俺も魔法科高校に入学する 作:フリーザ様
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翌日。校庭には論文コンペに使われる魔法装置の試作機と計測器と工作機械が所狭しに並べられていた。
「うおお……すげぇ……何これ、戦場の絆?」
「一番、私と一緒にいたのに何だかわからないのですか?」
鈴音が呆れ声で言った。
「まぁ、言っても分からないでしょうし、説明はしませんが」
「ねぇ、最近俺に対する言葉の暴力酷くない?ねぇ酷くない?」
「気のせいですよ」
ほとんどシカト状態で作業する鈴音。達也、五十里、他のロボット研究会とかの技術系クラブ、美術系クラブ、飲み物・お菓子の差し入れ隊などが真面目に働いていたので、大輝も大人しくゲームをすることにした。
「あっ、いたいた。おーい、達也くーん」
エリカが大声で手を振った。その隣のレオは身体ごと明後日の方向を向き、幹比古は後方二メートルでそっぽを向く。完全に他人のフリである。
「エリカちゃん、邪魔しちゃダメだよ……」
美月が遠慮気味に言うも、効果はない。エリカは悠然と達也の方へ歩み寄る。そのエリカに大輝がバズーカをぶっ放した。
「きゃあぁあっ⁉︎」
慌てて避けるエリカ。
「何すんのよ!」
「いや、スパイだと思ってね」
「一応顔見知りでしょうが!」
「空気も読まずに悠々と歩いてたからなぁ」
「ゲームやってたあんたに言われたかないわよ!」
なんてやってると、大輝の頭を鈴音が叩いた。
「真田くん。ここで暴れないでください。機器が壊れます」
「すいませんね」
謝りながらも一ミリも頭を下げない大輝。鈴音もそんなことで一々腹を立てなかった。
「それよりほら、始まりますよ。実験第一段階」
「あん?」
その台詞で鈴音は達也がモニターしている据え置き型の大型CADへ。サイオンを注ぎ込んだ。そして、魔法式が発動される。高圧の水素ガスがプラズマ化し、分離した電子が発光ガラスに衝突して光を放つ。
「やった!」
「第一段階クリアだ!」
と、声が上がった。大輝の頭の上には「?」が浮かぶが、それは一瞬だった。お下げ髪の女子生徒が無線式のパスワードブレーカーを弄っているのが見えた。
「……すいません、鈴音さん。少し離れます」
「? どうかしたのですか?」
「俺は常にどうかしてます」
「自覚があるのはいいことですが、今聞きたいのはそういうことじゃなくて……」
最後まで聞かずに大輝は走った。それに気付いた女子生徒も逃げ出した。だが、
「えいっ」
気の抜けた掛け声とともに大輝のバズーカから砲弾が放たれ、爆発した。
「………ですから、そういうのの使用は避けて下さいと」
「すんません」
鈴音に怒られても、乾いた謝罪だけして大輝は歩いてその爆発した方へ向かった。すると、違和感を感じた。
「………外したか」
そのまましばらく当たりを見回すと、走って逃げる女子生徒を見かけた。大輝はバズーカをその辺に捨てると、その後を追った。
そのまま追いかけること数分、大輝が木刀を投げ付け、その女子生徒の真横を通らせた。それに驚き、足を止める女子生徒。
「追いかけっこはやめようぜ」
敵意も殺気も出さずに大輝は言った。この程度なら、半分寝てても倒せる。
「あなたは、風紀委員の鬼、真田大輝ですよね」
「あ?何その通り名。まぁ、確かに一年E組の真田くんですけど?」
「私は、平河千秋です」
「まぁ名前はどうでもいい。今、投降すれば怪我せずに済むけど、どうする?」
いつの間にか、大輝の後ろには花音、エリカが追いかけてきていた。
「お前。その手に持ってるの、無線式のパスワードブレーカーだよな?あの現場でそれ持ってるって時点で言い逃れ出来ないと思うぞ」
