佐賀・武雄市図書館に行ってみた(下)来館者増、本当に「高評価」?
- 社会|神奈川新聞|
- 公開:2014/01/21 11:09 更新:2015/12/24 23:49
■公設ブックカフェ
武雄の「成功」を背景に、CCCを公共図書館の指定管理者として選定する動きは、全国に広がりつつある。これに続くのが、CCCと図書館流通センター(TRC)との共同事業体による運営が決まった海老名市の2館。そのうちの1館、市立中央図書館は大幅に改修され、2015年度の再オープンが計画されている。宮城県多賀城市や山口県周南市も選定の方針を示している。
一方で、武雄市のような図書館運営は「公共」のすべき仕事か、との疑問も投げ掛けられている。
「率直に言って、公設民営のブックカフェだと思う」と指摘するのは、慶応大の糸賀雅児教授(図書館情報学)だ。昨年10月末に横浜で開かれた全国規模の見本市「図書館総合展」で発言した。
「集客力を持った『本のある公共空間』を実現させた点はユニークだし、貴重な試みだった」と武雄市を評価しつつも、そもそも「図書館とみることができるかどうか」。自身の調査では、武雄市図書館の来館者のうち、図書館資料を使って調べ物などをしていたのは20%にとどまり、書店やスタバだけを利用する人が大半を占めた。同じ調査を隣接する同県伊万里市で行ったところ、来館者数は武雄の半分以下だったものの、図書館資料の利用者は57%に上ったという。
■ミッション明示
その伊万里市民図書館は、武雄と対照的な存在だ。新しい図書館づくりを目指した市民運動を受け、1995年に開館した。
玄関を入った目立つところに、図書館のミッションが明示されている。「すべての市民の知的自由を確保し、文化的かつ民主的な地方自治の発展を促す」とした運営方針や、日本図書館協会の「図書館の自由に関する宣言」を記した電照式パネルを掲げるのは、全国でも珍しい。
館内を見ると、ほとんどの書架は大人の肩の高さで、特に児童書のコーナーは、大人の胸から膝ほどに低く抑えられている。所蔵する資料を用いたミニ展示も随所にある。例えば▽最近亡くなった郷土史家の功績▽生誕200年の作曲家ヴェルディ、ワーグナーの評伝▽同県の九州電力玄海原発の存在を踏まえた原発関連の本-など。
「伊万里は、市民のための知の拠点という意識が明確に伝わってくる」と、武雄市の住民らでつくる「武雄市図書館・歴史資料館を学習する市民の会」の一人は話す。しかし現実的には、多くの市民にとって、各地の図書館を比較し合う機会は限られている。
■数字先行の懸念
武雄市図書館をどう評価すべきか。実は、その問いは、「評価軸」の欠如という日本の図書館全体を取り巻く問題に直結する。
指定管理者制度に詳しい神奈川大の南学特任教授は「来館者が多ければそれで良いのか、ということが問われていない」と話す。3・2倍に増えた武雄の来館者数には、スタバやレンタル店だけの利用者も含まれているのだ。
「何をその事業のミッションとすべきかが自治体の中で明確化されていないと、指定管理者に対する評価もできない。行政は本来、できるだけ専門知識を取り入れて調整すべき立場なのに、現状は民間への丸投げばかりだ」と、南特任教授は行政の“劣化”を指摘する。
武雄市図書館そのものについては、南特任教授は「従来の図書館の概念を打ち破った」と歓迎する。ただ、それはあくまで「打ち破ったこと」に対してであり、「武雄の形をそのまま海老名に当てはめて良いわけではない」とくぎを刺す。
図書館はいまだ、数字や形式による評価に縛られ、「知との出合い」という重要な役割は見過ごされている。
◆武雄市図書館に対する批判 CCCを指定管理者に選定した過程の透明性や、図書館の利用者証にTSUTAYAの会員証であるTカードを選択制で導入することなどをめぐり「特定企業に対する利益誘導」「個人情報の流用」との指摘がある。図書館の運営に関しては、「館内で600タイトルの雑誌が閲覧可能」と宣伝されているものの、書店部分で販売されている最新号がほとんどで、バックナンバーが保存されない問題も。CCCに支払われる指定管理料は、図書館単独で年間1億1千万円。市の直営時代の図書館運営費は、併設する歴史資料館と合わせて1億2千万円だった(歴史資料館は現在も直営で、年間の運営費は4千万円)。
【神奈川新聞】