死体を乗せた車椅子を引いて徘徊していると思ったら、突然天井から死体が降ってきたりして、アインズは先ほどから甲高い叫び声を上げては沈静化を繰り返していた。しかも、あろうことか驚いた拍子に嫉妬マスクをポロリと落としてしまいアインズの素顔を見てしまった蒼の薔薇が悲鳴を上げたり混迷を極めていた。

 

「あー、ビックリした。なるほどな。どうりで。その強さにも納得がいったぜ。絶対人間じゃ無理だからな。まあ、うちのちびさんも吸血鬼だし気にすんなやアインズの旦那」

「ガガーランも異形種だから問題ない」

「そ、それにしても凄いメンバーね」

 

 蒼の薔薇は知ってしまった。漆黒の薔薇のメンバーが全て異形種だと。死の支配者(オーバーロード)・サキュバス・吸血鬼・人狼・ドッペルゲンガーで構成されていようとは。しかし、幽霊を見て絶叫する骸骨

の姿を見ている内に、蒼の薔薇達は何やら親しみが沸いてきていた。

 一体、アンデットは生者を憎むとは誰が広げた話なのだろうか?幽霊に怯えて仲間達に励まされている姿を見る限り、それはとんでもない偏見なのかもしれない気がしてきた。

 

「キャー――!?」

「お、お気を確かに!アインズ様!」

「今日のアインズ様はいつもと違うっす」

「ちょっとルプー!あなたは何アインズ様を驚かせているのよ!?」

「そんな!アインズ様が滑らない様に落ちてたコンニャクを拾おうとしただけっす!」

「うぇ、いくらなんでもそれに触るのは汚いでありんす・・・。大体、なぜコンニャクがこんな所に・・・」

「謎の多い船っす。怪しい匂いがプンプンするっす」

「あ、ありがとう、ルプスレギナ。ただ、急に私の目の前に飛び出すのは止めような!」

 

 人間だって良い人もいれば悪い人もいる。種族で一括りに決めつけてしまうのは浅はかだろう。それに彼女達は吸血鬼や人狼など違う種族同士だが非常に仲が良さそうだ。

 元蒼の薔薇のメンバーだったリグレットやイビルアイが友人の元を訪れにアーグランド評議国に出向くこともあるが、あの国もドラゴンや亜人種で構成された多種族国家だ。それにリグレットやイビルアイが普通に出入りしている事を考えれば、評議国には少数ながらも人間種も共存しているのだろう。人間国家の価値観が遅れているだけなのかもしれない。

 

「おや?あれはさっき落ちてたコンニャクと同じ物でありんしょうか?」

「一度では飽き足らず、二度にも渡りコンニャクでアインズ様を滑らせようと企むとはなんと不敬な―――」

「んなわけあるか!?だいたいやる事が小さすぎるだろ!?」

「チッチッ。ナーちゃんもイビルアイも甘いっすね。これはきっと行方不明のンフィーレアが目印に落としていった物っす。コンニャクを辿っていけば彼が見つかるハズっす」

 

 ラキュースとガガーランは頭の中でコンニャク丸ごと一つを目印に落としながら船内を探索するンフィーレアの姿を想像して『なんでそんなにコンニャクを持ってるの!?』と盛大にツッコミを入れた。流石にンフィーレア氏の好物がコンニャクだとしても無理があるだろう。

 しかし、確かンフィーレア氏は仕事に熱心過ぎて毎日同じ服を着ていたり食事にも無頓着だという事を思い出して『ひょっとしたら、あり得るかもしれない』と考えを修正する。

 

 ちなみにコンニャクとは芋から作られたスレイン法国の食べ物だ。他にも六大神により人類に伝えられた神聖な食べ物として『寿司』なる物が存在する。

 その魚の健康状態や鮮度と職人の切り方によって味が左右されるらしく、スレイン法国では資格を獲得した国家認定の職人のみが調理を許された超高級料理だ。生のまま扱う性質上、非常に高度な技術が必要であり王国では貴族でも食べたことが無い。

 

