前田:それから、「演者であれ」「演者になるな」という相反する2つのことも教わりましたね。交渉の話は前者で、目的のためなら手段は問わないということ。相手を好きか嫌いかは関係なく、好かれる自分であれ、ということです。でも二人で飲みに行ったりすると、逆に後者のことを言われて。
「前田は演者になりすぎる」と。結構嫌な時は嫌と言ってしまうし、そんなことないんだけどな(笑)。でも南場からはそう見えるのでしょう。僕が未熟、ということです。
例えば、モバゲーを作った川崎(修平・取締役)さんや守安(功・社長)さんなんかは、演者になることが苦手で、感情を表に出すタイプ。例えば一時期、守安さんの離見(世阿弥の言葉で、客観的に自分を見ること)能力について、どうなんだろう、と疑問に思ったことがあります。他者への想像力とか、相手が心地よいコミュニケーションというものを、どれだけ意識するか、という観点ですね。
でもむしろ、それが一周回って人間的な「余白」になって、周りが支えたくなるのかな、と思うようになったんですよね。「今の時代は『余白』が必要なんじゃないか」と南場が言っていて、そうかもしれないと思いました。
成井:前田さんが意識して「余白」を作っているという話を前に聞いて、わざと余白作っている人なんているんだ!と思って。前田さんが超人に見えましたよ。
前田:よく「前田さんって弱点とかあるんですか?」とか、「完璧すぎて人間味がない」って言われるんですよね。自分では余白だらけだと思ってるんですけど……。人とのコミュニケーションの中で丁寧にそういう欠点を潰しながら仕事しているから、余白が他の人には見えなくなって、相手は自分がいなくてもいいのかと思ってしまうのかも。
「欠点がないと、心から信じてくれる人がいなくなってしまうよ」と南場にも言われました。厳密に言うと、「演者であれ」とは言われたことはなくて、南場の背中を見てそれを学んだんです。でも南場は、それだけでは経営者として大きくなれないと、そういうところを唯一ズバッと言ってくれる人。その意味でも、信頼している相手には特に、余白を素直に出せる自分でなくては、と思いましたね。
成井:確かに、そういうことを前田さんに言えるのは南場さんくらいかもしれないですね。そもそも、前田さんが演じているってことに気づいていない人が大半なのに。
前田:僕は演じているわけじゃないんですけどね。呼吸と一緒だから、もはやどっちが本質かわからない。
成井:南場さんってすごく人を見る目があると言われていますよね。
前田:人を見ると言えば、人材に対する執着心も教わりましたね。人材は、短期的なPLにはフィットしないもので、いい人材を採れば採るほど固定費がかかる。短期的に見ればマイナスに思えることもあります。
会社を経営していると、ついつい短期的なPLに意識が向かいがちですけど、経営者は2~3年、あるいはそれ以上の長いスパンで会社の成長や繁栄を考えなければいけない。こういった、長期視座で自分のリソースを組み立てなければいけない、ということも、南場から教わりました。