俺も魔法科高校に入学する 作:フリーザ様
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翌日。新人戦開始である。達也は雫のCADを調整していた。
「どうだ?」
「んっ……万全。自分のより快適」
と、雫は満足そうに言った。
「いよいよだな、雫」
「うん」
「よし、頑張れ!」
「うん、頑張る!」
と、達也は送り出した。
○
「隣、空いてる?」
「アラ、深雪。空いてるわよ」
エリカの隣に座る深雪。そのエリカにはレオが座っていた。で、深雪の隣にはほのか、大輝、美月、幹比古と座っている。
「……ほのかさん、準備はいいんですか?」
「大丈夫です。私のレースは午後からだから」
美月に問われて、ほのかは少し、硬い表情で答えた。
「ほ・の・か。今から緊張していては、試合までもたないわよ?」
「うっ、分かってるんだけど……」
「出鼻でミスったらどうしよう」
「大丈夫よ、ほのかなら。お兄様もそう仰っていたでしょう?」
「う、うん……」
「でも、本番は自分の力でやらなくちゃいけない……達也さんはレース中は助けてくれない」
「レースのことを考え過ぎないように、こちらを観に来たのでしょう?今は雫の応援をしましょう」
「……ウン、そうよね」
「とはいうものの、雫は勝ち上がって私だけ一回戦負けしたらどうしよう。周りから比べられたらどうしよう」
「…………どうしよう」
「真田くん、ほのかの緊張を煽るのやめてくれるかしら?」
ジト目で大輝を睨む深雪。が、大輝はまったく気にした様子なく口笛を吹いた。
「いや〜、二科生で良かった〜。負けても『あいつは二科生だから仕方ない』みたいになるし。その点、大変ですね一科生の方は」
「やめてぇー!」
「大輝、やめたげて」
エリカが止めるが、大輝はニヤニヤしたまま止まらない。と、その大輝の肩を後ろから摩利が叩いて言った。
「そう言うお前はどうなんだ?緊張してないのか?」
「オヴェエエエエエエエ‼︎」
「吐いたァッ⁉︎」
思いっきりゲ○をぶちまける大輝。予想外の反応に摩利は思わず引きつった。
「ち、ちょっと!大輝さん⁉︎」
「どんだけ緊張してんのよあんた!」
「光井さんよりお前の方がよっぽど緊張してんじゃねぇか!」
「あっ…やべっ、なんか、僕……」
「ああああっ!ミキ!待って袋あるから……!」
「僕の名前は幹比オヴェええええええ………」
「ギャアァァァァァッッッ‼︎‼︎」
摩利と後ろに座っていた鈴音と真由美が大輝と幹比古を保健室みたいな所に連れて行った。
○
保健室。寝込んでる大輝の前に真由美と摩利が仁王立ちしている。
「だぁかぁらぁ!あれだけ練習したんだから大丈夫だって言ったじゃない!なんで吐くのかな!」
「ていうか!車を木刀でカチ割ろうとするほど度胸のある癖になんでたかが九校戦で、しかも前日に吐くまでガッチガチになる!」
「そもそも、もう桐原くんよりも強いんだしあなたがいつも通りやれば負ける要素なんて皆無なのよ⁉︎」
「分かったらシャキッとしろシャキッと!」
だが、大輝の身体の震えは止まらない。すると、摩利はため息をついて言った。
「仕方ないな……。あれだ。手の平に人って字を書け。そうすれば多少は……」
「そんなん聞くわけねーだろ寝ぼけんのも大概にしろ」
言われた瞬間、摩利は腰にあるあの剣みたいなのを抜いた。
「殺す!絶対殺す!」
「落ち着いて摩利!まだ安静にしてなきゃダメ!」
と、真由美が摩利を鎮めようとする間、大輝は幹比古に言った。
「悪いな幹比古……なんかあげちゃって……」
「ううん……平気。ていうか、相当緊張してたんだね」
「ああ。泣きそうで吐きそうだよ今」
と、涙目で言う大輝だった。
○
雫は無事に優勝。続いて、ほのかのバトル・ボード。モニター越しに大輝は生徒会組+摩利と見ていた。いや、見てねーなこいつ。摩擦で皮膚から血が出るほど、手の平に「人」の字を書き続けていた。
「今度は光井の番か。これは中条が担当したんだったな?」
「ええ」
摩利が真由美に聞いた。で、試合開始。その直後、閃光玉でもぶん投げた様に水面が眩く発光した。その隙にほのかが前に躍り出る。そのまま一気に独走態勢に入った。
「……決まりだな」
「……誰が考えたの、この作戦?」
摩利、真由美と呟いた。
「司波くんですが」
それに鈴音が答えた。
「えっ、でも達也くんは、この競技を担当してないはずだけど」
「作戦の具申は光井さん本人からです。しかし起動式のラインナップを含め作戦プランを作ったのは司波くんだと」
「次から次へとやってくれるな……」
摩利が不機嫌そうに言った。
「過去9年、誰も思いつかなかった作戦ですから、ここは素直に感心すべきところかと」
「感心してるさ。だから癪に触るんじゃないか」
と、鈴音に指摘され、尚更不機嫌になる摩利。
「まぁ、作戦なんてやったもん勝ちですから。一回きりの作戦だと尚更」
「お、珍しくまともなこと言ったな大輝……ってオイ!何してるんだ⁉︎」
「? 渡辺先輩の言った通り、『人』を手の平に刻んでいますが……」
と、あっけらかんという大輝。が、緊張の余りかやり過ぎで指が手の平を抉って骨が見えている。
「刻み過ぎだろ!」
「はぁ……リンちゃん。治癒魔法お願い出来る?ついでに頭の方も」
「分かりました」
なんとか治った。
○
その後。一高の三年生幹部は、スピードシューティングの結果を見てため息をついた。
「森崎くんが準優勝したけど……」
「あと2人は予選落ち、か……」
「男子と女子で逆の成績になっちゃったわね……」
真由美と摩利が呟いた。
「そうとも言えません。三高は一位と四位ですから、女子で稼いだ貯金がまだ効いています。あまり悲観し過ぎるのもどうかと」
と、鈴音が言うと、十文字も頷く。
「………そうだな。市原の言う通り、悲観的になりすぎるのもよくない。元々、女子の成績が出来過ぎだったんだ。今日のところはリードを奪っただけでもよしとしなければ」
「しかし、男子の不審は早撃ちだけじゃないわよ。波乗りでも予選通過女子二名に対して、男子一名……」
真由美がまたため息をついた。
「このままズルズルと不振が続くようであれば、今年はよくとも来年以降に差し障りがあるかもしれん」
「それは、負け癖が付くということですね?」
「その恐れがあるだろう」
鈴音が聞くと、十文字は頷いた。
「いや、それは大丈夫かもしれんぞ」
そこで、摩利が口を挟んだ。
「どういう意味だ?」
「明日のクラウド・ボール、大輝が出る」
「………あの二科生か。なぜ大丈夫と言える?」
「それは……どうだろうな。理由はないんだが……勘?」
十文字の頭の上に「?」が浮かぶ。すると、真由美も口を挟んだ。
「そうね。確かに真田くんは期待できるわ。とても、魔法なしでアレとは思えないほどね」
練習を一緒にしていた真由美は思い出しながら言った。
「そうか……。分かった。つまり、その真田が勝てば、二科生なのに優勝、ということになり、他の選手にも発破がかかると言うことだな?」
「あ、ああ。そういうことだ」
摩利が返事をすると、十文字は頷いて言った。
「わかった。その真田に期待しよう」
大輝が聞いたらゲ○どころか内臓もろとも吐き出しそうな話だった。