 それ以前に多くの貴族達は生で魚を食したり、生卵をご飯に掛けて食べるスレイン法国を『なんて野蛮な』と嘲笑っているので王国に普及する日は来ないだろうが。

 トブの大森林に存在する蜥蜴人(リザードマン)の集落を水産物の取引先として、あのスレイン法国が特別例外区域に指定している程の神聖な食べ物らしい。

 

「ルプー、そのメガネってユリ姉様のじゃないの?」

「フフン!ユリ姉のメガネを借りてきたっす。失踪事件はこの名探偵ルプーにお任せあれっす!」

「・・・後でユリ姉様に叱られるわよ」

 

 見た目はメイド。頭脳は駄目犬!可能を不可能にする驚異的な頭脳を人狼の優れた嗅覚と野生の直感で補いどんな難事件も力づくで解決(怪しい奴は全員逮捕)。

 

「さあ、ワトソン君。この目印(コンニャク)を辿って行くっすよ!」

「ワトソンじゃない!イビルアイだ!」

 

 ルプスレギナ達が楽しそうに騒いでいる一方でアインズは周りに聞こえないようにアルベドと伝言(メッセージ)を交わしていた。恐らく怪奇現象の原因はレラティビティだと目星が付いていたが蒼の薔薇に聞かれるとややこしくなるからだ。

 

『この幽霊の幻影は確実にレラティビティさんの魔法によるものだと思うが、なぜリアルの世界の貨物船がここにあるのか全くわからない。それに何の意図があって幻影魔法を使っているのだろうか?』

『アインズ様が住まわれていた世界の船なんですか!?・・・いえ、やはり止めましょう。これ以上、私が愛しているアインズ様に嘘をつくことは耐えられません。知っていました。そしてあなたが人間だということも』

『・・・え?』

『あなたが陰で支配者らしく振舞えるように練習していること。本当のあなたは(しもべ)たちが思うような完璧な支配者ではなく良いところもあれば悪いところもあり、そして、何よりも私たちを見捨てず身を削って支えていてくださった本当に優しい御方だということ』

 

 アルベドはアインズの手を握り真っすぐにアインズの方を見て告げる。突然の事に後方を歩いていた蒼の薔薇のメンバーやナーベラルとルプスレギナとシャルティアが何事かと様子を窺っているが、アルベドは気にせずに伝言(メッセージ)ではなく声で伝える。

 

「困った事があったらどうか私に頼ってください。疲れた時は私に支えさせてください。あなたの優しい人間の御心を守らせてください」

「・・・アルベド」

 

 シャルティア達が困惑している一方で蒼の薔薇は納得が行った様子だった。仮に真実を知った彼女たちの忠誠心が消えるならば僕のとして失格なだけの話であり、むしろ、だからこそ慈愛溢れるアインズ様をお守りする為に頭脳となり、剣となり、盾となり御役に立てるように喜んで忠誠捧げるべきなのだ。

 もしも、リアルの世界で身を削ってまでナザリックを支える為に奴隷並みの劣悪な環境で一生懸命働いていた鈴木悟という人間を否定するような僕がいるならその場で粛清するつもりだ。

 そして、真実の一部を知ったことで蒼の薔薇からの無用な警戒心による余計なトラブルも減らせる可能性が高くなる。不本意ではあるが現地の人間の理解者及びに友好関係を築くことが悪戯(いたずら)に敵を増やす事よりも無難だとアルベドは考えた。

 

 アルベドは人間の心を持ったアインズが人知れず苦心していたであろう問題にも気付いていた。現地の人間と友好関係を築くのにあたってナザリックにはいろいろ問題があり、現地で人間と交流できる者を考えると人材が足りない。まずは外界との交流関係を築きナザリックの維持費を稼がないといけないが、この件はパンドラズ・アクターとデミウルゴスの二人が検討中だ。

 

 しかし、アルベドには効率よく維持費を稼げるかもしれないアイデアが複数あった。それはデミウルゴス達に隠している情報があるからだ。

 以前、デミウルゴスに渡した書類の黒く塗りつぶしていた箇所。ユグドラシルはカラクリ仕掛け、技術力が高度に発達したリアルの世界の人間達の手によって創造された人工的な世界であり我々もその付属物にしか過ぎなかった事。

