ただそれだけの話   作:Rさくら
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声のデカい人の酒が不味くなるだけの話

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢見が悪かった。懐かしくも苦々しい過去が、ゆめゆめ忘れるなと警告するかの様に色鮮やかに再生される夢だった。今はもうこの世に無い笑顔と毒のような赤、それらを忘れるわけがないというのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 汗で濡れた寝間着が肌に張り付き、起きたというのに未だ夢の中の様な不快さだ。

暗闇の中で何度か瞬きをし、手を動かし、現実を確認する。あまりに夢が鮮やかで、あまりに今が真っ暗で、何が夢で何が現実か寝呆けた頭では判断するのが難しい。

「…」

だいぶ目が覚め意識もしっかりして、そして、まだ起きるような時間では無いと気が付いたが時既に遅し。再度眠りにつくには難しい程に、すっかり坂本辰馬は覚醒してしまっていた。

「…目が冴えてしもうたなぁ」

独りごちてのっそり立ち上がり、自室の戸棚に隠していた日本酒を坂本は取り出す。バレたら船員達に責められ奪われ即座に飲み干されるであろうそれは、眠る為に飲むには勿体無い程にいい酒だ。しかし他に手段はない。部屋を出て食料庫で酒を漁っているのを優秀な副官に見つかり怒られるのも、年の功で色々と聡いおばばに心の内を見透かされるのも、今は勘弁願いたい気分だった。

酒と一緒にしまっていたガラスコップに雑に手酌で注ぎ、坂本は一気に煽る。

「……不味いのう」

一人闇の中で飲む酒はあの頃に飲んでいた物とは雲泥の差がある上物のはずなのに、美味いと全く思えなかった。味は当然良いのだが、美味くはない。酔って眠くなる為だけに、坂本はぐびぐびと自棄酒のように飲み干した。

ふと丸く厚い外界を遮断するガラスの外を見る。かつて彼が仰ぎ見て遠くに感じていたはずの宇宙が、当たり前の面をして広がっていた。

 

 

 

 そうだ、すまいるに行こう。某惑星で行っていた商談に一区切りつけてうんと背伸びをした所で、どこかで聞いた覚えのあるキャッチコピーのような考えが坂本の頭に浮かんだ。

 

『ちょっと地球に行ってくるぜよ』

 

優秀な副官が優秀な部下達と話し込んでいる僅かな隙に書置きを一つ残し、その星から地球に向けて出航する船に坂本は飛び乗った。後先のことなど、当然彼は何も考えていない。

モジャモジャだの空っぽだの言われるその頭の中には、美味しく酒を呑むという目的だけがただあった。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな無計画故に地球のかぶき町に坂本が到着したのは夕刻、夜の店はまだ身支く途中の時間帯だった。夜には輝くかぶき町の文字がネオンではなく夕日に照らされているせいか、どこか哀愁を醸し出している。少しの間それを眺めた坂本は、目的を達成するまでに地味に時間を潰さねばならないので宛もなくカラコロと下駄を鳴らしながら歩きだした。

そうして、思いがけない再会を果たした。

「ヅラ!?その鬱陶しいロン毛…、おんしヅラじゃなかか!?こいつは奇遇じゃのう!」

「ヅラじゃない桂だ!って、その酷く爆発したモジャモジャ頭…、坂本か!?」

サングラスを少しずらして桂を指差しながら叫ぶ坂本に、指された相手も負けじと叫び返し指を指した。片方は指名手配犯とは思えぬ騒々しい二人のやり取りに、周りの冷めた視線が刺さる。しかし、そんなことを気にするような二人ではなかった。

「おお、地球に帰っていたのか、坂本。それとも商談か?」

「今さっきターミナルに到着したばかりじゃ。商談じゃのうてプライベートでな!美味い酒を呑みたくなってのう」

あっはっはと笑う坂本に相変わらずだなと桂も笑う。

「どうせ、いつもの店がまだ開いていなくて困っていたんだろう。俺の行きつけが近くにある。どうだ久々に一緒に飯でも」

桂の申し出に暇を持て余していた坂本は喜んで食いついた。

「酒も旨い店だともっと最高やき」

「安心しろ。そこの店主はいい目利きだ。いい酒しか仕入れん」

そうして桂が案内した店はしかし、暖簾を出しておらず『準備中』の看板まで戸に立て掛けてあった。かぶき町にある薄汚れたビルの一階にある小さなその店は飲み屋のようで、店先の黒板に乱暴に書かれた文字によると開店時間はまだ一時間以上は先である。それなのに桂は、平然と扉を開けずけずけと中に入っていった。

