「パーソナルメディア時代」の来店促進戦略

2018年06月19日



【POINT】

  • デジタル時代の今だからこそ、実店舗の価値は大きく見直されている
  • 認知を促すマーケティングは、顧客に接触するメディアを顧客の置かれている状況に応じて使い分ける必要がある    
  • 来店につなげる仕掛けとして、活用すべきがコンテンツである

インターネットの黎明期。インターネットを使ってモノを販売することは、ECサイトを作ることを指していた。しかし、だれもが日常生活の中で意識することなくインターネットを利用し、デジタルデバイスに触れるようになったいま、デジタルを使った物販は大きく姿を変えた。新しいマーケティングのアイデアが数多く生まれ、顧客を実店舗に呼び寄せる優れた事例が生まれてきたのだ。

実店舗の価値が見直されてきている

実店舗の価値が見直されてきている

ECサイトと実店舗をどちらも運営している多くの小売業者は、店頭購入顧客の購入ボリュームの方が大きいことを経験則として知っている。ECサイトを訪れる顧客は、「必要な商品だけを買う」ことが多く、店頭では多くの商品を見渡して、「いまどうしても必要ではないけれど、気になったから買ってみる」顧客が多いためだ。この傾向は、スーパーマーケットなど日用品を多く扱う事業者になるほど強い。一方、ブランドショップなど「商品指定」のファンを抱える事業者ではそこまで目立たないケースが多い。

 

このため、来店による売上への効果は、ビジネスモデルによって異なってくるように見える。とはいえ、顧客に店舗を訪れてもらうことは、商品のファンをブランドのファンへとより親密な存在に引き上げるためのアクションでもある。

 

店舗運営には大きなコストがかかる。かつて、ECが急速な伸びを示したころは、店舗の縮小とEC化という方向性を打ち出した企業もあった。しかし、商品取り置きサービスによる「ついで買い」の分析や、EC-店舗回遊顧客の分析などで、別の側面が浮かび上がってきた。

 

前者では、「ついで買い」の購入金額が、取り置き商品より多いことがわかった。後者では、ECと店舗をどちらも利用する顧客の購入金額が、片方だけを利用する顧客より多いことがわかった。さらにEC事業者の中には、在庫を倉庫にしまっておくだけにするより、実店舗を設けて店頭販売を兼ねた方が良いのではないか、と考えるところも出てきた。こうして今、店舗の価値は大きく見直されるようになった。

デジタルで「認知」を獲得する

デジタルで「認知」を獲得する

では、顧客を実店舗に呼び寄せるために、どうすればよいのか。

まずはカスタマージャーニーにおける認知の段階から考えて見よう。多くの小売業者がさまざまな取り組みを行っているが、カギを握るのはスマートフォンの活用だ。自宅でも、通勤時間にも、あるいは店頭でも、顧客はスマートフォンを操作できる。20年前、朝の通勤時間には新聞を広げているビジネスマンが多かった。しかしいまでは、多くの人がスマートフォンを操作しており、最も身近なメディアはスマートフォンになった。実際に、博報堂DYメディアパートナーズの調査によると、スマートフォンの利用時間は大きく伸びている。

リビングの主権を握ったモバイルは家庭外へも浸食

PCやテレビも依然重要なメディアだが、スマートフォンの影響も重要だ。スマートフォンユーザーが極めて大きなターゲットになる商品もある。たとえば、新生児向けの商品。授乳させたり子どもを抱いてあやしたりしながらスマートフォンを見ているママたちは多いという。

子どもあやしながらスマートフォンを見ているママたちは多い

「業務時間中になると、テレビは見られない」、「業務内容によってはラジオが効く」などの推論や経験則も生きてくるだろう。それにデジタルが加わった。認知を促すマーケティング施策は、顧客の置かれている状況に応じて顧客と接触するメディアを使い分ける必要がある。中でもスマートフォンには、個人を特定して広告配信やプッシュ通知できるというメリットがある。

コンテンツで「認知」を「共感」へ

コンテンツで「認知」を「共感」へ

次に、来店につなげる仕掛けをつくる。ここで生きてくるのがコンテンツだ。単なる商品説明ではなく、顧客の感情に訴えかける映像やキャッチコピー、知的好奇心を満足させるテキスト、もしくは笑えるような面白いものであっても良いかもしれない。ブランドにふさわしい内容のコンテンツで、認知を共感へと高めていく。

 

この段階でも、cookie情報などで顧客データは蓄積される。彼らの興味の対象を知ることで、最適な広告やコンテンツへの誘導というアクションを取れる。そして、より興味を持ってくれた顧客は、会員登録やスマートフォンアプリのダウンロードなどの施策を通じて、個人情報を提供してくれるだろう。スマートフォンアプリそのものも、顧客にとって楽しく便利で有益なコンテンツと位置付けることができる。多くの企業は、彼らに対して来店時の割引クーポンなどの施策を打ち、成功を収めている。そして、先進企業はその一歩先を行っている。

デジタルマーケティングの本質と構造

データの活用で顧客をより深く知る

データの活用で顧客をより深く知る

先進企業は、顧客をより深く知ることで、アプローチするタイミングを最適化するよう努力している。自社の保有する顧客データだけではわからない情報でも、サードパーティーのデータプロバイダーから得られれば、顧客の趣味や生活スタイルなど、周辺情報を補強できる。それがわかれば、「顧客が買いたくなるタイミング」で、効果的にプロモーションを打てるだろう。

 

その際に、たとえば会員アプリ、ECアプリやサイト、会員カードなど複数のコミュニケーション手段がある場合、それらの情報は完全に連携させておく必要がある。データソースを軸にセグメントを作って顧客群に提案するのではなく、軸は顧客個人に置く。顧客にひも付けてデータを扱い、データから顧客を知り、顧客個人に対して提案する。

 

たとえば、顧客が週末の早朝に草野球を楽しんでいることがわかっていた場合、スポーツドリンクのクーポンを前日のうちに届けておく、といったプロモーションだ。ECでは配送が間に合わないところだが、「ついで買い」を期待できる実店舗ならその価値が生きてくる。

 

加えて、「顧客が買うべき理由」を伝えることができれば理想的だ。たとえば、日焼け止め化粧品は、夏によく売れる。しかし、秋になっても紫外線の強い日はあり、雪山は紫外線を反射するため場所によっては夏以上の紫外線を浴びる可能性がある。こうした事実を啓蒙するコンテンツを用意し、たとえばスキー旅行の広告に反応した顧客に対して、適切にプロモーションするなどの施策を打てる。

 

最近では、スマートフォンと連携するガジェットを通して、顧客の健康状態をつかむ技術も生まれてきた。医療やヘルスケアの分野で活用が期待されている分野で、それらの技術を活用できれば、得られたデータを健康商品やスキンケア商品のプロモーションに生かすことも期待できる。

 

極めて個人的な情報だが、スマートフォンという「パーソナルメディア」を使いこなす消費者にとって、「自分のためだけの情報を得る」ことは日常になっている。「有益で便利な情報を得たり、特別価格の提供を受けたりするためならセンシティブな情報を提供してもよい」と考える顧客も増えてきた。顧客を多面的につかむことができれば、あとはアイデア次第。デジタルを使って、実店舗を生かす、これまで思いも寄らなかったさまざまな施策が、ここ数年のうちに誕生してくるはずだ。

 

UNITE編集部


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