俺も魔法科高校に入学する 作:フリーザ様
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護衛
新生徒会が発足して一週間が過ぎた。今は昼休み。達也たちから一緒にお昼を誘われたのを断った大輝は食堂にきていた。と、いうのも大量の料理を摩利に奢ってもらう代わりに、摩利と鈴音のお願いを聞くことになっていたからだ。
「あむっ……で?ガツガツ……話って、いうのは?」
「食ってから話せ。責めて口の中の物なくなってから」
で、ムシャムシャガツガツバリボリチュルルンゴクッゴクッゴクッ……ぷはぁーっと飲み物で一息ついてから聞いた。
「で、何でしたっけ?」
「今度、論文コンペがあるのは知ってるな?」
「いや、知らないです」
「あ、そう……まぁあるんだけど。そのメンバーが今、市原、五十里、あと一人は棄権されちまってまだ決まってないんだが……まぁ一人いるわけだ。その護衛を頼みたいんだ」
「はぁ……護衛ねぇ……何、命狙われたりすんすか?」
「流石に命までとは言わないが、置き引きや引ったくりだな。四年前には会場へ向かう途中のプレゼンターが襲われて怪我したという例もあるらしい。だから、頼む」
「別に構やしませんけどね、なんで俺なんすか?」
「市原からの要望だ」
「は?そなの?」
大輝が聞くと、鈴音は若干顔を赤らめながらも頷いた。
「ふーん……わーりましたよ。でもそれってどれくらいの期間なんすか?四六時中一緒とか無理ですよ」
「分かっているさ。だから、服部と交代交代だ。基本的には放課後と論文コンペ会場へ移動までの間だな。いつ、どっちがやるとかは服部と話し合って決めろ。いいな?」
「了解です。………あ、でも一つだけいいですか?」
「なんだ?」
「渡辺先輩ってもう引退したんですよね風紀委員」
「ん?ああ。そうだが?」
「だったらさ、そういうの俺に命令すんのって花音さんの役目じゃね?」
「や、それはそうなんだが……」
摩利は目を逸らした。
「その……あいつは、ほら、不安で……」
「過保護なんですよ」
鈴音が付け加えた。
「親かあんたは……」
大輝は言いながらも、残りの料理を片付けた。
○
放課後。服部と大輝は早速、これからの予定を確認することになったのだが、
「………………」
「………………」
気まずかった。元々、一科生と二科生。学年も違う。ただ、お互い、九校戦のこともあって強さは認めている。といった関係。ぶっちゃければ赤の他人だ。
「あ、あの……」
「な、なんだ?」
「と、とにかく……あれ、さっさと終わらせちゃいましょうか」
「そ、そうだな」
と、かなりどもりながら始まった。
「なんか、その……忙しい日とかあれば、その日は俺がやるんで……」
「そうか?なら頼む……」
と、かなりしどろもどろな会話だったが、なんとか決まった。大輝はテキトーに頷きながら「俺って実は多忙な奴なんじゃないか……?」と思った。
○
「えっ?達也、論文コンペの代表に選ばれたんだ?」
いつもの面子で、どっかの店に寄り道した時、幹比古に達也が言われた。
「でも、論文コンペの代表って、全校で三人だけなんじゃないんですか?」
「まあね」
美月の台詞をあっさり肯定する達也。
「まあねって……達也くん、感動薄すぎ」
「違うぞエリカ。本当はすごく舞い上がってるんだよ。だけどここでばポーカーフェースを気取ってるんだよ」
「あっ、なるほど」
「なるほどじゃないぞエリカ」
エリカの呟きに大輝が言うと、達也がツッコんだ。
「でもすごいね。一年生が論文コンペに出場するなんてほとんどなかったんだよ」
「皆無でもないんだろ?職員室だって、新しい魔法を書き足すようなてんさいを無視できるはずねえって」
雫の感心にレオが言った。すると、達也が言った。
「天才はやめろ」
「天才クリムくん」
「おい、やめてやれ」
大輝の茶々に達也は思わず同情した。
「でも、達也に護衛はいらないよなそうなると」
「護衛?何の話ですか?」
ほのかが呟いた。
「いや、論文コンペに出るやつは護衛が付くんだ。なんか色々と物騒らしいから。その事で俺も昼休みに頼まれてなぁ……放課後は気まずい時間だった……」