「おいおい!まだ暖簾は出してないだろ!!って、なんだ桂さんか!らっしゃい!」

強面の男の怒りに満ちた濁声は、桂を見るやいなやころっと愛想の良い接客の為の声に変わった。

「いつもの蕎麦でいいですか?お連れさんは?」

「ああ、頼む。坂本、お前はどうする?腹は減ってるのか?」

「ん、あぁ、じゃあせっかくやき何か頼むぜよ。メニューはあるがか?」

「あぁ、ただの居酒屋と侮るなよ。ここの店主の料理の腕はなかなかだ」

店の奥側へと桂は向かい、定位置らしき場所に慣れた様子で腰掛けた。その席は出入り口は桂から視認できるが、観葉植物や衝立などが邪魔をして、奥に座る桂のことは逆に見辛い。そして、裏口に近い席だった。

「前々から思ってたけんど…、おんしらはわしのことを人を誑かす性悪男みたいに言うが、おまんらも人のことを言えんぜよ」

観葉植物も衝立もよく見れば他の内装と比べれば新品だと分かる。全て桂のために用意されたのだろう。

「宇宙規模で性悪な商売をしているくせに、よく言う」

笑いながら桂が差し出したメニューを坂本は受け取った。

「相変わらず逃げ回っとるんか。幕府のお膝元で鬼ごっことはおんしも酔狂じゃの。京で隠れんぼしてる奴の方がまだマトモじゃ」

「隠れんぼも鬼ごっこも大して変わるまいよ。相手がアレならどちらにせよ捕まる気がせぬわ」

桂が視線を遣った先に坂本も目を向ける。その先のテレビ画面では、最新型で販売前から話題になっていたゲーム機の危険性と、その危険性が発覚した某ゲーム店でのゲームバトルについて言及する番組が放送されていた。

「それにどうやらあいつも隠れんぼには飽きたらしい。あまりに見つけてくれぬから、自分から出てきたようだ」

その言葉に、メニューから目を離し坂本は桂のことを見た。

「今度の狙いはおそらく真選組。あれが半端な生温い攻めをするはずもない。おそらく潰すつもりだろう」

「……金時は、相変わらずながか」

「あぁ。相変わらず大馬鹿だ」

「そうか、」

あの宇宙一馬鹿な侍は、相変わらずなのか。足が千切れようが腕が千切れようが、どんな無茶をしてでも、見知った人間を決して見捨てられない不器用な男は。まさに、大馬鹿者である銀時は。自分が宇宙に行ってる間も変わらぬままであるのは、坂本にとって嬉しくもあり、心配でもあった。生きるのに、あの性分は苦しい道を選択しすぎる。

「…いい酒があるのう、この店」

悩んだ坂本が指先でどちらを頼むか神頼みに任せ始める。しかしその時店主が蕎麦を持ってきて、結局酒は坂本にも神にも選ばれること無く、店主のお勧めの一本が用意されることになった。

「お前も、昔の夢でもみたか」

桂から、指摘される気は薄っすらとしていて、やはりかと坂本は苦笑する。

「おんしは昔から気持ち悪いほど聡いのう」

「気持ち悪いとは失礼なやつだな。だいたい、お前も銀時も分かりやすいんだ。顔に出るうえに酒に逃げようとする」

昔と銀時のことを思い出し、反論できないまま坂本は桂から目を逸らす。言われてみれば、二人して何かあれば酒に逃げて翌日の二日酔いで桂に説教されていた。それを思い出せば坂本はもう何も言えない。