 

 いわゆる、ただの作られた玩具だったこと。ナザリックの1500人の侵攻も人間同士のただの遊びだった。

 それゆえに至高の御方々がなぜ去ってしまったのか察してしまった。信じていた物全てが偽りで幻影だった絶望感と虚無感に打ちのめされた。人間はどうしてこんなに残酷な事をするのだろう?世界や命を創り、飽きたら捨てる。

 それでもアルベドは悪夢の様な真実を受け入れた。鈴木悟だけはナザリックを本当に心の底から愛してくれていたからだ。

 

 今無邪気に遊んでいるシャルティアやルプスレギナ達がこの真実を知ってしまったらどうなるだろう?彼女たちは精神的に追い詰められて再起不能になるかもしれない。

 

「人間の心・・・。つまり、アインズ殿は元は人間だったという事でしょうか?」

「え、ああ。ちょっといろいろと事情があって意図せずにこうなってしまって、実のところ私も原因が良く分からないんです」

「心配ないアインズ殿。私も望んで吸血鬼になったわけではないから気持ちは理解できる。何か変化で悩んでいる事があったらいつでも相談して欲しい」

「安心しなアインズの旦那!俺たちゃあ誰も秘密は漏らさねえからよ」

「流石ガガーラン。男前」

「忍者は口が堅いから問題ない」

「うるせー!どっからどう見ても魅力の溢れる女性だろうが!」

 

 とりあえず、少しばかり博打だったが概ね予想通り蒼の薔薇は現地のアインズ様の理解者として味方に付くだろう。功績次第ではイビルアイをこの世界のオブザーバーとしてナザリックに迎え入れる事もアインズ様に進言してみても良いかもしれない。吸血鬼でありプレアデス並みの戦闘力があるなら合格ラインだろう。

 それに明らかに頭脳となる人材が不足しているナザリックにおいて事実上、ナザリックを含めて誰よりもこの世界に関する知識において右に出るものがいないイビルアイはナザリックに欲しい人材だ。

 アインズ様が普通の人間だと発覚したからにはアインズ様を守る為にこれまでの価値観や在り方を変えていかなければならない。私たちがアインズ様を含むナザリックを守り抜かなくてはいけないからだ。

 

 我々が異形種だと知っても拒否反応を示さず受け入れた蒼の薔薇は人間とナザリックの架け橋になってもらわなければいけない。こちら側も私とデミウルゴスやパンドラズアクターなら本心は変わらなくても必要なら人間と関わることも吝かではない。

 できれば、現地の事を良く理解していて頭脳に優れる人物がいたならば種族は問わずにナザリックに引き込みたい。全身全霊で仕える事ができるのは喜ばしいことだが、やはり3人だけでは不安がある。

 遅かれ早かれ、戦闘能力もしくは頭脳において優秀な人材ならナザリックの掟を変更して人間種でも積極的に採用していかなければ未知なる世界においてアインズ様を無事に守れるか、わからない。

 どの道、至高の41人なんて名前ばかりで、遊ぶ為に私たちを造って飽きたら捨てていったクズどもが作ったルールなど守る義理は無い。

 

 アインズ様に全身全霊で仕えるのは至高の御方だからでは無い。自らの身を犠牲にして私たちの『存在』が消滅するのを防ぐために必死に奴隷の様な待遇にも関わらず維持費を稼いでくれていたのだ。

 ただの玩具として私たちの忠誠心を弄んだクズどもと違ってアインズ様は私たちを愛するが故に己が苦しくても最後まで見捨てなかったのだ。

 

(念のために、こちらの世界に41人のクズどもが現れた場合に備えて妹のルベドを起動した方が良さそうね。人間の姿なら問題ないけど、万が一私たちが良く知ってる姿で現れた場合に備えて、たっち・みーやウルベルトでも倒せる妹の出番ね)

 

 妹のルベドこそ一番可哀そうだろう。造られてから一度も起動されずに捨てられ、初めて目覚めたら自分の親を殺さないといけないのだから。それにリアルの世界から来た船をこうやって探索している以上、可能性は大いにあり得る。

 ただ、一つ心配なのが高度に発達した技術は完全に未知であり油断が出来ない事だ。

 こんなに巨大な鉄の船をどうやって創り動かしているのか?船内にある照明器具にしたって動作原理が謎に包まれている。

 故にリアルの世界の人間が使う武器も我々が知らない完全な未知なる物の可能性が高い。

 

 そして、レラティビティ様が何を意図してこの船に誘っているのか?

