前田:また佐藤航陽さんの話になりますが、彼とランチをしながら2時間議論していた時、今、企業は人から何をもらわなくてはいけないのか? ということが3段階に分けて変わってきているな、という話で盛り上がりました。
1段階目は、「可処分所得」。企業はお金をより多く自社に使ってもらう、ということを一生懸命やってきた。それが終息してきて、2段階目は「可処分時間」の奪い合い。僕らはGoogleやLINEにお金を払っていないですよね。彼らは、僕らの時間を奪い合ってきたんです。
では、次はどうなるんだろう? と考えると、おそらく、「可処分精神」的なものなのではないかと。人が自分の精神をつい割いてしまう、心から好きと思える、共感できるヒトやサービス、事業が繁栄するだろう、と。
成井:なるほど。「可処分時間」と近い?
前田:そうですね、結局、可処分精神→可処分時間に発展する、という意味では。堀江さんや西野さんがやっていることがまさにそう。結果的に可処分時間を奪っているんだけど、それは、マインドシェアを先に奪えているから。一日のうちに西野さんを考える回数が多いとか、まさに宗教みたいな感じです。ある一定の頻度でオンラインに投稿するとか、みんなで歌える歌を作るとか、可処分精神を奪える仕組みやコミュニティを考えなくてはいけないと思っています。
成井:前田さん自身もそういう存在ですよね。
前田:まだまだですが……そういう存在を目指しています。幻冬舎の箕輪(厚介)さんが、多分、僕が次の本を出したとして、白紙でも3万部くらいは売れるんじゃない、という冗談を言ってくれるんですが、結構本質的な考え方だなと思います。
成井:前田さんだから、みんな買うんですもんね。いわゆるファンビジネス的なこと?
前田:コミュニティを先に作って、可処分精神を継続的に、かつ再現性を高くする、ということですね。アーティストの中にもそれをやろうとしている人はいますが、どうしても継続性が欠けてしまうんですよね。概念というか、神様みたいな存在になることができれば、ビートルズのように永遠になると思うけど。
浜崎あゆみさんなんかは、それに成功した例ではないかと思います。ただ時代のニーズは変わるから、もう一度、浜崎あゆみのような人を作ろうと思っても難易度は高いと思っています。エンターテインメントはビジネスとしての再現性も低いです。それらを強烈に担保する武器は「コミュニティ」であり、コミュニティの中に存在する「人と人の絆」。可処分精神を奪える強いものが生き残れると思います。
成井:すごく共感できます。今は企業よりも個人が認められる社会ですよね。箕輪さんなんかもそうですけど、SNSでアイディアをどんどん発信して個として目立っている。
企業に属して数億円の売上を作っても、個人に入るのは数%だから、それなら自分でやったほうがいい、と思ったりします。これは本のテーマでもあるんですけど、自分を“売れる商品”にできれば、会社が潰れても生き残れるし、何歳になっても価値が落ちないですよね。定年という概念がなくなる。私は何歳から始めてもいいから、自分を商品にしたほうがいいと思っています。
(成井さんの別記事『DeNAであり得ない損失を出した新人OLが起業家になるまで
』はこちらから http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55477)
<取材・文/渡辺絵里奈>
成井五久実(なるい・いくみ)―株式会社JION代表取締役。起業家。1987年福島県生まれ。東京女子大学卒。起業家の父、心理カウンセラーの母の元に生まれ、20歳の頃から起業を志す。新卒で株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、デジタル広告営業を経験。その後、トレンダーズ株式会社に転職、100社以上のPR・女性マーケティングを担当する。2016年、28歳で株式会社JIONを設立。情報サイト運営を通し、立ち上げからわずか5ヵ月で黒字化を達成。会社設立から1年後の2017年、3億円で事業売却(当時の女性起業家最年少・最短・最高額実績)。現在は、株式会社ベクトルグループ傘下の会社社長を務める傍ら、女性起業家を支援する活動にも従事。自らの経験を伝えることで「全ての女性に夢を叶えてほしい」との思いから、キャリアカウンセリング・コーチングを手がけている。メディア運用や広告をテーマにした講演も全国で開催。今後は、女性のキャリア構築に関するセミナーの主催も予定している。