桂は何を思い出したのか、憂いを含んだ苦々しい顔をしている。何を考えているのか、分かってしまうのはお互い様か。

「…のう、ヅラ、美味い酒が呑みたくないか?」

桂の憂いに対して、希望に溢れた言葉も慰めの言葉も坂本は掛けたくはなかった。目前のこの男も、あの馬鹿も、覚悟をしているはずだからだ。いずれ訪れるかもしれない再会が、喜べるものでなはいかもしれないことを。

それでも、勝手に期待するのも望むのも自由だろう。別れて、変わって変わって、歩み続け再会した時に、結局元通りになるかもしれない。そんな未来もきっと、全くの夢物語ではないのだから。

だから坂本は笑って、己の願望だけをただ伝えた。

「昔呑んだ、美味い酒が」

あの時飲んでいたのは安酒だった。稀にあった大当たりの最後の一滴を、醜く奪い合うことだってあった。それでも、美味かった。鉄錆と塩辛さと笑顔と、色んなものが綯い交ぜになって、不味いはずなのに美味かったのだ。仲間達と共に飲む酒は。

「…あの頃に味わったものをまた味わえる日がくればいいと、俺は思っているぞ、坂本」

店主が、お勧めの酒とお通しを用意してくれた。徳利とぐい呑だけでなく、酔鯨と書かれた日本酒の瓶もどかんと置いてくれた店主に、坂本は笑ってしまう。成る程、ヅラが気に入るのも頷ける程に素晴らしい店主だと、納得する。

徳利を桂が持ち、坂本の差し出したぐい呑に並々と注ぐ。

「しかし今は、俺だけで勘弁してくれ」

「あっはっは!充分じゃ!」

大きく笑って、坂本は一気に酒を飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひとしきり飲み食いして、日もすっかり傾き外もざわつき始めた。店主ももう間もなくの開店に鉢巻を締め直している。

「すまんが俺はそろそろ行くぞ」

「なんじゃー、つまらんのー!すまいるに行かんがか!?」

「集会があるのでな、また今度奢ってもらおうか 」

「なんでわしが奢る前提なんじゃ!?」

「庶民に奢るのは社長の運命だろう。自慢じゃないが、俺の懐事情は厳しいぞ。じゃあな、坂本」

そう言い残し、店の裏から桂は出ていった。時計を見れば、既にすまいるの開店時間を過ぎていた。調度良い頃合いだ。

「あっ、そう言えば、ここのお代って…」

「へい!桂さんの今までのツケの分含めて請求しますぜ!」

「あんのヅラァ…」

なんて油断ならない庶民だ、坂本が財布を開きながら桂への恨みを呟く。その時、上機嫌の店主が暖簾を上げたばかりの扉から、にこにこ顔の男が入って来た。店主の声も無視してスーツ姿の男は真っ直ぐ坂本へと近付き、先程まで桂が座っていた所に着席した。

「あぁ、なんじゃ!?わしゃ今ちくっと機嫌が悪いぜよ!」

「おやおや、商談相手が不機嫌とは。バッドタイミングでしたか」

商談、その言葉に坂本が反応すると、相手はにやぁと嫌な笑顔を見せてきた。営業スマイルとしては失格なそれを相手商社の誰も指摘しないだろうか、そんなことを考える坂本は少しばかり酔っていた。

「実は私も一応商人でして…。あっ、地球人の見目に似ておりますが私、天人なんです。地球には初めて品の買い付けに来たのですが、何か失礼があれば申し付けてくださいませ」

にこにこ笑う男は、坂本に話の続きを促され商談の中心である求める商品についてにこにこと話し始めた。

「地球人の死体を、探しております。標本用に欲しいのです」

すっと、机に小さなメモ紙が置かれる。訝しみながらも、地図を広げ、坂本は眉間の皺を深くした。

「なんじゃ、この地図。わしはこの辺一帯に詳しいわけじゃないから分からんぞ」

簡略されすぎた地図は、元々土地勘がある者でもやっと読み解けるかどうかと言っても過言ではないだろう。

「坂田銀時殿なら分かるのでは?ここに死体を運んでいただけたら、一つにつき、」

「気持ち悪いのう、おんし。調べたのか」

坂本の冷ややかな目にもにこにこと彼は応える。笑顔は全くもって崩れそうにない。

「貴方様を調べたわけではありません。この辺は物騒で、品を提供してくれる方が多そうだなと踏んで色々調べていたのですよ。主に溝鼠組の方々などをね。その時にかぶき町四天王と呼ばれる方も調べていて、貴方様の情報は、ついでのついでといいますか。失礼な言い方ですがね。今も偶然会えたのだからダメ元で商談を、という程度ですよ」