 

『ブツッ、キィィーン・・・ルプ~。ルプスレギナ~』

「ひぅ!」

 

 突然、船内から魔法以外の何かを使ったレラティビティの声が響き渡り、トラウマが蘇ったルプスレギナは硬直する。

 

『君には用があるからこっちに来てもらおう。本来は貨物用で試験的に運用してた量子転送装置のプロトタイプだから少し痛いかもしれないけど』

「そ、そんな、体がバラバラに・・・助けてください!アインズ様!アインズ様ぁあ!」

 

 ルプスレギナにビームの様な物が照射されると指先から光の粒子となり消滅し始めて、アインズの元に走ろうとしながら完全にバラバラになって消滅する。

 

「ルプスレギナ!?一体彼女が何をしたって言うの!?」

 

 アルベドはルプスレギナが為す術もなく消滅したことに焦りと怒りを覚える。

 

『転移魔法をカラクリ仕掛けで再現した物だよ。粉ひき機や水車が複雑になった機械だと思ってもらえば良いし、彼女は気絶してるけど隣にいるから心配ご無用。どうよアインズさん、我が社が作った22世紀最先端のテクノロジーは?量子転送装置一台でこの原子力貨物船が3隻は買えるから凄い高いけどね』

「馬鹿な!相手を一方的に誘拐できる転移魔法など聞いたことがないぞ!」

 

 イビルアイは完全に未知の魔法によって自分と互角か少し上だと思われるルプスレギナがなんの抵抗も出来ずに誘拐されたことに恐怖を覚えていた。相手は完全に未知の相手。魔神よりも恐ろしい存在に出会ったしまったかも知れないがアインズ殿含めて難度200以上が3名いる事が心強かった。

 

『そこの赤頭巾さん、だから魔法じゃなくて機械だって言ってるでしょう。優れた科学技術は魔法と見分けがつかない、だったか。君たちの身体の構成を解析して情報の量子化及びにオリジナルの消去、その後に量子エンタングルメントっていう最小単位の素粒子に働く法則を利用してこちら側で物質を再構築する機械だ』

 

「・・・レラさん。・・・つまり、オリジナルのルプスレギナは消滅したんですね?」

 

『おいおい、止めてくれよアインズさん。基本的に情報が同一なら同じ物だよ。そんな事言い始めたら人間の身体だって日々古くなった組織が排出されて食べた食料を再構築して新しい組織を作ってるから、今の自分と10年前の自分どっちがオリジナルかって話になるだろう?生命というのは瞬間、瞬間で生きてもいるし死んでもいるんだよ。例えば刹那の時間を切り取った写真の中において、時が止まってる故に生きているけど同時に生命活動も行われていない。そこに生と死の境界線は無いだろう?』

 

「でも、ルプスレギナの魂は・・・。彼女達は一生懸命生きていて魂がある掛け替えの無い仲間なんです!それにいくら何でも度を越えていますよ!レラティビティさん!!」

 

『ナノマシンとか洒落てる物が存在してる2110年生まれなのにそんな御伽話を信じているのかい?いいかい?俺達はただの良くできたコンピューターと一緒。仕組みが複雑なだけで根本的には機械と一緒だぞ?ハードディ・・・じゃなくてストレージと一緒で消えたら無になるだけで魂なんて存在しないぞ?まあ、それよりも良い物が船内で見つかったから君にプレゼントがあるんだ。配送が遅れたおかげで残ってたユグドラシルの予備用のサーバーだ』

 

 この時、アルベドある事に気が付いて戦慄を覚えた。用心深く情報系魔法の対策を十分にしている筈のアインズ様が未知の方法によって監視されている事実を。しかもその対策を無視してルプスレギナが未知の転移魔法で誘拐された事。会話の内容からリアルの世界の技術に精通しているのはレラティビティ様の方だと思われる。

