俺も魔法科高校に入学する 作:フリーザ様
<< 前の話 次の話 >>
8月1日。そんなこんなで、出発する日になった。達也は外で遅れてる人を待っている中、深雪は不機嫌そうにバスの中にいた。
「……………」
「ええと、深雪?お茶でもどう……?」
「ありがとう、ほのか。でも、ごめんなさい。まだそんな喉は渇いていないの。私はお兄様のように、この炎天下に、わざわざ、外に立たせられていたわけじゃないから」
「あ、うん、そうね」
「………まったく、誰が遅れて来るのか分かってるんだから、わざわざ外で待つ必要なんてないはずなのに……。何故お兄様がそんなお辛い思いを……」
と、言ったところで、「フンガァ〜!」といびきが聞こえた。一番後ろの席をフルに使って爆睡している大輝だった。それを見るなり、深雪は無言で立ち上がった。
「待って!落ち着いて深雪!」
「そうだよ。ダメだよ」
「離してほのか、雫!お兄様が機材で狭くなった作業車で移動してるというのにこの野郎は本当にこの野郎!」
「わけがわからないよ!」
が、一番広い後ろの席を占領されてしまっては、確かに邪魔だ。さっきまで前の席で花音の愚痴を聞かされていた摩利が立ち上がり、大輝を抱き抱えると、一番後ろの席の背もたれの後ろにあるスペースに放り込んだ。
「じゃ、行くわよ」
真由美の台詞で、バスは動き出した。
○
走行中。バスの中はそれなりに盛り上がっていた。と、いうか、修学旅行に向かう中高生の飛行機とか新幹線の中みたいになっていた。そんな中、緊迫した声が響いた。
「危ない!」
叫んだのは花音だった。彼女の声につられて全員が窓に目を向けた。大型車が火花を散らして、スピンしている。そして、それが壁に激突し、宙返りしながら突っ込んできていた。
バスは急ブレーキをかけて停止。直撃は避けた。だが、その車は炎を上げながらバスに向かってくる。
「ふっ飛べ!」
「きえろ!」
「止まって!」
と、花音、森崎、雫が魔法をかけようとした。が、無秩序に発動された魔法が事象改変を働きかけ、事故回避が妨げられた。
「バカ、やめろ!」
それに気付いた摩利が声をかけ、すぐに魔法を中止させた。が、車はこっちに迫って来ている。
「十文字!」
摩利が声をかける。だが、無秩序に魔法式が重ね掛けされた空間は、キャストジャミングの影響下と類似した状態になっている。炎と衝突の両方を防ぐことは難しかった。すると、その様子を見ていた深雪の耳元で声がした。
「妹、炎の処理は任せた」
「えっ? さ、真田くん⁉︎」
何する気?と、聞く前に大輝は窓ガラスをぶち破って木刀を構えて車に向かって走り出した。
「あれは……⁉︎」
「大輝⁉︎」
花音、摩利と声を漏らす。大輝は木刀を構えつつ走った。そして、スンッと静かな音を立てて、木刀は縦に振り下ろした。振り下ろされて1秒くらい経ってから、車はシキンッと綺麗に真っ二つに縦に裂けた。
だが、その後に爆発が起こる。大輝は後ろに跳んで、爆風から逃げて、バスの手前まで戻った。深雪は大輝に頼まれた通り、火を消し、十文字は念のため、バスに防壁の魔法を発動していた。
「みんな、大丈夫?真田くんも平気?」
真由美が窓から顔を出して、大輝の安否も確認した。
「平気ですよ、これくらい」
「お尻に火、着いてるけど」
「えっ」
自分の尻を見ると、割と激しく燃えていた。
「ああああ!焼ける!焦げる!灰になる!」
と、騒いでると深雪がまた魔法で水をぶっかけた。
「そう、危なかったけどもう心配いらないわ。真田くんと深雪さんと十文字君のおかげで大惨事は免れたみたい。怪我をした人は、シートベルトの大切さを噛み締めて、次の機会に役立ててね」
と、真由美は仕切り直す。その言葉で、緊張感と恐怖から解放され、全員がホッとした表情を浮かべる。大輝は「しんどっ」とボヤきながらバスに戻った。
「大輝、お疲れ様」
摩利が声を掛けてきた。
「いえ、別に」
「お疲れ様、真田くん」
「よくやってくれたな」
真由美、十文字にも賞賛の言葉をもらった。
「でもすごいのね。木刀であんな綺麗に車を斬るなんて」
興奮した様子で花音も言った。
「いや、木刀じゃなくてもすごいだろう。日本刀でも普通はできない。どんな魔法を使ったんだ?」
「魔法は使ってませんよ」
「は?」
「自力です。まぁ、流石に木刀オジャンにしましたけど」
と、大輝は刀身の上半分が綺麗に無くなってる木刀を見せた。
「いやいやいや、にしてもおかしいわよ」
「じゃあ俺が魔法を使ったように見えましたか?」
「それは……」
事実、使っていない。だから、誰にも見えなかった。
「まぁ、とにかくお疲れ様」
その言葉だけ受け止めて、大輝は一番後ろの席に向かった。瞬間、摩利、真由美、花音は赤面した。
「さっさささ真田くん!」
「なんすか?」
慌てた口調の花音。だが、大輝は真顔で振り返る。
「お、お尻!隠して!」
「はぁ?」
何言ってんだこいつ、とでも言わんばかりに大輝は自分の尻を見た。さっきの炎でズボンとパンツが燃えていて、尻が丸出しだった。とりあえず、本気で自殺を考えた大輝だった。