ダメ元で死体を強請る奴があるか、内心坂本は毒づく。一気に酒が抜け、不愉快であった。

「死体を工面するあてなど無いぜよ」

そんな坂本の様子に、これは駄目だと判断したのか男は急に真顔に戻りメモ紙だけ残し席を立つ。商談終了です、機械のような独り言を残しスタスタ去っていくその背に、坂本はこれだけは言っておかねばと声を掛けた。

「げに、坂田銀時とゆう男は万事屋営きるばあのただの一般人ぜよ。死体らぁて、ヤクザもんと違って用意なんかこたわん」

坂本の言葉に相手は本当に心底驚いたような顔をした。まるで、水のつもりで口にしたのが酒だったかのように。

「おや、それはそれは」

そして商人はにやあと笑う。滑稽だと言わんばかりの歪んだ笑みで、指摘する。それは真かと、痛い所をとんと突く。

「それはそれは面白い。屍の山を築いた鬼が、人里に出てきただけで一般人面ですか。本当に、面白いですね」

ガタンと立ち上がった坂本が振り向けば、そこには既に閉まった戸しかない。扉が開き入ってきた客がきょとんとした表情で坂本を見る。そこで漸く坂本は再び腰を下ろした。

酒はとうに、不味い酒になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光り輝くすまいるにて、坂本は笑っていた。美女に美酒に美食に、豪勢に振る舞われ、キャバ嬢達もだいぶ興奮している。酔いもまわり、かわいこちゃんに囲まれ、気持ちよく嫌なことも忘れてきた時だった。

坂本の耳に、可愛らしいキャバ嬢の猫なで声ではなく、冷静な低い声が滑り込んできたのは。

すまいるの出入り口に立ち客引きをしている男が、坂本の腕を引っ張りその身を支える。まだまだ搾り取りたいキャバ嬢達と男が会話している間も、酔っ払いの坂本はされるがままだった。

「坂本様にお会いしたい方が外でお待ちです」

「あー?誰じゃー。わしゃあまだまだ飲むぜよ!!」

「お財布はまだ空じゃないもんねー、坂本さん♡」

「とりあえず、外へ。お待ちですので」

「やき誰が来たちやー」

「それは、」

「ねー、待ってる間にドンペリ飲んでていいー?」

「おーいいぞいいぞ!あっはっはっはっは」

歓声がまた上がり、どっとまた一段と場が賑わう。

「…坂本様、こちらです」

酔ってまともに歩けなくなっている身体を半ば強制的に運ばれ、外へと坂本は連れ出された。そうして案内はここまでと言わんばかりに支えを止めた男がいなくなると地面に座り込み、坂本はやっと呆れ顔でこちらを見ているその銀髪の男に気が付いた。

「おーう!金時じゃなかか!!どーしたぁ、中入って一緒に飲むぜよ!!」

表情のよく見えない、酒を飲めと言ってるのに黙り込む銀時を坂本は珍しく思う。座り込んだ坂本の前に銀時がやっとしゃがみこみ、口を開く。

「コレの中にさぁ、ゴミが入ってんだよね」

また、酒が不味くなった。一気に冷める温度に、坂本は苦々しく思う。銀時の持って来たキャリーケースに入っているゴミがどんなゴミかなど、その目を見れば嫌という程に分かった。

「金時ぃ~!酒がまずくなるぜよ!」

「銀な。昔もグロの後に酒と女を楽しんでたりしてたじゃん」

「今は状況が違うぜよ!!」

口から生まれたはずの銀時も、この反論には流石に黙った。坂本が自身が座り込む地面の隣を叩くと、促されるままに銀時は座りこむ。自分が悪いと分かっている時は、なんだかんだ言いつつも大人しくなる男だ。少しは反省しているらしい。キャリーケースも隣に寄せたところで、さすがにチラチラと何人かが見ていくのに気が付く。しかし、通報する気は誰も彼も一切無い様なので坂本は放っておくことにした。