 リアルの世界の技術は魔法を無視できるらしいことがわかり、リアルの世界に対して警戒心を最大限に上げた。

 

「〈現断(リアリティ・スラッシュ)〉!こんなただのゲームなんて必要ありません!俺の掛け替えが無い大切な家族を、ルプスレギナを返してください!」

「アインズ様・・・」

 

 アインズは転送装置で送られてきたユグドラシルのゲームサーバーを船の通路ごと木っ端微塵に破壊した。

 

(ありえない、今度は第十位階魔法だと!?十三英雄のリーダーよりも強いぞ!?これはもしや、六大神や八欲王と同格の・・・難度300・・・なのか?)

 

『ほう。奇跡的に残ってた最後の一台だったかも知れなかったのに。一皮剥けたねアインズさん。あれほどゲーム依存していたのに。別に君達と敵対するつもりはないし、ルプスレギナはちゃんと返すから心配はいらないよ。ただ、返す代わりに二度とこの近辺に来ないで欲しい』

 

「わかりました。でも、これだけは知っておいてください。ルプスレギナをあなたが虐めたときに彼女はあなたが去ってしまった原因は自分が何か失敗をしたからではないかと物凄く気にしていて私の所に泣きながら謝りに来ました。彼女たちは私たちが造ってから長くても10年しか経ってない子供みたいな物なんです。そして自分たちの親に捨てられたのではないかという不安や寂しさと戦いながら、ただただ、認められようと、愛されようと一生懸命に生きているだけなんです。その気持ちをどうか踏み弄らないでください!」

 

『昔の友人みたいな事を言うね。ゲームはもちろん、元居た現実世界とも違うこの世界で君は()()を裏切らずに最後まで守れるのかい?その掛け替えが無い家族に真実を隠している時点で既に彼女たちの気持ちを弄んで裏切っているだろうに?俺達人間が壊してしまったあの世界がどんな歴史を歩んできたか知っているだろう?虚栄心と善意の区別も出来ずに平気で人を裏切り世界を食い尽くす化け物が人間だ。君だって姿は変わってもその呪われた種族の一員なんだぞ?』

 

 話を聞いていたラキュースはスレイン法国で言われている六大神と同類の存在に意を決して人類を代表して異議を唱える覚悟を決めた。アインズとレラティビティは神であり、生命を愛して見守っているアインズと人類に裁きを下そうとするレラティビティと対立関係にあると理解した。

 

「たしかに、私たち人類は欠点が多くて奴隷や腐敗した貴族達など問題はありますが、それでも、良い人たちだっているんです!日々良くなろうと努力をしているんです!」

「その通りだ。人というのは失敗を繰り返しながらも、少しずつ良くなっていっているんだ。私はそんな不完全だけども成長し続ける人類が好きだ。どうか、彼らをしばらく見守っていてもらえないか?頼む」

 

 ラキュースに続いてイビルアイも意を決して人類が成長して変わっていく可能性をレラティビティに訴える。しかし、イビルアイの言葉の何が面白かったのかレラティビティが笑い声が聞こえてきていた。

 

『そこの赤頭巾は吸血鬼なんだろう?長い時の中で今まで散々見てきたはずだ。吸血鬼とか亜人種は人類の敵だとか言い始めた次の瞬間には、考えや価値観が異なる者を社会の敵として人間同士で殺し合ったり、差別したり。良い例が君たちの国の貴族や王じゃないか。本人が努力したわけでも特別何かが得意なわけでもないのに生まれた家によって価値を勝手に決めて違いを作ろうとしている。自分たちと違う者を見つけて作り出していくことを永遠と繰り返してるだけだ。そこの何処に成長の余地がある?それならこっちの世界の歴史を全て見せてやろう』

 

鏡像世界(ミラー・ユニバース)

 

 瞬く間に世界がバラバラに砕け散っていき、空も大地も存在しない虚空の真ん中に全員放り出される。

 

「・・・ラキュース、ガガーラン。皆気を付けろ。あいつは六大神や八欲王と同じ難度300だ。どうやら神同士の戦いに巻き込まれたみたいだ。想像を超えた技が飛んでくるものだと思って覚悟を決めておけ・・・」