「放課後?」
「服部先輩と鈴音さんの護衛に付くんだけど、いつ、とっちが付くかってことで話し合ったんだけどさ。あの人と俺、絡みないし、気まずかったんだよ」
「それは同情するよ大輝……」
達也は最初に服部と模擬戦したときのことを思い出していた。
「でも、それなら確かに達也に護衛はいらねぇな」
レオが面白がってる感じで言った。
「でもなんか、大変だな。達也も大輝も」
「達也ほどじゃねーよ。俺は襲ってくる奴のケツにひたすら木刀刺してりゃいいだけだし」
「すげぇ間違ってるからなそれ」
レオがツッコんだ。
○
翌々日くらい。大輝は早速、護衛として、作業している鈴音の近くで張り込んでいる。
「しかし、よくこんなにやれますね……なに書いてあるんだからサッパリですよ」
「でしょうね。真田くんですし」
「おい、それどういう意味ですか」
だが、集中してるのか、鈴音からの返事はない。暇だった。誰も責めて来ないし、する事もない。
「………ゲームしてよ」
大輝はモンハンを始めた。
○
翌日。昼休み。服部は会頭としての仕事もあるので、仕方ないとは思うが、また大輝が護衛の日。だが、今日は空気が違った。昨日、達也が監視されていたという話が出た。
「………ふーん。うちの学校の生徒が、ねぇ」
モンハンやりながら相槌をする大輝。
「オメー真面目に聞いてる?」
「あー聞いてる聞いてるー」
達也に聞かれるも生返事。
「それは本当に本校の生徒だったのですか」
鈴音がチェック作業を終わらせて聞いた。
「いえ。多分としか言えません」
「制服も手に入れようと思えば入手出来ないものでもありませんから」
達也と五十里が作業しながら返した。
「……五十里くんも千代田さんも生徒名簿を閲覧できるはずですが」
「顔を見たのは花音だけですし、横顔をチラッと見ただけですから。モンタージュ作成までは。一口に女子生徒と言っても三百人以上いますので」
「それに、昨日はこちらが追いかけたから逃げただけ、とも言えますからね。誰だか分かってもできるのはせいぜい監視を付けることくらいで、それだって問題なしとはしませんから」
「網はってりゃ案外簡単に掛かる気もするけどな」
「その網も、向こうの目的がわからないと張りようがないだろ」
大輝が言うも、達也が切った。
「いや、案外掛かるもんだぜ。見え見えの落とし穴に掛かるんだからこいつら……ほら、落ちた」
大輝はレウスを捕獲してその画面を見せたが、全員に無視された。
○
達也が教室に戻ると、達也の席にエリカが座っていた。あ、大輝は最近、お腹の調子が悪いとかでトイレ。
「あっ、今日は早かったね。大輝は?」
「トイレ。何の話をしていたんだ?」
それを聞いたのは、美月が不安げな表情をしていたからだ。
「視線を感じるんだってさ」
返事をしたのはエリカだった。
「視線?」
「今朝からなんだか、嫌な視線を感じるんです。物陰からこっそりと隙を窺っているような、気味の悪い視線で……」
「ストーカーの類いか?」
「私を狙っているんじゃなくて、もっとこう、大きな網を構えているような感じが……」
「網、ね……」
頭の中にリオレウスが出てきたので急いで打ち消した。
「狙いは一人の生徒ではなく、複数の生徒または教師、当校の何かということか」
「え、ええ……わたしの勘違いかもしれないんですけど」
「いや、柴田さんの勘違いじゃないと思うよ」
幹比古が口を挟んだ。
「今朝からずっと、校内で精霊が不自然に騒いでる。多分誰かが式を打ってるんだとおもう」
「式って、式神とかってスピリチュアル・ビーイングのことか?」
レオの質問に頷いた。
「僕たちが使う術式とはタイプが違うみたいで、上手く捕まえられないんだけど……何処かの術者が探りを入れてきてるのは間違いない」
「幹比古、今自分達とは違う術式と言ったよな?」
達也が聞いた。
「うん、そうだけど」
「それは、この国の古式魔法とは違う、という意味か?」
「うん。我が国の術式ではない、と思う」
「なるほど……」
と、達也が呟くと、まるで身内を責めるようにエリカが、
「やりたい放題ね。警察は何してるのかしら」
と、呟いた。その言葉に達也と幹比古が「?」と反応した。