「あなたには、関係ない」
投降無し、そう判断したエリカが一歩、千秋に歩み寄った時だ。千秋が小さなカプセルを投げた。閃光弾だ、そう判断した大輝は懐からアイマスクを二枚取り出し、エリカと花音の目に付けた。
「!」
流石に、目の前がカッ!と光って大輝はサングラスの一枚も無しに耐えられるほど人間離れしていない。大輝が怯んだ隙を突いて、千秋は袖口から、ばね仕掛けのダーツを発射した。それを大輝は手刀で破壊した。だが、中から薄い紫色のガスが溢れ出る。
「!」
「神経ガス……‼︎」
アイマスクを外したエリカの呟きを聞くと、大輝は花音とエリカを後ろに蹴り飛ばし、ガスを吸い込んだ。
「ちょっと、真田くん⁉︎」
花音が声を漏らす。
「私達を庇った……?」
エリカが呟いた時だ。完全に気配を消していたレオが、千秋に突進した。そのまま気絶させ、寝かせておいた。
「真田くん!しっかりして!」
「大輝!」
倒れた大輝に二人が声をかけた。だが、ガスを吸い込んだ大輝から返事はなかった。
○
病院。
「お前でも入院するんだな」
「皮肉ですかバカ辺先輩」
達也のお見舞いに、摩利、花音、五十里、鈴音が来ていた。
「ゴメンなさい、真田くん。私達を庇ったばかりに……」
「閃光弾とガスの二つから守ってくれたんだってね……僕からもお礼を言わせてもらうよ。真田くん」
花音と五十里が頭をさげる。
「いや、そんなん別にいいんで。甘い物さえ奢ってくれればそれでいいんで」
「分かったよ。今度買ってくる」
五十里が苦笑いしながら言った。
「で、何を吸ったんだお前は?」
摩利が真剣な目で聞いた。
「神経ガスです」
「致死性の猛毒じゃないか!なんで生きてる?」
「ガッツリ吸ったわけじゃないし、無事じゃないっすよ。神経やられて三日は動けませんから」
「いや、すでに視神系とかは回復してるじゃないか……」
「まぁ、それくらいはないとやっていけませんから……」
そう言う大輝の目は、本気で言っている目だった。
「ま、まぁとにかく無事で何よりだ。市原の護衛役は君が復帰するまでは服部が変わってくれるそうだから、そこらへんも心配はするな」
「そうですか……分かりました。あっ、一応聞きますけど、あの……名前なんだっけ、ひ……平塚?はどうなったんですか?」
大輝が聞いたのは千秋のことだ。自分が追った相手だから気になったのだろう。
「心配ありませんよ。西城くんが捉えて、今はこの病院に入院しています」
説明したのは鈴音だった。
「ここに?」
「はい。では、お大事に」
と、鈴音の一言で四人は出て行こうとする。すると、一人のナースが入って来た。
「真田さん、ご飯の時間ですよ」
「あ、どうも」
で、ナースさんは大輝のベッドの上に机をガタッと出すと、その上にご飯を置いた。そして、大輝を起き上がらせる。その様子に「?」が浮かぶ摩利、花音、五十里、鈴音。
「じゃ、お口開いて下さい」
「うい」
あーっと、大輝が口を開けるとその中にナースさんがハンバーグを入れた。瞬間、赤面する四人。
「なっなな何をやってるんだ⁉︎」
「真田さんは神経がしばらく動きませんから、食べさせてあげないといけないんです」
ナースさんは真顔で答える。
「いいなぁ……」
「啓?ちょっとお話しよっか?」
五十里が声を漏らした瞬間、花音は五十里を引きずって病室を出た。
「し、しかしだな!高校生にそういうのは……そ、そうだ!大輝は恥ずかしくないのか⁉︎」
「お腹空いてるのを我慢してまで羞恥心なんて守る必要ないでしょう」
「い、市原!お前はなんとか言ったらどうなんだ⁉︎」
だが、鈴音は頭から湯気を出したまま動かなかった。
「さっ、もう面会時間はおしまいですよ」
ナースさんに言われて、摩利と鈴音は渋々出て行った。