「大丈夫です。私たちが守ります。レラティビティさんは幻影魔法に特化してるので戦闘能力は低いですが、リアルの世界の道具を使ってくる可能性が高いので油断はしないでください。アルベドとシャルティア!彼女たちを守れ!ナーベラルは危ないから私の後ろに隠れろ!」

 

 蒼の薔薇やアルベド達はビックバンが起きてから宇宙が誕生し、塵が集まって太陽や地球が誕生し、地球が様々な変化をしながら生物が進化していく天地創造の様子を生まれて初めて見て絶句していた。

 最初の人間たちはよく知っている剣や弓を使った戦争を繰り広げていたが、次第に見たことが無い火を噴く黒い筒の様な武器が登場し、帆の無い鉄の船や空を飛ぶ機械が登場してからますます戦争は激しくなっていく。

 そして、地上に太陽が現れたような凄まじい閃光が走り巨大な炎が全てを焼き尽くしていく。

 

 最後の大きな戦争が終わると次第に見たことが無い超巨大な建造物が凄まじい勢いで増えていき自然がどんどん無くなっていく。人間の都市が肥大化していき自然はついに消滅してしまった。

 維持できなくなり廃墟となった都市では僅かに残った食料や資源を巡って自滅の道に突き進む争いを繰り広げていた。

 やがて先ほどの爆発とは比較にならない程の超巨大な閃光が走り、周囲の雲が吹き飛ばされて白い輪の様な物ができ、まるでこの世の終わりを告げるかの様に立ち昇る巨大な炎の柱が昼を夜に変えてしまっている。やがて衝撃波が襲い巨大建造物は砕け散り、鉄の車や人が木の葉の如く吹き飛ばされて更地になってしまった。

 

(ありえないわ!あの巨大な爆発は超位階魔法は愚かワールドアイテムすら遥かに超えているじゃないの!?あれが落ちてきたらナザリックでも全滅するわ・・・)

 

 アルベドはリアルの世界の人間を決して敵に回してはいけない化け物にまで警戒心を引き上げた。愚かゆえに力を持つと非常に恐ろしい怪物になると人間の評価を改めた。

 確かにあんなものを使って戦争をすれば世界が滅びるのも当然だと納得する。まさかリアルの世界がナザリックが一撃で崩壊する規模の攻撃が飛び交う魔境だったとは流石にアルベドでも想定外だった。

 

『さっきのはツァーリボンバーっていう20世紀に人間が造った最大の核爆弾で2000km離れた場所からでも爆発が目視でき、衝撃波が惑星を3周する程の破壊力だ。君たちが言う”神”をも殺せる破壊力を持った武器を人間は作り出したんだよ。実際に紛争地域で使用されて町は愚か周囲の山や地形ごと吹き飛んだからね、こっちの世界では』

 

 蒼の薔薇は神をも凌駕する空と大地を焼き尽くし全てを吹き飛ばす破壊力のある武器を人間が造った事が信じられなかった。あれが剣や弓と同じ人が造った武器だというのか?仮に王国にあの武器があったら貴族たちは迷わずにバハルス帝国の帝都アーウェンタールに対して使うだろう。

 そしてもしも仮に帝国が同じ武器を持っていたら報復で王国に撃ち返して来て、両国とも滅び去るだろう。これは戦争という次元を超えている。

 しかしながら、あの武器があれば竜王が大挙して襲ってこようが、あるいは八欲王や魔神が再臨しようとも人類を守れることも事実。

 

『確かに個人では本当の善人もいるさ。でもね、大きな集団になると化け物になるんだよ、人間というのは。君たちはそれを十分に知っているはずだ』

 

 レラティビティのスキルが解除され元の景色に戻るや否やアインズを含む全員が強制転送で外に締め出される。気が付くと転送のショックで蒼の薔薇やナーベラルは気絶していたがアルベドとシャルティアは大丈夫な様だった。辺りを見回すとルプスレギナも無事に戻ってきており、ンフィーレアと思わしき人物も確認できた。