「おんしは今は一般市民じゃなかったか?」

「事故だよ、事故。銀さんは気絶か意識不明の重体だけで済ませる気満々なのに勝手に突っ込んできやがってさ。しかもオレが他のやつ相手取ってる時に」

「あー、アホじゃなぁ。今なら殺れるって勘違いしたがか」

「そういうこと。ナイフと木刀がカンカン打つかってるとこになんで突っ込んでいくかね、何も見えてないくせに。つまりさぁ、ほぼほぼ同士討ちだから、銀さんは今も善良な一般市民ですよ」

流れてゆく素晴らしい立派な言い訳は、耳から耳へと滑っていくだけだ。言い訳を終えた銀時が、ちらりと見遣ったキャリーケースを、坂本も見る。その中に入っているゴミは、急ぎ片付け、無かったことにしなければならない。なにせ今は、戦時ではないのだから。

「…仕方ないのう」

そう、仕方がない。鬼が善良な一市民として生きていくためには、多少のズルは仕方がないことだ。

「わしは蹴った話けんど、地球の動物の標本が欲しい奴が宇宙にはいるらしいぜよ。ここなら、」

だから、胸糞悪くてもメモ紙は捨てられなかった。万が一の時に、それはあまりに便利なゴミ処理場だった。

胸元から出した紙切れを、坂本は銀時に手渡す。

「そのゴミ、くるめてくれるかもな」

「…あんがとよ」

地図を暫く見て、指し示す場所がどこか当りが付いたらしい。立ち上がり、またガラガラとキャリーケースを押して歩き出した銀時に坂本は大声を掛ける。

「今日は運が良かっただけじゃき!次からはちゃんと気を付けんといかんぜよー!」

こうも便利なゴミ捨て場は、そうそう無いのだから。もっとしっかり、一般人をしてもらわねば困るのだ。あの場所で、あの子供達と一緒に笑っていくためにも。不必要にその化けの皮を剥がさない方が良いに決っているのだから。

面倒くさそうに去っていくその背中を坂本は見送る。その背が見えなくなった所で、扉が開き何人かのキャバ嬢達が声を掛けてきた。

「坂本さーん!遅いから財布が帰っちゃったかなって心配しちゃったじゃない!まぁ財布は私達が預かっているんだけどね!」

「坂本さんが頼んだ料理も、まだまだ余っているんですよ。…あれ?坂本さんのお客さんは帰っちゃったの?また金蔓が増えたかと思ったのに、残念だわ」

「あぁ!!はよぅ美味い酒がのみたいのう!!」

突然の坂本の大声に吃驚しつつも、二人はにやりと笑い坂本を店内へと誘った。

「事情は分からないですけど、飲みましょう!ぱーっと!」

「そうだね、飲もう!飲もう!ぱーっと!」

「おー!飲むぜよー!皆も飲むぜよー!!」

坂本の追加注文にキャバ嬢達は目を輝かせ、酒の力によって無礼講のどんちき騒ぎが始まる。

「そういえば、誰が来てたんですか?」

酒瓶からラッパ飲みというキャバ嬢にあるまじき一気飲みを披露した彼女の質問に、坂本もがぶがぶと酒を煽り答える。

「んー、気にしな、気にしな!!」

深追いする気が無いらしく、無意味に花火の突き刺さったド派手な巨大なケーキが現れると、一つ結びの彼女はもうそちらに気を取られていた。

「酒が不味くなるばあの話じゃ」

小さく独り言ちて、坂本はまた度数の高い酒を胃に流し込んだ。苦々しい酒でも、眠るために飲む酒でもなく、笑って飲んでいた酒を思い出しながら、一気に。

とろけるような焼け付くような香り高いその味わいは、しかし、やはり不味かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この後、彼は優秀な副官から見事なボディーブローを食らう。そして自身の生命保険で全てを支払うのであった。





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