成井:DeNAは起業したい人が入社するわけじゃないってお話をしましたけど、私自身は大学生の頃から「いつか絶対に起業する!」って決めていました。ある程度自信もあったのに、いざ入社してみたら周りは東大・京大ばかりでみんな基礎的な能力が高い。まったく太刀打ちできず、悔しい思いをしました。常に優秀か優秀でないか、問われているような環境でしたね。
でも、ストレスに打ち勝って成果を残した者には、それに見合う大きな対価の挑戦を与えてくれる土壌があったから、みんな疲弊せずに頑張れたんだと思います。
前田:挑戦はしやすい文化でしたよね。
成井:はい。私はECサイトの営業からスタートして、モバゲーの営業になり、その次は新規事業推進室に行きたいという目標があったんですけど、ある日とんでもないミスをしてしまって……。会社に2000万円の補填をさせる、という大失態を犯して新卒入社社員初の減給処分になったんです(詳しくは「DeNAであり得ない損失を出した新人OLが起業家になるまで」)。
これは、もう無理だなと思って「逃げる」という選択をしました。女性は20代の成果で30代のキャリアが決まると思っていたから、焦ってしまったんですね。このままでは人より頭一つ抜けるのは難しいから、と逃げるようにトレンダーズに転職したんです。前田さんや同期たちが会社の数億円もの予算を使って仕事をしているのに対し、自分はいち商材を扱っている、という状況にも乖離を感じました。
前田:そうだったんですね。
成井:はい、実は。南場さんの言葉で「自分の人生の選択を正解にするのは、自分しかいない」というのがあるんですけど、これを最終出社日に当時の人事部長に言われて。ここで初めて外的刺激に翻弄されるのではなく、自分の主体的な意識で人生を歩んでいくんだ、と人生に対して能動的に動けるようになったんです。トレンダーズに入ってからは、戦略的に自分が得意とする営業力に磨きをかけていって。DeNAを辞めたことは起業への大きな第一歩でしたね。
<後編へ続く>
(取材・文/渡辺絵里奈)
成井五久実(なるい・いくみ)―株式会社JION代表取締役。起業家。1987年福島県生まれ。東京女子大学卒。起業家の父、心理カウンセラーの母の元に生まれ、20歳の頃から起業を志す。新卒で株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、デジタル広告営業を経験。その後、トレンダーズ株式会社に転職、100社以上のPR・女性マーケティングを担当する。2016年、28歳で株式会社JIONを設立。情報サイト運営を通し、立ち上げからわずか5ヵ月で黒字化を達成。会社設立から1年後の2017年、3億円で事業売却(当時の女性起業家最年少・最短・最高額実績)。現在は、株式会社ベクトルグループ傘下の会社社長を務める傍ら、女性起業家を支援する活動にも従事。自らの経験を伝えることで「全ての女性に夢を叶えてほしい」との思いから、キャリアカウンセリング・コーチングを手がけている。メディア運用や広告をテーマにした講演も全国で開催。今後は、女性のキャリア構築に関するセミナーの主催も予定している。