 あの量子転送装置とやらは原理が全く異なる故に魔法で防ぐ手段が無い。使われ方次第では非常に危険な武器だ。恐らく貨物の積み下ろし用の物だから長距離の転送は無理だろうが、ナザリックの心臓部をも直接攻撃できる可能性がある危険な技術だ。

 下手にレラティビティさんと敵対するとリアルの世界の道具を駆使してゲリラ的な攻撃をされる可能性が高い。それにもしかすると貨物の積み荷に核兵器が積まれてる可能性もある。

 彼と敵対してナザリックが半壊もしくは壊滅し世界が核の炎に包まれることは避けたかった。

 先ほどの光景を見せた理由にはナザリックの階層守護者や現地の人間に対する武力誇示も含まれているのだろう。

 

「一旦、ナーベラルとルプスレギナはナザリックに帰して休ませよう。アルベドとシャルティアはもし良ければ、頼りない私に引き続き力を貸してもらえると嬉しい」

「そんな、例え元人間であろうともアインズ様は至高の御方でありんす。ただ命令してくだされば・・・」

 

 アインズはレラティビティ言われた事を思い出し、全ての事を打ち明ける決心をした。もしもそれで彼らに非難されようとも清く受け入れるつもりだった。

 

「実は今まで隠してきていた大事な話があるんだ。アルベド、玉座の間に全ての階層守護者や僕達を集めて欲しい。それと蒼の薔薇達を一時的にナザリックで保護するから念の為にペストーニャに治癒魔法を頼んでおいて欲しい」

「・・・ご安心ください、アインズ様。私は()()を知っておりました。ユグドラシルが人間の作った世界で全てが人間同士の遊びだったことも」

「そんな!じゃあペロロンチーノ様は・・・」

 

 狼狽えるシャルティアを見たアインズは本当に申し訳がない気持ちでいっぱいになり、シャルティアの前で土下座をして謝る。

 

「お、おやめ下さい・・・アインズ様。わ、妄は・・・。妄は最後まで見捨てずに残って下さったアインズ様の優しさには感謝の気持ちで一杯でありんす。だから、どうか頭を上げておくんなまし・・・」

「そうよシャルティア。アインズ様は人間の身でありながら”ぶらっく”と呼ばれる奴隷並みの待遇にも関わらず、自分の身を犠牲にしてでも私たちを守る為に働いていた優しい御方なのよ」

「違うのだアルベド・・・俺は、ほんの出来心で君の設定を弄って歪めてしまったんだ。それに家族も友人もいなくてユグドラシルだけが俺の楽しみだったんだ・・・どうか許して欲しい」

「正直に申しますと、全てを知った時にあなたの事も恨んでおりましたので設定は最早関係ありません。鈴木悟」

「ア、アルベド!?何を言っているでありんす!?」

 

 シャルティアは慌ててアインズを庇う様にしてアルベドと向かい合う。

 

「お願いだ、止めてくれシャルティア。君たちが戦うところを見たくない。全ては俺の責任だ」

「でもね、それでもあなたが本当に心の底から私たちを愛してくれている事を知って、全てを受け入れてあなたを愛することをもう一度()()()()()で選んだのよ、サトル。今度は嘘偽りのナザリックでは無くて、本物のナザリックを皆で作りましょう?ね?」

 

 




これから一話一万字で書いて行く為、更新頻度は2週間に一回ぐらいになります。

●量子転送装置
海外SFドラマやゲームに良く出てくる便利な物。
現代でも量子テレポーテーションとかあるしワープ航法よりは先に完成しそうな気がする。
いろいろと哲学的な問題を抱えた装置の為に実用化しても非生物のみの運用に限られている。

●ツァーリボンバ―
冷戦時代のソビエトが造った最大級の核爆弾。破壊力は広島型原爆の3300倍。試し撃ち用に威力を半分に抑えた物ですら衝撃波が地球を3周する、こんなチート兵器が現実に何発も存在しているんだから恐ろしい。
映画の中で無敵に描かれているエイリアンのシールド付きUFOでもこれをまともに食らえば唯では済まないだろう。
宇宙人でも腰を抜かして地球から逃げ出すレベルの破壊力。




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