入学しました
国立魔法大学附属第一高校入学式。その会場、前半分が一科生、後ろ半分が二科生が座っていた。二つの生徒の違いは早い話が、優等生か劣等生か。別に場所を定められたわけではない。それでも別れている。本能的に別れているのだ。優秀な者は前へ、劣等生は後ろへ。
だが、それをまったく無視した二科生が一人いた。しかも、ど真ん中の一番前。アイマスクを付けてガムを噛みながら寝ていた。
周りからはヒソヒソと「あの子、二科生よね……」「よくもまぁ堂々と寝てられるわね……」と、やっていた。だが、まったく気にした様子なく、「zzz……」といびきをかいている。その様子を、覗き込むように北山雫は顔を見た。
「どうしたの雫?」
光井ほのかがその雫に聞いた。
「いや、すごい度胸だなぁと思って」
「確かにね。他の二科生はみんな後ろにいるのに……」
「ていうか、爆睡って……」
「うん。スゴイね……。まぁ、それより私達も早く座ろうよ」
「そうだね」
2人はテキトーに近くの椅子に座った。
○
入学式の後。さっきまで爆睡していた少年は自分のクラスを確認しに行った。
「………………」
E組だった。それだけ確認して帰宅した。
(ジャンプ買って帰んなきゃ)
そう心の中で呟いて。どうでもいいよね、うん。
○
登校した。少年は教室に入ると、席に着いた。で、アイマスクを着ける。その時だ。前の席の奴に肩を叩かれた。
「おい」
「あ?」
寝ようとしてたのに起こされたから、思わず不機嫌な声が出てしまった。が、別に気にした様子もなくそいつは言った。
「俺はお前の前の席のもんだ。西城レオンハルトだ。よろしくな。レオでいいぜ」
いきなり自己紹介され、困惑したが、入学してから友達を作ろうというアレだと理解すると、言った。
「真田大輝」
「おいおい、自己紹介それだけかよ。もっとこう……趣味とかねぇの?」
「趣味か……人を苛めることだな」
「お、おう……えらく歪んでるなお前……」
軽く引かれた。すると、後ろから肩を叩かれた。振り返ると、男がまたいる。
「お前、真田と言ったか?」
「いきなりなんだよ」
「いいから答えろ」
「や、いきなり初対面で自己紹介もなしにそんなん言われても困るわ。つーか何、誰お前」
「……それもそうだな。すまない。司波達也だ」
「真田大輝だ」
「………真田、か。すまないが、あとで話しさせてもらえないか?」
「嫌だ」
「え?嫌なの?」
「話長そうなんだもん」
「早く終わらせるから」
「何にせよ嫌だ」
「そ、そうか……」
予想外の返答に達也は少し困ったものの、それならまぁいいかとすぐに無表情になった。
「お?何?司波くんの知り合い?」
近くで立っていた赤い髪の女の子が陽気に声をかけてきた。
「いや全然」
「あれ?そうなの?まぁいいや、私は千葉エリカ。よろしくね」
「ん、おお。俺は……自己紹介3回目はめんどくせーな。前後のこの2人に名乗ったから知りたかったら聞いてくれ」
「大丈夫、さっきの聞こえてたから」
と、自己紹介した。
○
その日の昼飯の時間。大輝は達也、レオ、エリカ、美月の4人で食べている。
「真田くん。ご飯中はイヤホンを外しなよ」
エリカに注意を受ける大輝。だが、大輝の返事はない。
「真田くん?」
「……………」
「大輝くん!」
それでも返事はない。と、思ったらようやく変化があった。
「ぷふっ」
「何で笑ってんの⁉︎バカにしてる⁉︎」
その時だ。
「お兄様!」
声がして、5人とも振り返ると入学式で答辞をしていた少女が、クラスメイトと思われる生徒を数人連れて立っていた。が、爆睡していた大輝からすれば全員誰だか知らない。
「………お兄様?誰が?」
「司波くんよ。あの子、司波くんの妹なの」
大輝の台詞にエリカが説明する。
「ふーん……お前、妹なんていたんだ」
「ああ。一応な」
「可愛いじゃん」
「やらんぞ」
「いらねーよ」
「というか、一応答辞をやっていたんだが…初めて見たのか?」
「ん?おお。入学式は寝てたからな」
「自由だなお前……」
と、達也が呆れた時だ。妹の深雪は達也のところに来る。
「お兄様!お昼をご一緒してもよろしいですか?」
「ああ。俺は構わないが……席は空いてないぞ」
達也がそう言うと、一科生の生徒の男の方の数人が遅れてやってきて言った。
「おい、そこのお前」
大輝に言っているようだった。
「僕たちとかわれよ」
言われても、大輝は何も言い返さない。目付きを鋭くさせて睨む。
「なっ……何言ってんだテメェ!」
レオがガタッと立ち上がるが、それを美月が宥める。すると、大輝にまた変化が。
「ぷふっ」
「や、だから何笑い⁉︎」
思わずエリカがツッコんだ時だ。その一科生の男子がツカツカと大輝の胸ぐらを掴んだ。
「おい!聞いてるのか!」
そこでようやくイヤホンを外す大輝。
「あ、何?俺に話しかけてる?」
「そうだ!」
「もしかしてずーっと話しかけてた?だったら悪かったな」
「いや、話しかけたのはついさっきだ!」
「で、何?なんか用?」
「席を代われって言ってるんだ!」
「嫌」
それだけ言うと、大輝はイヤホンを耳に戻した。その態度に思わずエリカとレオがプフッと吹き出した時だ。顔を真っ赤にして男子生徒は怒鳴った。
「オイ!二科生の癖に生意気だz……‼︎」
と、そこまで言ったところで、顔面を大輝の食ってたラーメンの器の中に突っ込まれた。
「ゴアッ……‼︎」
「お前うるせーよ。今、ワンパンマンのドラマCDいいとこなんだから邪魔すんなよ」
音楽じゃねーのかよ!と、誰もがツッコミたくなったが、堪えた。
「ゴボッ……ゴボボッ……!」
「てかオメーどうしてくれんだよ。このラーメンもう食えねーじゃねーか」
「ゴボボボッ‼︎」
「まぁ俺は?優しいから?謝れば許してやらんでもないけど?」
「ゴボボ!ゴボ!ゴボボ!」
「あ?何?何言ってっか全然わかんねーよ」
「ご、ゴボボボボ………」
と、急に男子生徒の動きが鈍くなる。空気がなくなってきたからだ。
「森崎くん!」
1人の生徒が声を上げた時だ。達也が大輝の肩を掴んだ。
「その辺にしとけよ」
「いや、ここからが拷問の楽しいとこだろ」
「いいから。もう俺たちはみんな食い終わったし、いいだろ」
「………」
渋々頷き、5人はその場をあとにした。